第15話
24年 9/4 10:00:陸上自衛隊:エゲル市街地
強いて言うならば、エゲル市街地守備隊の隊長が女性であった事ぐらいだろうか。
文明レベルからして男性優位社会であろうと予想されていた隊内では少々の驚きがあった。
ただ、どうも前任者が合理主義に傾倒した結果らしい。
そんな事はさておき、既に第二群として普通科中隊と火力支援中隊が到着している。
事実上の義勇軍である第十五即応機動連隊の部隊は、このままエゲル市街地より首都へ向けて前進、タタバーニャ要塞都市制圧部隊の側面を護る手筈である。
もちろん、連隊の指揮所は共和国の前線指揮所からエゲル市街地に前進している。
もちろん、万事順調とはいっていなかった。
帝国兵と共和国兵の小競り合いである。
陸自部隊が喧嘩両成敗と言わんばかりに制圧したため、表立って殺り合うようなことはなくなった。
だが、いつ大事が起きてもおかしくない。
内戦の経緯は知らない。
お互い信念を持って殺し合っている以上、どうしようもないと切って捨ててはいるが、いざというときに後ろから撃たれるなんてたまったもんじゃない。
情報のためにも、事情を知っていそうな士官にでも話を聞く必要性がある。
「失礼するよ。隊長さん」
「隊長さんではなく、ジェルカという名前がある」
「まあまあ、堅いことはいいだろう。君に聞きたいことがあってね。
君たちが戦っている……つまり内戦が起きた経緯について知りたいんだ」
そこからは長かった。とにかく長かった
要約すれば、帝国皇帝の政治は腐敗しており、共和国はそれを打破する為に各地の権力者等が兵を挙げた。
という話である。
ようは民主革命を起こそうとして兵を挙げたが、うまく行かずに膠着状態といったところか。
この情報を本国に流せば、おそらく戦後処理に困っているであろう政府は大喜びだろう。
その伝える手段が無いのだが。
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24年 9/4 16:00:宇宙航空開発機構:種子島宇宙センター
「ったく、上の連中は脳みそに何が詰まってやがる。
1ヶ月以下で衛星搭載のロケットを作れなんてふざけてんのか」
「まぁまぁ、なんとか終わりましたし。
これが終わったら全員で飲みましょうよ。最近ろくに休めていなかったんですし」
もちろん、新規設計の衛星などではなく、既存のコピー品である。
新規設計を1ヶ月以内など、担当者全員が過労死してしまう。
この仕事も無茶なのだが。
「全システム準備完了……火工品トーチ点火」
X=-12.8s
「LE-9、エンジンスタート」
X=-6.3s
「SRB-3点火」
X=-0.4
「H-3ロケット、第六号機リフトオフ」
X=0s
「SRB-3燃焼停止。分離成功」
X=116s
「衛星フェアリング分離」
X=227s
「第一段エンジン燃焼停止、分離成功」
X=309s
「第二段エンジン燃焼停止」
X=1731s
「きらめき5号、分離成功!打ち上げ成功です!!」
X=1751s
室内が大歓喜に包まれる。
1ヶ月という突貫工事で打ち上げられたXバンド防衛通信衛星「きらめき5号」搭載H-3 7号機は、予定通り衛星を分離し役目を果たした。
これにより陸空海自衛隊はヴァクマー帝国領と本国という長大な距離を通信することが可能となった。
本国は前線の状況をリアルタイムで確認でき、前線部隊も適切な補給・支援を要求できるようになった。
大きな進展である。
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24年 9/4 18:00:陸上自衛隊:ソルノク市街地
[ALL STATION、現状を持って衛星通信の利用が可能になった。爾後、派遣部隊は1日置きに状況を報告せよ。送れ]
[……こちらソルノク。ソルノク市街地制圧後、普通科連隊出発済み。送れ]
[HQ了解。終わり]
衛星通信による通信が可能となったことによって、部隊は補給の輸送船に情報を載せて通信する必要がなくなった。
これにより、衛星通信から派遣隊本隊へ、派遣隊本部から
政治的判断に振り回される半径も小さくなるだろう。
指揮統制に大いに役立つ。
[サポーターよりソルノク、本隊はエゲル市街地の制圧を完了済みである。そちらのタイミングで想定ポイントまで進出可能である。送れ]
[ソルノク了解。現在普通科連隊基幹のJTFが進出中である。制圧が完了次第連絡する。どうぞ]
[サポーター了解。終わり]
ここまでは順調である。
だが、既にソルノク・エゲル両都市が陥落したことは伝わっているだろう。
1人や2人ぐらいは敗残兵が残っているはずだ。
そうなれば戦闘は激化するだろうし、反撃も想定できる。
だからこそ、C4Iシステムが正式に機能し始めたのは朗報であった。
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24年 9/4 18:00:陸上自衛隊:ヴァクマー帝国領
第十六普通科連隊はゆっくりと、だが着実に進撃していた。
進軍は麾下に入った西方戦車の第一中隊を中心とした街道進出部隊。
街道部隊の後方補給路を整備しながら進む施設科中心の部隊。
街道周辺の森林などを警戒・制圧しつつ進む普通科中心の補助部隊となっていた。
また、各部隊を射程に収めるよう安全圏に進出している特科・高射特科も居る。
その更に後方では、第七普通科連隊が集落などとの簡単な交流や地図の作成、撃ち漏らしの警戒などをしながら移動している。
もちろん、交流が主任務なのは第八普通科連隊であるが、第八普通科連隊が円滑に接触できるよう計らっている。
