14話 白の神
深く深く身体が沈んでいくような感覚
自分と空間との境目がぐちゃぐちゃになっていく
はっきり分かるのは自分が敗れ負けたこと
その記憶さえも徐々に溶けていく
沈んでいく最中、ふとナニカが目に入った
残った僅かな意識の中で必死にそのナニカに目を向ける
そこには蹲り一人の少女を抱えた少年がいた
この世の全てに絶望しているような顔で少女の骸を抱きしめる
なんとも哀れなことか。惨めで無力で口だけだったツケが回ってきただけだろう
別の方にも視線を向ける
そこにはツノを生やした小さな少女が両親らしき人物と笑顔で会話をしている
時々北の方角に視線を向け少女は祈るように手を繋ぐ
両親もそれに倣うようにしまた会話に戻る
そんな景色が急速に変わり家々に、城に、街に広がっていく
皆笑っている
今を全力で楽しむように
辛いこともあるだろうに笑顔で仕事に努める者達
近所の者達と談笑に勤しむ者達
街を、人々を守るために力を蓄える者達
自分の知らない世界を体験しようと木の枝片手に走り回る子供達
そしてそれさえも目に映らないぐらいに景色が引き延ばされ、ある集団が目に入る
武装した兵士達が規則正しくまるで一つの生命かのように動く姿
その集団は街の方角に向かい進んでいる
兜や鉢巻の下にはこれからのことを考えて酷く醜く嗤うものばかり
その瞬間意識が急速にはっきりしてくる
あの街は最悪4日ほどで襲われる
自分がどうにか伝えなければ
しかし死んでしまった自分ではどうすることもできない
あんないい人達が死んでしまう
見ず知らずの自分に温かい言葉ご飯と寝床をくれた人達も
頭がおかしいけれど不思議と気が合う人も
自分と手合わせをしてくれて目標になってくれた人も
そんなことは嫌だ、まだ俺は恩を返せていない
戦うことしかできない自分なんかに良くしてくれた人達を死なせたくない……
どうにかならないか、どうにか出来ないのか、どうにかどうにかどうにかどうにか……
〔お主、生き返りたくはないかの?〕
突然かけられた声にその場を振り向く
そこには白髪に着物を着た雪のような少女がいた
透き通るような白い肌、全てを見通すような綺麗な瞳、まるで人形みたいだな
しかしなんで着物着てんだろうな?不思議なもんだ
〔聞こえておるかの?生き返りたくはないのかと聞いておる〕
いきなりこんなことを言われてしまったのでつい無言になってしまった
今行き帰りたくないのかって聞いてきたか?
冗談だろ?
しかしそれを嘘だと否定することができず、むしろそれが出来るのが当たり前だと思うようになってきた
「えっと…生き返りたい…ですけど。ってあんた誰…ですか。」
〔あーよいよい無理に敬語なぞ使わんでも。身体が痒くなってくるでの、後わしのことはシラノ様と呼べばよい。〕
「分かった。そんでシラノ様?がどうして俺を生き返らせてくれるんだ?そんなこと可能なのか?」
〔理由なんてしょーもないこと気にするでない。それにわしはこれでも神の一柱でな、その程度ちょちょいのちょいじゃ。〕
「なるほど…分かったシラノ様。それじゃ頼むよ。」
〔うむ!ちいと痛むが我慢せえよ、一瞬じゃからな。〕
そう言って俺に手をかざすシラノ様
その瞬間に自分の中にナニカが入ってくる気配がした
魔力とも違う異質なナニカ
しかし嫌な感じはせず、むしろとても温かく安心できる
「ありがとなシラノ様!助かったよ!今度また会ったらそん時は仲良くしてくれ!」
そう言って俺の意識は落ちていきまた眠りにつく
〔シラノ視点〕
あの子を死なせるわけにはいかんからのぉ
しっかし相変わらずのやつじゃな
久しぶりに彼を見てやはり人の本質はそう簡単に変わらないものだなと思い少し笑ってしまう
さて、わしがなんとか出来るのはこれで最後じゃ
後はお主が自分の力でなんとかするがよい
あやつの祖父が掛けた楔は解いた
ならばそう簡単に負けることはないだろう
〔約束は守ったぞオルドーラよ。相変わらず心配性なやつじゃな。まぁ今回実際に死んでいたわけじゃけど。〕
久しぶりに仕事をして疲れた
まぁたまには労働も悪くないかと思いやっぱり面倒だなと思い直す
そうして自分の居場所に戻る最中もう一度彼の方を振り向く
やはり本質は変わらないものだな
人も動物もそれ以外も
そう思いながらシラノは消える
悲しそうな、嬉しいような、そんな顔を浮かべて
☆☆☆☆☆
近況ノートにも書いたのですが、仕事の都合で投稿頻度が落ちます。内容も妥協したくありませんし、少ないですが楽しみにしてくださっている方々のためにもなるべく早く毎日投稿を再開できるよう頑張ります。
今後ともよろしくお願いします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます