絶対に鞘から抜けない聖剣を鞘ごと使う少年の物語

@tomato4040

第1話 『妄執者』

「換金お願いします。」


冒険者協会の換金窓口で今日倒したモンスターの魔石を交換してもらう。


「どうぞ、700マニーです。」


「ありがとうございます。」


700マニーを受け取り、冒険者協会の出口へ足を運ぶ。


「おいおい、あいつまた剣壊してるぞ。」

「俺が見る時いつも剣が壊れてるんだが使い方が荒いのか?」


「あー、あいつのことか。魔法剣を使うからだよ、バカだよなー。」


「魔法剣だと?大道芸でしか使われないやつじゃねえか。」


「そうだ、だからバカだと言ったんだ。」

「大して強くもないのに武器をあっという間に壊しちまう。」


「お前ら、それ以上はやめとけ。」

「気づかれるぞ。」


魔法剣、剣に魔法を纏わせる技術。

剣に魔法を纏わせるぶん威力こそ悪くないが、武器の負担が大きすぎて剣がすぐに壊れるという致命的な弱点を持つ。

冒険者からはコスパが最悪だと嫌われ、鍛冶師からは武器をすぐに壊すからと嫌われる代物だ。


「早く帰ろ。」

「いや、ご飯は買わなくちゃ。」


沢山の露店が並ぶ中を歩いていく。

途中で見た事のある顔とすれ違う。

1度だけ、パーティを組んだことのある人だ。

僕がすぐに武器を壊してしまうことを知って、すぐに解散となったけど。


僕はこの街でも数少ないソロ冒険者だ。

ソロになる冒険者の理由は様々だけど、僕がソロである理由は簡単。

僕がすぐに武器を壊してしまうからだ。

僕のような底辺冒険者が持つ武器は、魔法剣を使えば1日で壊れてしまう。

いくら僕の使う剣が安物だったとしても、毎日買うとなると負担は大きい。

誰だって毎日武器を壊すやつとパーティを組みたくはないだろう。


「このパン、ください。」


「はいよ、50マニーだよ。」


50マニーを支払ってパンを受け取る。

ここのパンはいい、安い上に量が結構ある。

毎日剣を買う必要がある僕にとって生命線だと言ってもいい。


「剣...は明日でもいいか。」

「帰ろ。」


僕の家は冒険者協会からそれなりに離れた位置にある。

冒険者協会等が立ち並んでいる大通り付近は家賃が高い、よって僕のような弱小冒険者は家賃の安い集合住宅街の端の方に住まうしかないのだ。

ちなみにダンジョンの入口は大通りの中心に存在している。

元々この地、冒険街ペルべティアはダンジョンを中心に栄えていった街だ。

そしてその規模は、国家をも凌ぐ大きさである。

国では無いのは王を持たず、ただ人が集まってきて街へと発展していったという理由があるからだ。

実質的な自治権は冒険者協会にあり、非常時などは冒険者協会が指揮をとり解決に向けて行動するようになっている。


長く住宅の立ち並ぶ道を通って、ようやく自分の家を見つける。


「ただいま。」


「おかえりなさい。」


ちなみに僕は1人暮らしだ。

ただ結構な頻度で家には先客が居る。


「今日も来てたんだ、姉さん。」


「そ、クランのダンジョン探索は明後日まで休みだから。」

「もう少しで晩御飯ができるから、ちょっと待ってなさい。」


「僕、パン買ってきたんだけど。」


「あなた、主食しか買ってこないじゃない。」

「私が作ってるのはおかず、ちなみにクリームシチューよ。」


誇らしげに胸に手をおいて献立を発表する姉さん。


「ありがとね、姉さん。」


そう言って手を洗いに洗面所へ向かう。


「はあ...」


鏡を見て、ため息をつく。


いい加減、姉さんに心配をかけないようにしないとな。

姉さん、クリスタ・スパーダは身内贔屓抜きにしてもこのペルベティアでも有数の有力冒険者で、大規模なクランである『白銀の集い』に属している。

普段は綺麗な白い髪が戦いの時返り血で赤くなることから、『血染めの姫』という物騒な二つ名が付いてたりもする。

二つ名の物騒さに対して容姿端麗なところからペルべティアの人気冒険者ランキングでも毎回上位に位置しているらしい。


まあ何が言いたいのかと言うと、姉さんに心配をかけてしょっちゅう家に寄らせている僕は罪深き人間であるということだ。

姉さんは僕を心配している、その理由は僕が弱いことにある。

魔法剣にこだわって、パーティにも属さず、1人でダンジョンに潜り続ける毎日。

そんなのが弟だと、優しい姉の心労は計り知れない。


僕だって分かっている、魔法剣を使い続けるのは僕のわがままで、こんなことで姉さんに心配をかけるべきでないことなど。


それでも、魔法剣を手放せない。

昔抱いた、今もなお心で燃え続けている魔法剣への憧れが、昔見た芸術のごとき魔法剣の情景が、僕に魔法剣への執着をもたらし続ける。


この地、ペルペディアでは名を挙げた冒険者に二つ名が付くことは珍しくない。

二つ名はその者の成した功績や特徴から付けられ、一般的に名誉あるものだとされている。

しかしその逆、全くもって活躍していないのににもかかわらず二つ名が付いた者もいるという。


それが僕。

ペルベティアで唯一、何も活躍してないのにも関わらず二つ名の付いた者。

憐れで愚かな『妄執者』、マギア・スパーダである。


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