25話 ガスタン防衛戦・八
同時に飛び出したるはキースとミヒャエル。片や獣、片や騎士、互いが放つは必殺の蓮撃。キースは被弾覚悟で突っ込み常に手を出し続ける。致命傷は避け肉を切らせて命を刈り取る為に。お得意の回復魔法で回復しながら圧をかけ続ける。
しかし、それでも届かない。迎え撃つはゼノバースが誇るNo.2、ミヒャエル・ヘイザーその人。着実にダメージを与えていき、経験により厚みが出た思考により危なげなく躱していく。躱した側から切り付け突き刺し、キースの出血は徐々に増えていく。
「クソがっっ!なんで当たらねぇ!!」
当たらない――
「つまらないね、まるで獣だ。単調、単純、動きが素直だ。」
届かない――
「ウルセェェェ!俺はお前を倒さなきゃいけねぇんだよぉ!」
故に――
「児戯に等しい。」
――一蹴。
一瞬のうちに体中に穴を開けられ後退を余儀なくされる。体勢を整える暇もなく蹴り飛ばされ地面を跳ねる。体は痛い。出血も激しい。回復を必死にするが彼我の差は絶望的。かつて味わった武王との差。それに近いものを感じる。世論では武王とNo.2では差がかなりあるとされているが、今目の前にいる男からはそんな世論の評価など吹き飛ばすレベルの圧を感じる。
「お前は私が次の武王に育てるつもりだったのだがな。私には持ちえない飢えた獣の如き闘争心、潤沢な戦闘センス、何よりも誰よりも強く成れる素質。ゾイド様もお前ならば安心して後任を引き継げると言っておられたのに……。」
「はっ!関係ねぇなぁそんな評価!武王を継ぐ?それがなんだ!なんでもかんでも否定してガキ共の一人も守れねぇような奴には俺はならねぇ!ヤイやアルカ!父ちゃん母ちゃん婆ちゃんに恥じねぇ生き方はしねぇ!」
どこまで行っても彼にとってはそこが原点。愛した家族に恥じぬ生き方、自身が守れなかった贖罪を成す。あの日から常にあった、根付いた想い。不器用な男にはそれしか出来ないから。
「志は立派かもしれんが力無き思想に価値なし。所詮は弱者の咆哮、今ならまだ許してやる。こっち側に戻ってこい。周りの連中は私が黙らせてやる。その志も武王となってから叶えれば良い、どうだ?」
確かに彼は未だ弱者。鍛えて鍛えて鍛え続けた真の強者には遠く及ばず。されど彼は一人の戦士。言葉は語らず、更に深く潜る。
「……残念だ。若き芽を育てるどころか摘むことになるなんてな。やはり殺すしかない、か。」
そうして更に跳ね上がるプレッシャー。肌がひりつき喉が焦げるのではと錯覚するほどの熱を感じる。せめて一息にと一歩で間合いへと入ったミヒャエルはキースの心臓目掛けて一突き。決まった、これは避けきれまいと確信を持った一撃。
一秒が長く感じられ時間が引き延ばされるような感覚。その中で深く深く、深海より更に深く意識を潜らせる。辺り一面闇の中。光を探してもどこにも見当たらない。ならば、諦めるか?否、光がないならば――
「むっ⁉︎」
――こじ開ける。
ほんの僅かに、体を斜め後ろへとずらす。全神経を使い1mをずらしたそれは、心臓の横を通り過ぎる。体は傷つき熱を持つ。それを無視して穿たれたと同時に弧を描くような軌道で打ち出した脚がミヒャエルの胴を捉える。その衝撃で細剣ごと吹き飛ばされ、地に足はついているが踏ん張ったため電車道が残る。
「ちっ、今のでも大して効いちゃいないかよ、クソッタレ。」
「いやはや、今ので捉えきれないか、困ったね。」
言葉ではこう言っているが、内心は驚いているミヒャエル。今のは決めにいった一撃。間違いなく心の臓の中心を穿つ軌道で繰り出したそれが、先ほど獣と、弱者と決めつけたそれによって覆された。その事実が少し心を騒つかせる。
それを無視して、
「勇者共の世界にゃあよ。肉を切らせて骨を断つっつう言葉があるらしいんだよ。ならよぉ、命を削ればお前にも届くんじゃねぇかつてなぁ!」
獣は吠える。それは常人には、ミヒャエルには到底考えられない理屈。誰しもが生きることに執着するのが普通。命あっての物種。獣でさえもそんなことはしない。誰しも自身の命が大切だから。僅かな狂いで、少しの怯えで自身の命を失うハイリスクローリターン。自身と遠く離れた差を、キースは命をチップに詰めてきた。優れた回復魔法に身体能力、ドがつくほどの狂人メンタル。それが揃って初めて挑戦する資格を持つそれを躊躇なく実行してきた。
それを改めて確認し、ミヒャエルは構える。先ほどまでよりも更に研ぎ澄まし、意識を高める。彼はもう、自身の命に届くかもしれないのだから。
(つっても、そう何回も成功させられるもんじゃねえな。相手が相手だ、部が悪い。けど、やるしかねぇ、な!)
対するキースもこの戦法はあまりにも難易度が高いことは自覚していた。あまりにも部の悪い賭け、けれどここまでしなければ届かないと判断した。相手の一撃は致命の一撃、されど自身の一撃は軽い。それでも積み上げるしかない。
覚悟を引き締め、深く潜るべく集中する。
そうしてお互いが駆け出す寸前――
「俺も混ぜてくれよ!」
――魔勇者和人が乱入した。
*
遡るは街壁へと辿り着き上へ登って眼前の光景を見下ろしていた時。大まかな情報をセルピーから聞いていた和人は優先順位を整理していた。
(ハンスさんは反対でゾイドって奴と交戦中。
あの人がそう簡単に負けると思えねえしとりあえずは放置。街の城側で姫さんらしき人がゼノバース軍と戦ってんな。いや姫さん強すぎだろあれどうなってんだ?それに南側で人間同士が戦ってる?なんでだ?しかも片方のおっさん、やばいな。今の俺でも無理だぞ、あれ相手は。)
自身のやれることやれないこと、戦場の優先順位諸々を考えた結果。
「セルピー、お前は城に行ってきてくれ。俺は一人で動く。」
「分かりました!ご武運を、カズト様!」
向日葵のような笑顔を浮かべる少女の元へと向かう。セルピーと別れ一人走り始める。無事であれと祈って、ただひたすらに。
*
「ニーナ!下がってなさい!」
「パパ!嫌だ!嫌だよ!」
そう言って抱き抱えていた最愛の娘から離れる。妻は殺された。あっという間の出来事だった。愛する妻すら守れなかった自分が情けない。咄嗟に体を差し込むことも出来なかった。何よりもそれを娘に見せてしまった。酷く辛く、悲しく、胸が張り裂けるほどに悔しい。戦いなんて向いてない、したこともない。けど、せめて娘だけは父である自分が守らなければならない。亡き妻に代わり娘を守るんだと思うと力が湧いてくるほどに。目の前に下卑たニヤつき顔を浮かべた人間を見据え、妻を、娘を想い中古で買った剣を構える。
「いいから早く!さぁこい人間!俺が相手だ!」
「ハハっ!死ねよ下衆魔人!」
目の前から襲いかかってきた人間が切り掛かってくる。これが殺し合い。これが戦い。恐怖で震える体を意志で捻り潰し刃を横に構え受ける。幸い自身は魔人なため、ステータス差で戦闘を生業とする目の前の人間の攻撃も受け止めることができた。
けれど――
「ふっ!ほいっ!どうしたどうしたぁ!」
「くっ!」
技量を持って詰められる。捌くので必死になり、反撃などもっての外。ただ耐え忍ぶことしか出来ない。それでも耐え続ける。自身の命に変えても、後ろの娘には届かせない。その覚悟を持って。
しかし、現実は非常なり。少しずつ、されど確実に崩されていく。所詮は凡夫。戦闘を生業としてきた者に対して多少のステータス差で勝てるはずもなく、その目には絶望が宿り始める。
「そろそろ決めちゃうゼェ!クソ魔人!ほぉら!」
「うあっ⁉︎」
剣を捲し上げられその手から離れてゆく。自身を守る武器であり盾であった剣を失い、絶対絶命。それを見て確信を持って近づいてくる人間。もうだめだ、もうおしまいだ。それが頭を過る。
(すまない母さん、ニーナ。父さんはもう……)
目の前から迫る一振りの剣。視界いっぱいに広がるそれは死神のよう。
「あばよ!来世は生まれてくんなよ虫ケラ!」
勝利の確信を込め叫ぶ人間。振り下ろし、斬っておしまい――
「パパを!!虐めるな‼︎」
それを背後から透明化して近づいていたニーナが小ぶりのナイフを突き刺したことで手元がズレる。剣の軌道がズレて地面に突き立つ。それを見た瞬間体を動かし精一杯の力を込めて頭に殴りつける。それで人間は血を流し意識を消失させた。勝った。それを認識した瞬間、胸に娘が飛び込んでくる。
「パパっ‼︎」
「ニーナっ‼︎」
お互い抱きしめ合い、無事であったことに安堵する。娘も自分も生きている、今はそれをただ噛み締める。しかしそんな状況も――
「あれー、死んでんじゃんこいつ。一人で突っ走るからこうなんだよ。」
「どうせ油断でもしてたんだろ?情けない奴だよなぁ全く。」
「いいからちゃっちゃと片付けちまうおうぜ。俺向かい側の女嬲りたいんだよね早く。」
「かー!物好きな奴だよなぁ全く、俺には理解できんね。」
新手の三人組が出現したことで終わりを告げる。一人でもあのザマだったのだ。それが三人。無理だと悟る。せめて娘だけは逃がすために、自身が盾となって時間を稼ぐ。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
――不細工でもいい。下手でもいい。少しでも時間を稼ぐべく突っ込む。脳裏に浮かぶは家族三人で行ったピクニック。温かい日差しを浴びて笑って食べて遊んで寝て、そんなことを思い浮かべる。楽しかった、けれどもっと娘の成長した姿を見たかった。けれど、娘の明日に繋げられるなら、それでいい。覚悟を決め、突っ込む。娘の未来のために。
そして――
「助けに来たぞ!ニーナ!」
「っ!勇者様‼︎」
――壁を吹き飛ばし、少女の勇者が来た。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます