死ぬには遠い春

fores.芽吹ィ星兎 (めふぃすと)

導入(Faust Depravity UP)

 夢を見る前の俺はすごく寂しかった。人肌の温かさを求めてしまうくらい。だからいやに、夢見ていたのかもしれない。

 俺は眠りの中で見ていた。は眠りの中で夢だとは気づかないようにと自分に言い聞かせながら、夢だと感じ取る暇もない激しい戦いをしていた。この夢の中で夢のような戦いに夢中になっていた。

 少しでも長く、一秒でも。楽しい夢を見ていた。


 隣には少女がいて。付かず離れず絶妙な、お互いがお互いの間合いに入らない距離で、少女はを用いて、肢体を俊敏にして格闘を披露していた。

 黒く細長い足場は生き物のように動き続ける。俺が操るのはその足場であり、その正体は影だった。敵は無尽蔵に沸く硫黄石の怪物、けれどその中身は同族の吸血鬼だった。

 俺は現在の俺より広く扱い。影を操り武器を繰り出し限りのないバリエーションで出力を繰り返し、首の回らない量の怪物を退け続ける。

 少女は拳や脚技を多様に堅く、用いている。互いに疲れ知らず、時に立ち位置を交代しながら姿勢を崩して攻守を譲りながら、声を掛け合うたびに良く擦れる精神のままに、そして俺たちは背に目があるかのように庇いあって戦っていた。

「これは自由への戦いだ、やれるな?」

 ニュアンスも砕けたすずめの音に似た声が聞こえる。それは如何に心強いか。

 この尽きない時間、尽きない敵、この確かな消耗。そんな苦痛の悪循環がこんなに楽しく思えるなんて、いつまでもそうしていたい、この時が永遠に続けばいいと思えるなんて初めてのことで。

 思いもよらなかった酷く嬉しい戦いで。ただひとつ辛かった。夢だと気づいてしまっている自分の存在が邪魔でしかなかった。

 けれど目覚める時は来てしまった。

 その最後のとき、少女は良く笑っていた。

 

 今まで見たことのない吸血鬼だった。しかも僕の知識にあるようなどのモンスターの特性もなかった。

 だからこそ、少女の存在も手伝って楽しかった。

 俺と言う吸血鬼は朝日の漏れる窓の熱に、焼かれるほど強引に叩き起こされる。これは違う、比喩であって燃えてはいない。これは、俺は影を吸血鬼だから。

 少女の姿が嬉しくて何度も思い出そうとして、でもできなくて。

 僕は目覚めてまもなく頭を抱える、一言叫ぶ。

「起きてしまった」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る