幽霊なんて4次元の見間違いだってバーちゃんが言ってた

ただのネコ

第1話 七不思議: 触れないほこら

「あった……」


 夜の8時、学校の社会科資料室で、僕は小さくつぶやいた。

 本当なら、生徒はいちゃいけない時間だけど、前もってカギを開けておいたトイレの窓から忍び込んだのだ。資料室のカギ? 管理は僕の担任でもある斉藤先生なんだけど、ほとんど毎日閉め忘れているのは公然の秘密だ。


 なぜ、わざわざ夜の学校に忍び込んだのか。その理由が、いま僕の目の前にあるほこらだ。

 石作りの30センチ四方ぐらいの土台の上に、木でできた神社の模型みたいなのが乗っている。正面の扉は閉じられているのだけど、その上からヒラヒラ紙の飾りがついた縄が何重にも巻き付けてあって、いかにも「開けたら呪われるぞ!」って感じを醸し出している。


「少なくとも、夕方にはなかったよね」


 帰る前に資料室のカギがいつも通り開いてるから確認したのだけど、その時には間違いなくなかった。部屋のど真ん中にあるほこらを見間違えるわけもない。

 とりあえず写真を撮っておこうとスマホのカメラを向けた。けど、スマホの画面には普通に資料室の床が写るだけだ。


「ホンモノってこと、かな?」


 別にカメラに写らない=ホンモノではないけどね。心霊写真とかもあるし。でも、目に見えているのにカメラには写らないっていうのは何か変な事が起きていると思って良いだろう。

 念の為に、カメラで撮影。シャッター音が思いの外大きく響いた。思わず身をすくめるけど、警備の人がくる様子もなく。

 カメラロールを確認する。暗闇補正のおかげで床はしっかり見えてるけど、やっぱりほこらは写っていない。


 せっかくだから、動画も撮っておこう。何か写ったら、投稿でバズれるかもしれないし。


「僕は今、学校の資料室に来ていまーす」


 動画ボタンを押し、抑えめの声でナレーションを入れる。


「ウチの学校の七不思議だと、夜中にこの資料室に来ると、見えるけど触れないほこらがあるって話なんですね」


 カメラをほこらに向ける。やっぱり写らない。


「僕の目には今、ほこらがバッチリ見えてます。木でできてて、ちょっと神社っぽい形。かなり古びた感じです。でも、写真には写らないんですね。今も撮りながら確認してますけど、写ってないし」


 角度変えたら写ったりしないかな、と回り込んでみる。


「ちなみに七不思議だと、このほこらを壊すと呪われて死ぬとか、ヤバい霊が解放されるとか言われてます。でも、そもそも触れないなら壊せないだろってツッコミたいですねー」


 そんなことを言いながら、手を宙に向かって振る。宙に向かって、のつもりだったんだ。


 ばきっ。

「え?」


 手にはなんかに当たった感触。見ると、ほこらの屋根の端がちょっと欠けている。


「いやいやいやいや」


 何がいやいやなのか自分でも分からないけど、まずは屈んで床にあるはずの破片を……と思うと頭がほこらにぶつかる。


 ミシッとイヤな音がした。


 なんかほこらにヒビが見えるけど、これ最初からあったよね、きっと。


 ヤバい雰囲気を全力で否定しつつ屋根の破片を拾う。ほこらの壊れた部分に押し当てると、断面のささくれ同士が上手くかみ合うような感覚があった。


 ……もしかして、いける?


 そのままそっと手を離してみる。破片は一瞬持ちこたえたけど、やっぱり落ちる。

 それを空中でナイスキャッチ! したのだが。

 破片の断面が擦れたのか。ほこらに巻きついた縄が切れ、それに引っ張られてほこらの扉が空き、開いた隙間からススめいた黒い粉がこぼれる。

 もうダメだ、と僕は慌ててその場を逃げ出した。

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