第28話
24年 11/30 10:07:首相官邸:閣議室
「首相。第四班が保護したエルフの親子ですが………ルレラ連合ヴルラ自治共和国の首相夫人であることが確認されました。
また、同自治共和国の首相は自治共和国内のクーデターによりおそらく、死亡したとのことです」
「………最悪だな。向こうから見れば自治共和国の首相夫人を誘拐したように見える訳だ。クーデターの詳細は?」
「ヴルラ自治共和国は現在融和方針でのヴァクマー、ルレラ連合双方と一定の距離を保っているそうです。
これを快く思わない親ルレラ派及び中央によるクーデター計画がある可能性が英連合帝国によって指摘されております。おそらくコレの事かと」
エルファスター連合帝国は、国内外に相応の情報網を保有している。
その諜報力は偉大であり、国内で下手なことをすれば実動員がすっ飛んでくる。
レンドロ協定を今日まで維持できた大きな要因の一つでもあるだろう。
「一旦この世界のエルフについて説明してくれ……流石にそこまで手が回っておらん」
「あーー、はい。こちらとしても未だ不明なところが多いですが……
主にエルフは世界各地の山間部を中心に居住しておりまして、生殖能力の低さから人口はさほど多くありません。
エルファスター曰く遠方にエルフの民族国家が存在するらしいですが、殆どは大国の庇護下で生活しております」
「そうか、ルレラ連合の自治共和国の情報はあるか?」
「殆どありません。強いて言うならば、他の自治共和国とは対等な立場だと」
問題は多くある。
一番の問題は、クーデターの主が親ルレラ連合ということだ。
下手をすれば責任を擦り付けられる可能性すらある。
「ルレラ連合内の政情はどうだ?」
「とても不安定です。ここ最近はルレラ連合北方の国との国境紛争が多発しているようです。
経済も低迷気味、軍拡の為の増税で国民の不満は溜まっており、血気盛んな連中が南の海へ報復をと騒いでいるようです」
「責任を擦り付けられるどころか開戦まで有り得るな」
国内の情勢不安を国外へ向けるというのは珍しいことでもない。
戦争と言うのは国内を纏めるのに非常に都合がいい。
共通の敵を潰すためと言えば、大抵の政策は許されるのだから。
「由木くん、対応は一任する。しばらくはルレラ連合の対処に集中してもらっていい。
他の国はこちらで捌く。何か準備が必要だったら言ってくれ、出来るだけの用意をする。
ここまでならば、場慣れしている君の方が適任だろう」
「了解しました」
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24年 11/30 12:00:珊諸島国:クリラ
うみぎり・あぶくま・とね・もがみ・くまの、の計5隻による第一○ニ護衛隊の任務は、レンドロ協定が長年対立している南方の大陸国家との最前線。
サンコ諸島国はクリラへの駐留と防衛であった。
レンドロ協定は日本や英連合帝国が位置する内海であるサンゴ海を、サンコ諸島国を勢力圏に置くことで防衛していた。
英連合帝国にとってこの諸島は、まさに盾と言える場所であった。
「のどかな場所だな。国境紛争がしょっちゅう起こる危険地帯だと思えるか?」
「日本人が来たらハワイだなんだとどんちゃん騒ぎじゃないですかね」
そして、サンコ諸島国はその英連合帝国を利用して、繁栄している国家である。
そして、軍事力はほぼ皆無。
自衛のために海軍を少々摘んでいる程度である。
「本土じゃルレラ連合だかダルア帝国だかとの揉めているらしいですが、こっちも物騒らしいですよ」
「エルジド帝国だっけか?まあ演習なんざ派手にやってるうちはこっちにゃ来ない。演習がぱったり止んだら来るさ」
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24年 12/3 2:59:ルレラ連合:ラーズロヴル近郊
第四班は山脈から最も近いラーズロヴルに滞在していた。
そして、ここが第四班として最後に滞在していた場所となる事となった。
