ユーリとカナ
「おい、出ろ!」
あれからどのくらいの日にちが経っただろう……、牢の中で一人うずくまっていると、兵士が数人やって来た。
まさかまた死合があるというのだろうか……?
なら今度こそこのチャンスをものにしてみせる……っ!
僕は意気込みも新たに牢を出たが、闘技場とは違うところへと連れて行かれた。
(どこだろう、ここ……?)
そこは連れてこられた場所はまるで高級な宿屋のような廊下で、いくつもの扉が並んでいた。
闘技場の施設の中なのは間違いないと思うのだけど、ここはどこだろう……?
少なくとも僕が容れられていた牢とはまるで別次元な場所だ。
「入れ!」
僕は兵士によってその中の一室へと押し込まれると、そこには先日戦った女性の姿があった。
確か名前は……、カナと言う人だったかな……?
「貴様よく聞け、お前は今日からこの者の所有物となったのだっ!」
数人いる兵士の内の一人からとんでもないことを伝えられた。
な……、何だって……っ!?
僕がこの人の所有物……っ!?
どう言うことだろうか……?
訳が分からない……。
「カナだったか、約束通り優勝の望みとしてそのユーリというやつは確かに渡した。この男を犯そうがどうしようがそれはお前の勝手だが、ここでしてもらっては困る。それだけは言っておく」
兵士はそれだけを言うとこの部屋を出ていった……。
そして、この部屋に僕とカナさんだけが残される……。
奴隷がどんな目に合うのかは僕だって知っている……。
ここでは戦わされていたけど、男の奴隷が女性に買われた場合どうなるか……。
それは女主人が満足するまで性的な奉仕をさせられたり、勃たなくなっても延々と逆レイプをされたり……、最悪サディストだった場合、吊るされて毎日
「あの……カナ……、さん……?」
これからの人生はどうなるんだろうか……?
僕はやや怯えた目で彼女を見ていた。
「取り敢えずはここを出るよ」
カナさんはそれだけを言うと僕を連れて闘技場を出たのだった……。
◆◆◆
闘技場を連れ出された僕は、不安げな表情を浮かべながらとある場所の前でカナさんと向かい合っていた……。
その場所というのは偶然なのかどうか分からないけど、一軒の宿屋のすぐ近くだ……。
まさかここで僕は襲われてしまうのだろうか……?
それとも、鞭打ちをされたり剣で身体を斬り刻まれたりするのだろうか……?
想像しただけで恐怖で身体が震え出す……。
仮にそうだとしても、抵抗しようにも力の差は死合でハッキリと分からされている……。
多分抗ったところでカナさんに組み敷かれてしまうだろう……。
「ユーリ、私はこれであなたを解放する。後は自分のいた所へと戻りなさい」
突然、彼女の口から思ってもみなかった言葉が聞こえてきた……!
僕を解放する……、確かにカナさんはそう言った。
「え……っ!?で……、でも……っ!?」
「あなたの出身が何処かは私は知らない。ここからどのくらいかかるのかも含めて……。だからこれをあげるわ」
カナさんはそう言い、僕の手元に何か袋を手渡された。
これは一体……。
中を見てみるとお金が入っていた……!
しかも、100万エントとかなりの高額だ……!
(1エント=1円です)
「こ……、こんなに……っ!?」
僕は目を疑った……!
「それだけあれば装備を整えたり、元いた場所へ帰るための旅費にもなるでしょ?それとも、足りない……?」
「と……とんでもないです……っ!!」
確かにこれだけのお金があれば装備も整えられるし、故郷のキーヴァという街にだって帰れる……。
それどころか、むしろかなりお金が残るくらいだ……!
「そう、なら良かった。余ったお金は取っておきなさい。あと偽の依頼には気をつけてね。それじゃあ、私はこれからプルックへと向かうから。じゃあね」
「ま……、待ってくださいっ!カナさん、なぜ僕にこんな事をしてくれるんですか……っ!?」
そのまま立ち去ろうとするカナさんを僕は呼び止めた!
なぜこの人は見ず知らずの僕にこんな事をしてくれるのか、その理由が僕には分からない。
逆にこのお金をあげるから自分が満足するまで僕のモノを使わせろと言ってくれたほうがまだ納得がいく。
「人を助けるのに理由がいるの?」
カナさんの問に、僕は何も答えられなかった……。
奴隷から解放された……、僕が理解できた事はただそれだけだった。
「うう……!ぐす……っ!カナさん……っ!本当に……!本当にありがとうございました……っ!!うう……!ううぅぅ……っ!!」
気が付けば目からは涙がこぼれ落ちていた……。
これであの地獄のような奴隷生活から解放される……、自由になれる……。
キーヴァに……、姉さんの所に帰れる……っ!
それが嬉しくてたまらなかった……。
「何にしろ、奴隷生活で体力が消耗しているだろうからこの宿で休んでいくといいよ」
そう言って去っていくカナさんの後ろ姿を、僕は涙を流しながらいつまでも見つめていた……。
僕はあの人のような立派な冒険者になりたい……、そう思いながら彼女が見えなくなったあともその方向をずっと見つめていたのだった。
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