第25話
朱里は横に置いたバッグから弁当箱を取り出す。二段構造で少々大きめな漆黒の弁当箱。悠希の取り出したものと比べると大きさは一目瞭然。多分この弁当箱入れ替えて「それぞれ誰のでしょう」と見知らぬ人に問題を出したら黒い方を悠希、そうじゃないほうを朱里のだと思うだろう。朱里はスラっとしているので小食だと思われるらしく、以前外食をした時も朱里の頼んだカツ丼を悠希、悠希の頼んだ冷麺を朱里の前に置かれたことがある。実際悠希の方が小食である。量も食えないし太りづらい体質なのも手伝って昔からヒョロヒョロとした体型だ。
弁当箱を開けると一段目にご飯、二段目に卵焼きや肉団子等がバランスよく詰められている。基本弁当は家政婦の吉野さんが作ってくれていると言っていたが時々自分で作っている。一見どちらが作ったか分からないが、朱里が作った方は肉料理が多めに入っているので今日のはお手製だろう。因みに悠希のは山田さんお手製である。悠希が食い切れる量を調整してくれるのでとても助かっている。
「相変わらず美味そうだな」
「そっちこそ」
「俺のは山田さんが作ったから」
「やっぱり詰め方が綺麗だな、流石山田さん」
と話してながらパクパクと食べ進める。因みに悠希のメインおかずは和風ハンバーグである。
「当たり前なんだけ俺が作ってもこうはならないんだよな」
「そりゃあ向こうはプロだからな、高校生に近いレベルの物作られても複雑だろ」
プロと言っても料理専門ではない、掃除やら何やら家事全般のプロなのである。どうあがいても同じ水準のものが作れるわけがない。それに
「もうちょいレパートリー増やしたいんだよ」
「悠希自分の好きなものか煮込み料理しか作らないしな」
グサッ、事実は時として人を傷つけるのである、確かに悠希は好物かカレーやシチュー等煮込む料理しか作らない。比較的手間がかからないものか好物ではないと意欲が湧かないのである。それでも作ろうとするだけマシでは、と思っている。そんなこと口には出さないけれど。
「それしか作れなくても一人暮らしした時困らないだろ」
「やっぱ大学行ったら一人暮らしするつもりなのか」
「うん、まだまだ先だけど。朱里もだろ」
「まあな、姉さんもそうだったし大学近くに部屋借りるつもり」
そういえば、朱里はどこの大学に行くつもりなのか。以前はそのままエスカレーターで進むと言っていたが今もそうとは限らない。この言い方だと外部受験する可能性の方が高いと思ったので、特に触れなかった。
「しかし、一人暮らしね、おばさん許可するか。物凄く過保護だろ」
「…何とか説得するよ、昔より身体丈夫になったし家事とか出来れば何とか」
「部屋でぶっ倒れている悠希の姿が頭に浮かんだわ」
「縁起でもないこと言うなよ、そうなる前に救急車呼ぶわ」
「…そういうことを心配しているわけではないんだが…まあいいや」
何か言いたいことがあったらしい朱里は言葉を飲み込み肉団子を口に運んだ。
「あ、そういえば高校生になったしバイトしようと思うんだけど」
「そうか、やりたいこととかあるのか」
「朱里みたいにカフェとか」
「あー私みたいに個人経営の喫茶店ならそこまで体力が必要ってわけでもないけど、お前人見知り酷いだろ。接客出来るか」
グサッ、正論も時として人を傷つけるのである。朱里はオーナーとバイト何人かで回してるカフェで数年バイトしている。悠希も朱里もバイトをする必要はないのだが、小遣い目的ではなく勉強の一環である。しかし、言われた通り悠希は人見知りが酷いので接客が出来るかどうか、目下の不安はそれである。緊張すると口籠もってしまうのだ。
「…やろうと思えばやれるし」
「目泳いだまま言っても説得力ないんだよ、まあ接客はやってくうちに慣れる。それよりも悠希は無理して倒れないように気をつけろよ」
「大丈夫、そうなったらバイト禁止するってばあちゃんに言われてるからめちゃくちゃ気をつける予定」
「…」
朱里は何か言いたそうな顔をしていたが、結局何も言わなかった。
「どこでバイトするか決まったら教えろよ、冷やかしに行くから」
「辞めてくれよ」
「全く同じこと言って行動に移したのはどこの誰だっけ」
「…俺です」
そう、朱里がバイトを始めた2年前悠希は翔を無理やり誘い朱里のバイト先に顔を出したのだ。冷やかし、と言っても当然朱里の仕事の邪魔はせず話しかけたりすることもしなかった。ただ注文をしまくって長時間居座ったくらいである。しかしシフト後の朱里に「来てもいいけど居座るのは辞めろ」とガチトーンで言われてしまったので、それからは時々行くに留めてた。朱里のバイト先という点を除いても中々に居心地がいいのである。
尚、悠希は平然としていたが翔が少しばかり怯えていたのは覚えている。あれは怒っているわけではなく普通に知り合いに来られるのが恥ずかしかっただけなのだが、翔には怒っているように見えたらしい。後日朱里が謝罪し、更に翔が凝縮してしまったのは別の話。
なので朱里が悠希のバイト先に来るという話を悠希は拒否し切れないのである。恥ずかしいが、同じことを言った朱里を無視してバイト先に行った身からすれば選択権はないのだ。
しかし、そもそも受けてすらいない、受かるかすら分からないのに気が早いとしか言いようがない。悠希は超の付くネガティブ思考である。どこも受からないと割と本気で思っていたのだが、朱里は悠希がバイトをする前提で話を進めてくれるのでほんの少し心が軽くなった。何処かしら受かるんじゃないかと根拠のない自信が湧いてきた。
昔なら兎も角、思春期に差し掛かった悠希は本人には絶対に言わないのであった。
そんな話を繰り返しているうちに昼休みが終わり、それぞれの教室に戻って行った。
*************
「夏美、あんたまた鼻血出てる!!保健室!」
「…あーやっぱあの2人いいなぁー。今度2人の会話録音させてって朱里ちゃんに頼んでもいいかな、付き合いの長い幼馴染同士の会話でしか取れない栄養素が」
「鼻血が頭にまで回ったみたいね、早く保健室にぶち込むわよ!」
*************
朱里と交際(フリ)を始めて、無事初日を終えた放課後、よし帰ろうと腰を上げた悠希に「鶴見くん」と声がかけられる。?デジャブか?
振り向くとそこには山崎が立っていた。昨日と違い秋山は居ないようだ。
「西条先輩とのこと聞いたよ、おめでとう」
「…どーも」
「それでさ、話があるんだけど」
もっと根掘り葉掘り聞かれると身構えていたが、あっさりと話題を変えてしまった。そう言えば山崎は悠希と朱里のことにはあまり関心がないんだった。あるとすれば…
「昨日の件、東郷君にOK貰ったから。約束通りに付き合ってね」
「…は?」
一瞬何のことを言われたのか分からなかったが、すぐに昨日のダブルデート(笑)についてのことだと気づいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。