政府は既に事を穏便に済ませる事を諦めた様であった。
それは、これから実施される強行救出作戦から見て取れるだろう。
AH-64 Apache Longbow 4機とUH-60 Black Hawk 1機を動員した、下手したら宣戦布告とも取られかねない編成である。
実施部隊は中央即応連隊である。
「行動開始まで残り30!」
「回収部隊確認!」
現在地は市街地の中心部付近、UH-60が強行着陸しAH-64は空中哨戒である。
昼間に回収ができれば良かったが、いくら何でも昼間であればUH-60もAH-64も姿形を派手に晒す事になる。
更に言えば、市街地内には既にルレラ連合の捜索隊らしき兵士の姿も見えており、危険であると判断され、こんなイカれた作戦が立案された。
「開始時刻!全員走るぞ!」
事前の打ち合わせ通り、6名全員が走り出す。
UH-60は既に着陸体制に入っている。
ちょうど着く頃には着陸しているだろう。
街は既に昼間のような喧騒を取り戻している。
ルレラ連合の兵士らしき人間の怒号も聞こえる。
予想通り、6人の到達と着陸はほとんど同時だった。
着陸というよりも、着陸している様に見えるレベルのホバリングであるが。
搭乗は直ぐに済んだ。
別に引き上げも必要もないため、駆け込めば搭乗が済む。
最後尾の入山が両足を機内に着けた瞬間には機体は離陸していた。
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24年 12/14 10:00:外務省:応接室
現在ここ外務省応接室には、ルレラ連合の外交官が抗議に来日して来ていた。
「我が国の国民を軍が越境して誘拐するとは何事か!貴国は我々ルレラ連合との開戦をお望みか!?」
「我々はあくまで襲われていた方を国境警備が保護したまでです。
越境に関しましては、現在地を読み違えでもしたのでしょう」
「国境付近の街で大騒ぎがあったと報告がある!大音声を響かせながら宙を舞う、異形のワイバーンが居たとな!あれは貴国の差し金であろう!!」
「我が国の差し金であるという根拠は一体どこにあるのでしょう?」
何がなんでもこちらの責任にしたいようである。
当たり前だろう。
中央が主導したクーデターが、どこの骨とも知らない国により明るみに出かけているだけでなく、クーデター自体失敗に近い結果になっているのだから。
少なくとも、中央がクーデターを支援したならまだしも、主導したというのは相当心象が悪い。
国内の統治が武力頼りと認識されかねない。
更に言えば、ヴルラ自治共和国はルレラ連合領であるにはあるが、ヴァクマー第二共和国やグランシェカ共和国のなどと大きな交流がある。
少なくともこの二ヶ国からの非難制裁は回避できない。
それに、そもそもエルフは少数民族としても保護されている。
それはエルファスター連合帝国もそうだ。
もし、ここから非難制裁されれば。
そうなれば、日本への入国は至難の業となる。
おそらくルレラ連合からすれば、これが最もな痛手となるだろう。
「そもそも!貴国による内政干渉など許されるとでも思っているのか!」
「内政干渉?我が国はルレラ連合領内に誤って入ってしまった"かもしれない"状態で、ただ盗賊に襲われていた人を救助したまでです。
コレのどこが内政干渉に当たるのでしょう?」
外交官が押し黙る。
当たり前だ、内政干渉に当たる部分を言えば確実に何かしらのボロが出る。
「っと!とにかく!誘拐した国民の送還を要求する!」
「送還……と言いましても、その当の本人が帰国したくないと言っておりまして……
我が国は人権を重視しておりますので、そのような人間を強制的に送還することは不可能です」
「人権を盾にするつもりか!彼らは我が国の国民である!その帰属は我がルレラ連合に帰属する!」
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24年 12/17 12:00:英連合帝国:レリマス兵器廠