既に、連隊の偵察隊が各部隊の前方にて情報を収集し、本隊へ伝達している。
そんな調子で、陸上自衛隊が主導する初めての侵攻計画は経過していた。
[ロード0よりロードへ、進出停止。野営準備だ]
ロードこと、街道進出部隊は経路すぐ横の空き地に集結していた。
既に出発から8時間が経過している。
陸上自衛隊や旧軍・諸外国を見ても、1日の行軍距離というものは凡そ24km〜32km、時速4kmで約6〜8時間が一般的である。
但し、これはあくまで歩兵のみの目安である。
現状、第十六普通科連隊はヴァクマー帝国領を侵攻中であるため、進路偵察班による進出経路の安全確認なども行う必要が有る。
これを考慮すると、行軍距離は大きく変化する。
どちらにせよ、強行軍でないため、これ以上無理に前進する必要はない。
無理に進出して奇襲されました。
なんて話になれば笑えても顔面が麻痺しているだろう。
「連隊長!右翼前方の森林に不明集団がいると報告!」
周辺が凍り付く。
「敵の遊撃部隊か?戦闘用意!」
「捕捉したヒトマルによれば人形目標!但し身長3mはあるとのこと!IFFは反応なし!」
一般的な人間の2倍以上である。
参考までに、10式戦車の全高は2.3mである。
「当該目標を敵対目標と認定。ヒトマルで吹き飛せ」
10式戦車4両が前進して来る。
4門の
砲口初速736m/s、2.7kgの爆薬は敵集団先頭に一斉に着弾し爆煙が立ち込める。
二斉射目が打ち出される。
10式の自動装填装置は90式戦車より大幅な改良を加えられており、より高速な装填が可能になっている。
[タイガーよりロード0へ、目標沈黙。送れ]
[ロード0、了解。普通科に検査させる。送れ]
[タイガー、了解。終わり]
そんな通信から少し、クレーターの空いた場所には普通科隊員が居た。
生き残りの確認である。
そんな事をしていられる余裕もすぐに無くなるのだが。
[アルファ3よりロード0へ。目標は緑色肌の二足歩行生物。どうぞ]
[アルファ3、数、武装等詳細願いたい。どうぞ]
[ロード0へ、武装は木製鈍器等、白刃。数、概算10〜20。どうぞ]
どうやらある程度の社会性を持った人外のようだ。
化物の類だと断定しているわけではない。
だが、3mの体高をした全身緑の二足歩行生物という話が本当であるならば、程度は違えど
[アルファ3へ、調査切り上げ。帰投せよ]
[アルファ3了k……コンタクト!]
その大声量の後、野営地に銃声が届く。
どうやら碌でもない事になったようだ。
[アルファ3よりロード0!同一目標と思しき生物とコンタクト!全速力で突っ込んでくる!]
[アルファ3、現有火器で対処可能か。送れ]
[ロード0へ!敵部隊は1コ
10式で吹き飛ばした為に大した脅威として認識していなかったが、どうやら改める必要がありそうだ。
小火器が効果なしならば普通科が投射できる火力はCarl Gustaf 84mm無反動砲か
そんな思考を読むかの様に、110mmLAMと思しき爆音が響く。
既に10式戦車隊1個Ptが救援に向かっているわけだが、間に合うかどうか怪しい。
小銃小隊の最大火力である以上、使用するならそれ相応の状況であろう。
そんな中、10式戦車による走行間射撃が行われれる。
誤射なんて気にしている場合じゃないのか、誤射なんてする気が無いのか知らないが、こちらとしては冷や汗を滝のように流す羽目になる。
まあ、最悪隊員さえ死ななければどうとでもなる。
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24年 9/4 16:00:ロシア連邦軍東部軍管区:樺太
[CP!こちら第一狙撃大隊!不明勢力の攻撃を受けている!
[第一狙撃大隊、砲兵隊既に残弾無し。繰り返す砲兵隊既に残弾無し]
「
そう吐き捨てながら受話器を叩き捨てる。
「
目の前に広がるのは、日本人共が好きそうな魔法、一次大戦前の兵士かと思うような歩兵共だった。
厄介なのは魔法野郎だ。
直射砲レベルの火力を平気で撃ち込んでくる。
おまけに機動力も高いときた。
「第二中隊壊滅状態!これ以上は持ちません!」
「三大隊が来るまで持たせろ!何がなんでもだ!」
「大隊長!敵航空戦力飛来!前線の錯乱か知りませんがワイバーンなどとほざいています!」
ワイバーンだかなんだか知らんが、航空戦力なぞ投入されれば本格的に全滅の危機である。
「出せる限りの火力で叩き落とせ!大隊本部戦闘用意!」
既に大隊本部から見えるほど前線は下がっている。
いつ強襲されてもおかしくない。
そもそも、初っ端から想定外すぎるのだ。
重巡洋艦レベルの対地艦砲射撃なぞ想定して現代の陣地は構築していない。
せいぜい大型ミサイルか絨毯爆撃である。
わざわざ陣地間を離していたのに全て水泡に帰した。
「敵機飛来!重機関銃対空射撃!」
「対空大隊は何してやがる!」
もはや悲鳴の様な叫びが聞こえてくる。
「おい!逃げろ!あいつ火炎放射器持ってやg」
大隊本部に焦げた様な臭いが立ち込める。
どうやら火炎放射器でも持ち込まれているようだ。
「大隊長!これ以上は無理です!撤退しましょう!」
「ダメだ!ここで引いたら三大隊まで巻き込んで壊滅する羽目になるぞ!」
実際、全て正論である。
これ以上ここで防勢を張るのは不可能に近い。
しかし、この場から撤退すれば後方に陣地構築している第三大隊が奇襲されることになる。
死守以外の選択肢がなかった。
「壊滅しかけの部隊を下げて他を前に出せ!再編成してどうn」
大隊本部に豪炎が降り注ぐ。
皮肉にも、その火焔は中から見れば美しいものであった。
彼の最後の記憶である。
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