第25話 「孫氏の兵法」

 (…彼を知り、己を知れば、百戦殆うからず…)

相手を知り、自分を知れば、負けなし 

 


俺は、中曽根さんを送り出した後、心の中で、そう呟いた。

 

それは、前世で学んだ「孫氏の兵法」の一節だった。

 


 (…前世では、人生を諦めて、人と交わる事をしなかったから、この知識も、無意味だった…)



当時の俺には、この言葉の意味が、理解できなかった。



ただ、知識として、頭に詰め込んだだけだった。




(…だが、今世なら、きっと、役に立つはずだ)



俺は、そう確信した。



敵は、澤村丈二。

己は、中田龍。


(…まずは、敵を知らなければならない)



澤村の性格は、下には滅法強い。

だから、中曽根の借金を、素直に、受け取るはずがない。

彼は、中曽根を、自分の手のひらで、転がしていたいのだ。

だから、彼女を、夜の店から、辞めさせないだろう。



(…ならば、俺が、できる事は、一つしかない)



俺が、今、使える武器は、「鶴屋正久」の力。



(…鶴屋を使い、澤村に、土佐組の影を見せつけ、恐怖を与える)



俺は、その戦略を、脳内で、組み立てていった。


(…孫氏の兵法には、こうも書いてある。「戦わずして勝つ」)

戦う前に、勝敗を決める。


それが、最も、効果的な戦略なのだ。


(…澤村は、上には、滅法弱い。そして、土佐組の影には、恐怖を抱いている)



俺は、澤村の性格を、しっかりと、理解していた。



(…そして、己を知る)


俺は、前世での理不尽な経験から、恐怖を克服し、冷静な判断力を手に入れた。


(…前世の失敗を、繰り返すわけにはいかない)



俺は、心の中で、再び、誓った。

(…今度こそ、全てを、手に入れてみせる)



俺は、静かに、電話を取り出した。

(…澤村よ、待ってろよ!)

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