世間ではクリスマスだ年末だと騒いでいる頃、英連合帝国の都市レリマスでは、この世界初の航空機が空を飛ぼうとしていた。
観客は20名と大勢。
20名は開発に携わった日本や英連合帝国の技術者である。
機体は複葉、エンジンは初期の航空機で主流だった星型ロータリーエンジンである。
エンジンは実に素晴らしいことに存在自体はしていた。
だが物があまりにも違いすぎた。
日本のエンジンが液体燃料を用いるのに対し、この世界のエンジンは魔石が燃料、構造も我々の知るエンジンと似て非なるもの。
おまけに過酷な環境では信頼性がカスであった。
言い過ぎと思うかもしれないが、本当にカスなのだ。
唯一の利点は小型である事だろう。
エンジンの爆音が響き始める。
この世界の国が開発した初の航空機用石油発動機の唸りである。
「飛行開始!」
試製14型Mk0 SKY GUIDEが滑走を始める。
150mほど滑走したところで、機体が浮かび始める。
まだ油断はできなかった。
下手な操縦をすれば失速の危険性がある。
だが100ft、200ft、300ft程度に達した時には、そんな不安はすでに吹っ飛んでいた。
「いよっしゃぁぁ!飛ばせたぞぉ!」
「世界初の飛行機完成だぁ!」
「もうワイバーンなんざより速いんじゃないかぁ!?」
各々が喜びを噛み締め合っている。
後ろのその他大勢の観客に関しては、もはや下手な暴徒よりも声が出ている。
「この調子なら着陸も問題ないだろう。一応救助隊を出しておけ」
Mk0は試験場の周囲を一周し、着陸態勢へと入る。
操縦者は国内飛行場でそこそこの時間飛んでいるアマチュアのベテランである。
もちろん固定脚のため、そのまま着陸していく。
「着陸成功。損傷もありません、完璧です」
「っま、いくら英連合帝国主体で開発したとはいえ、俺らが技術供与して設計図も確認してるんだ。完璧じゃないと困る」
「ですね。でも、多分こっからが長いっすよ。最低でも九七戦レベルは自己開発して貰わないと困りますしね」
「こっからはあいつらの戦いだ。俺らは教師じゃなくて、あくまで教授として見てかなきゃならん」
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24年 12/17 11:00:日本国:霞ヶ関
ルレラ連合の外交団は、3名が政府に嫌がらせへ。
そして最後の1人であるニコライ・ドラグノフは、日本の中枢である霞ヶ関を歩いていた。
「外交団のバカどもはエルからの技術供与だと騒いでいたが……明らかに技術体系が違うぞ。怒りで脳みそが沸騰でもしたのか?」
道路には明らかに速度が早く、車体は洗練された明らかに自国産の車両どころかこの世界の車両全てを超越しているだろうと思われる。
おそらくこの一点だけでも、本国の貧弱な技術力では、この水準に到達するまでに一体どれだけの時が経つかわからない。
それ以外にしても異常なまでの先進性である。
技研が目指しているらしい超越都市構想よりも先を往く光景であるし、道路にしても石材を粉砕して何かしらで固着させた特殊な道路のように見える。
全てに置いて負けている。
平和主義国家だというから、軍の規模はさほどではなく、積極的に殴り掛かっては来ないとしても。
軍の質は確実にボロ負けしているし、もし直接対決しないとしても、これだけの都市を構築し維持できる工業力。
それだけの工業力で武器を供給されたら?
それだけの工業力で前線基地を構築されたら?
それだけの工業力で後方のインフラを整備されたら?
おそらく武器が供給されれば、前線に掃いて捨てるほどの量の武器が飽和するだろう。
そしてありとあらゆる要所には、難攻不落の要塞が構築されるだろう。
もしインフラを整備されれば、どんな攻撃に対しても、強力な即応体制を構築してくるだろう。
考えただけで悪寒がしてくる。
「一体報告書は何ページになることやら……」
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