第8話 女の子になったんだから……ね?

 あの後、俺は「魔法少女」ジョブについてネットや資料をあれこれ探してみたが、結局何一つ情報が見つからなかった。


 ライセンスカードの“ジョブ”欄をタップすれば、スキルが確認できるらしい。


 試しにやってみると、どうやら【変身】と【眷属召喚】という謎スキルが使えることが判明。

 剣士なら【剣技】、盾役なら【盾技】とか、もっと分かりやすいものがあるはずなのに……さっぱり正体不明だ。


 「これは聖が戻ったら一緒に考えよう」――そう思いながら、さらに調査を進めていると、玄関のドアがガチャリと開いた。


「お兄ちゃん、服買ってきたよー! これ着て、さっそく探索者協会に行こう!」


 聖が大きな紙袋を掲げ、満面の笑みを浮かべる。

 まるで福袋を手に入れた子供みたいなテンションだ。


「あいよー」


 紙袋の中には、女の子向けの服が何着か入っていた。ショートパンツやパーカーならまだしも、フリフリなスカートやらワンピースまで取り揃えてあって、俺は思わず目をそらす。


(スカートは……できれば避けたいな)


 心の中で小さくつぶやきつつ、ショートパンツとシャツを手に取って部屋を出ようとした――そのとき、聖の鋭い声が飛んできた。


「お兄ちゃん、これも必須だよ?」


 彼女の手には、女の子用の下着が……。想像以上の衝撃映像に、俺は目を丸くした。


「いや、これは……!」


「……お兄ちゃん?」


 聖がじっとこちらを見てくる。あの“妹威圧”には逆らえない。


「……はい、着ます……」


 こうして俺は泣く泣く女の子用の下着を手に取り、着替えへ。

 鏡の前に立つと、小学生の高学年くらいの女の子がこっちを見返していて、顔がカーッと熱くなるのを感じる。

 着替え終わって戻ると、聖は目をキラキラさせながら手を叩いている。


「やっぱり私の見立ては正解だったよ! すっごく似合ってる!」


「そ、そんなことはいいから、とっとと行くぞ!」


 恥ずかしすぎて、思わずパーカーのフードで顔を隠す。こんな姿、慣れるわけがない……。


「あ、そうだ。外に出たら、お兄ちゃんの呼び方を変えるね」


 聖が急に言いだすから、思わず首をかしげる。


「なんで?」


「だってその見た目で『お兄ちゃん』は変でしょ? どこから見ても女の子だもん」


 たしかに、この姿じゃ「兄」とはかけ離れてる。

 周りから見たらかなり違和感があるだろうな。


「ああ……そりゃそうか」


 男だったはずの自分が、女の子になってる現実を改めて思い知らされて気分がへこむ。


「じゃあ、めぐみちゃんにしようよ。元々の“けい”をちょっとアレンジする感じで」


「……“めぐみ”、か。なるほど」


「あとね、もし知り合いに見つかったとき用に、従妹って設定にするね。お兄ちゃんは私のこと“聖お姉ちゃん”って呼んでもいいよ?」


 聖がからかうような表情でそう提案してくる。なんという妹力の高さ……。


「はいはい。聖おねえちゃんね、わかったよ。もうどうにでもなれって感じだな……」


 半ば投げやりな返事をしながら、俺は手を引く聖と一緒に、探索者協会へ向かった。


 昨日も行ったみなとみらい探索者協会にたどり着くまでの道のりが、思いのほかキツかった。

 体が小さいせいで体力を使うのか、息が上がって汗が流れ落ちる。


「はあ……やべー、疲れた。小さくなるだけでこんな消耗するのか? あと、人の視線が気になって落ち着かない。変なとこなかった?」


 自分の姿を見直すも、特におかしな点は見当たらない。でも、周囲の視線が気になる……。


「それはお兄ちゃんが可愛いからだよ?」


 聖が当然のように言ってくる。


「そんなの、お兄ちゃんが可愛いからでしょ。もともと顔立ちが整ってたし、いまは銀髪ロングで肌も白くて……人形みたいだよ? ほら、緑色の目もキラキラだし」


 聖が当たり前のように言ってくる。可愛いもの好きの彼女は上機嫌で説明を続ける。


「……まあ、髪色と眼以外は小さい頃の聖に似てるから納得か?」


 腕を組んで唸る俺に、聖は苦笑いしながら「もういいから行くよ」と手を引っぱってくる。

 顔がほんのり赤くなっているのは恥ずかしいのか喜んでいるのか。とにかく、二人で協会の建物へ入ることに。


「いらっしゃいませ、探索者協会へようこそ。ライセンスを提示していただけますか?」


 受付の女性職員にカードを見せると、ニコニコ笑顔で対応してくれた。


「本日のご用件は?」


 高校生くらいの女の子(聖)と、さらに幼い少女(俺)というコンビ――職員さんも疑問だろうが、顔には一切出さない。


「私たちの担当って、どなたになりますかね?」


 探索者には、協会の職員が担当につくシステムがある。

 ダンジョンに潜る手続きや、魔石の換金などをサポートしてくれるらしい。

 受付の女性は端末をチラッと見ながら答える。


「早乙女さんですね。担当は“白石”が承ってます。お呼びしましょうか?」


「お願いします」


 促されて近くの席で少し待つと、昨日も会った白石さんが姿を見せてくれた。


「お待たせ。……あら、聖さんの隣にいるこの女の子は?」


 白石さんが不思議そうに首をかしげる。

 聖は申し訳なさそうに切り出した。


「えっと、それも含めてちょっと相談がありまして……」


「ああ、人に聞かれたくない話なのね。じゃあ、小部屋を押さえるからついてきて」


 俺たちは白石さんの後を追い、協会の奥にある小部屋へ向かう。どんな反応をされるのか考えるだけで胃が痛い。

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