鳥居のむこうに・・・
深 夜
① 岩 本・その1
ここ百年ばかりのあいだに、科学という学問はひどくつかみ所がなくなってきた。義務教育と、その延長みたいな高校教育を終えたくらいの大衆なんぞには、もはや最先端の科学なととうてい手には負えまい。いまや大衆は長年にわたるゆとり教育と個性偏重主義のせいで愚民化し、とくに餓鬼どもの学力ひいては常識力の低下は目をおおわんばかりだ。
安価で手軽な情報テクノロジーに支配された都市で、ジャンクフードとスィーツにまみれ呆けている餓鬼ども。連中にとって科学のイメージは、連中がこぞってつかう信じがたいほど便利で手軽な端末機械に象徴される、中世のいかがわしい魔術そのものだ。
連中は何ひとつ信じぬかわりに疑いもしない。
うそも現実も関係ない。
虚構も現実もごっちゃにして、そうすることで生まれてくる刺激的な味わいを食らってるだけ。 ただの情報中毒なのだ。だが、ここのような田舎町にはいっそう退化した連中がいる。
たとえばあいつら。
どいつもこいつも二度と顔を見たくない、いなかの田吾作どもだ――。
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今時めずらしい身体が伸ばせるベンチに寝て、ビル風に吹かれながらそんな事を考えていた。
あとすこしで朝が来る。
そうしたらクラブハウスにもどろう。
飲み会のあとのお決まりで、部室に汚いマットを敷いて雑魚寝している大久保たちを鼻で笑い、今度こそあの下らぬ研究会を脱会してやる。
起き上がって腕時計を見た
一時をまわり、まったく酒を受けつけぬぼくもとうに酔いからさめていた。
神社の入り口にならんだ車どめの柵は、大きな鳥居の下で濃い影法師と化している。入口の先の太平通りからはとうに人の通りが途絶えている。
反対側を見ればジャングルジムや滑り台がならぶ公園の奥には、古ぼけた社殿がある。
両側をりそな銀行と
しかし、この公園が非行やら何やらの温床になったという話は聞いたことがなかった。
妖怪がでる、とのいいつたえのせいだろうか。
生あくびを一つして、ぼくはまっくらな社殿の軒下にエビアンのボトルを放り込んだ。
▲
むかしこの境内はその名のとおり何本もの大きなクヌギの木にとり囲まれ、頭上を葉に覆われて昼間もうすぐらかったと言う。そして葉の生い茂った太い枝々の上には化け物が住んでいた。
言いつたえによれば、これがときおり地面に降りてきては人を喰ったという。
しかしとうのむかしに陰気な大木はすべて伐採され、神社に昔の面影はない。
そんな薄気味わるい昔話が今も語り伝えられてる神社でぼくが、こんな真夜中過ぎにひとりぼんやり過ごしているのにはそれなりのわけがある。
それなりの、愚劣極まるいきさつが
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