第276話 所詮は雑号将軍
俺も今では公家、いや公卿の末席に連なるようなものではあるらしいのだが、とにかく異質すぎるらしく、今ではそれなりの存在感があるらしい。
早い話が悪目立ちしているということらしい。
だからこそ、俺も危機感を持っている。
このまま何もしないでいると、将軍にでも祭り上げられる。
征夷大将軍職はいまだに追放した足利の何某が持っているので、名乗れないらしいがその名称にこだわらなければ別にかまわない。
征討将軍でも何でもいい。
所詮東北を討伐するために設けられた雑号将軍なのだ。
それこそ信長さんたちも加えて五虎大将軍とでも名乗らせようか。
まあこれは三国志に出てくる架空の将軍職だが、輸入した律令当時でも正式な将軍職はあったはずだ。
尤も日本がその職責をきちんと制度化したわけでもないだろうが、それでも征夷大将軍よりはましなはず。
そのことに誰かが気が付けば、それこそ終わりだ。
今のままだと祭り上げられるのは必至だ。
そもそも律令そのものがすでに破綻しているのだから、体制が固まり次第、新たに国の根幹を決める法律を定めて行かないとまずいだろうな。
それもすべては合議の席で話し合うとして、今はその前段階の準備だ。
卵と鶏の議論じゃないけど、先に体制を定めてからの方が俺としては担ぎ上げられるリスクが小さいので、国をまとめる前に、今の余裕がある時期に体制を固めておく。
少し前の常識では天下などと大げさに言われてはいるが、畿内程度を抑えたくらいを天下と呼んで憚らなかったらしい。
足利将軍職も同程度、いや、それ以下もおさえきれていなかったらしいのだが、それでも天下の大将軍と自ら称していた。
そこから考えると今の俺たちは既に天下を治めた状態なのだそうだが、精々畿内に一部はみ出した程度の領地しか抑えていない。
スペインやポルトガル、それに直にオランダやイギリスからのちょっかいが予想されているだけに少なくとも九州地方までの西は完全に抑えておかないとまずい。
東北は東北で面倒ばかりのようだし、関東も同じような感じだ。
だから戦国時代なのだろうが、は~、ほとほと庶民には住み辛い世の中に来たものだ。
俺は京の治安を守る傍ら、俺の領地となってしまった若狭や越前のことにも考えないといけないらしく、本当は丸投げをしておきたかったのだが葵までも使っているので流石にできない。
まあ、若狭については葵が半兵衛さんと上手に回しているようなのでまだ大丈夫と踏んでいる。
一応山陰方面からの侵攻を考えなくもないが、まだ尼子が毛利に対して頑張っているが、そういえば半兵衛さんからその尼子からの使者が度々訪ねてくるがと言っていたな。
どうしよう。
尼子が頑張っているうちは若狭は安全と言えば安全なのだが、ここで落ちぶれている尼子に手を貸せば毛利と関係が悪くなるし、何より尼子が俺たちに望んでいるのが俺の持つ兵力だろう。
そう俺たちに毛利と戦えと希望している。
葵を毛利との戦争に使いたくもないし、俺も戦争などしている暇もない。
忍びさんたちの報告によれば、すぐには落ちないだろうが、尼子が拠点を置いている真山城は持って数年だろうと聞いている。
貴重な数年だけど、とにかく今は放置だ。
半兵衛さんも同じように言っていた。
俺から積極的に毛利と戦う意思が無い限り、尼子にかかわるなといった感じだ。
まあ、かかわっても俺たちに利点などない。
俺の配下に収まるのならばそれでも利点など感じないのに、名門意識の強い尼子氏がどこの馬の骨かわからない俺なんかに頭を下げてくることなぞありえない。
その証拠に、半兵衛さんに使者を出してはいるようだが、俺のところには使者の一人も来ていない。
それに聞くところによると、半兵衛さんに来ている使者も尼子氏本人からの親書を携えているのではなく、家老の誰それからの文書を持ってきているだけらしい。
その失礼な態度に半兵衛さんが怒っているのかもしれないが、外交的にありえないでしょう。
『応援させてやるから、俺の主が殿に口きいてやるから兵を出せ』って態度らしい。
確かに尼子氏は中国地方の名門だったよ。
それこそ滅んだ大内氏と二大勢力を誇っていただろうが、国人領主の毛利にとってかわられている現状でもその態度が取れるだけある意味俺は感心している。
まあ、直接その使者にあったわけでもないから何とも言えないけど、半兵衛さんからの報告では、かなりご立腹だという様子が行間に受け取れる。
俺は無視して領内の安定を急ぐように半兵衛さんに頼んでおいた。
そんな感じでこの年も暮れていった。
とにかく何もなかったと言えばいいのか、それでも忙しかった一年だった。
そういえば元号も変わらなかったな。
どこからも改元のお願いをされていない。
まあ、改元を希望していたのは俺の知る歴史では足利の新将軍に就任した足利義昭だったはずだが、そんな人知らん。
どこに行ったのか今の将軍って、確か三好が担いだ人だったはずで、信長さんは将軍さんを担ぎ出していないし、保護していたと聞いている朝倉氏もとっくに滅んでいたしな。
歴史はいよいよ俺の知るものから離れている。
今更な感じだが、確か元亀だったかその元号は吹っ飛んだ格好だ。
俺は京の屋敷で新年を迎える準備にかかる。
家人たちにお願いを出してはいるが、正直この屋敷で迎える正月は初めてかもしれない。
いや、きちんと準備からは初めてだ。
そうなると今後この形が俺のところの正月スタイルになっていくが、どうしよう。
賢島にも来てくれと頼まれてもいるし、三蔵村にもいきたいしな。
尤も三蔵村は今更感ありありで、昨年はお邪魔した気がするが、何年も放っておいた記憶もある。
九鬼さんの居城にも行っていたけど、五宮が嫌がっている。
なんでも、俺の部下になるところに向かうのではなく、彼らをここ京の屋敷に呼べと言っている。
俺はどうしていいかわからずにとりあえずこの件については放置していた。
いよいよ年の瀬も迫り、忙しくなってくると、御所周辺での年末年始の行事についての諸々なことが増えてくる。
ほとんどがお金の無心につながるのだが、それはある程度覚悟もしていたし、それに備えて蓄えもしていたので問題ない。
が、その御所周辺の用事でいよいよ年末年始は京から離れるわけにもいかなくなってきた。
昨年はそんなことなかったじゃんと愚痴をこぼしたら、五宮はこれほどないくらいの爽やかな笑顔でに種明かしをしてくれた。
なんでも俺からの寄付で、長らく途絶えていた行事が次々に復活しているらしく当然公卿に連なる俺にも仕事が沸いていることらしい。
俺は予定を聞いて、俺の正月行事を諦めていると、今度は若狭の半兵衛さんからの問い合わせをきっかけに越前の藤林さんそれに伊勢の九鬼さんからもいつ年始の挨拶に伺えばいいかとの問い合わせが入る。
俺が返事を考える前にすでにその行事も組み込まれていたようで、五宮から各地に伝令が走っているとか。
近々伝令が返事を持って帰るから待ってほしいと伝えてきた。
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