about girl

氷星凪

prologue

「挨拶は一回で良いです。


 私が始まりの人間です。人間の始まり?まあどっちでもいいのか。


 私が今から、これから出てくるであろう後世の皆さんに対して、挨拶をしたいと思います。何回も何回も同じことを言うっていうのは、馬鹿みたいじゃないですか。

 神様が自分の体を模倣して、私という人間を作ったんです。自分で言うのもあれですけど、他の生物よりも知能、力、どの点においても明らかに上回っていると思います。


 そんなわけで、時代はもう効率化ですよ。何事も早めが良いっていうのは世の常でしょう。


 あ、言い忘れてましたけど、私三代目の始まりの人なんで、はい。一世代前の世界の記憶を一度神様に全部見せてもらってから、地に来てるんですよ。

 あんま覚えてないですけど、一世代の前の世界は、何やらIT革命だとかAI技術だとか、凄い進歩してたらしいじゃないですか!私ちょっとワクワクしちゃいましたよ。


 そんな光景を見て思ったのが、私、もっと早く時代の流れを進めたいなって。だって、なんか遠回りなこともしてたりしますよね、戦争とか。正直あそことか見てて退屈だったんですよ。人がいっぱい死ぬとかそういうのばっかだし。


 もっと真っ直ぐに、世界の速度を早めたいなーと思いまして。なんで、色んなことを効率化していこうって魂胆です。


 それの第一段階が挨拶。挨拶だけはどの時代でもどの地域でも、みんなずーっとしてんの、なんでかわかんないけど。そんなんいらないから。時間の無駄だから。

 御託も正直好きな方じゃないからこの辺で。今から、みんなの一生分の挨拶を私が担うからね。未来のみんな、まだ無い耳でちゃんと聞いときな」



 長い語りを終えて、彼女は生命の源となる大樹のふもとへと足を運んだ。彼女は、そこで大きく息を吸い、大きく口を開けた。


 口を開け、声を出すまでの刹那、彼女の胸には一つの矢が突き刺さった。胸から血が流れ、心臓に真っ直ぐと突き刺さった矢は、彼女が地面に倒れた後、泡のように消えていった。



 神様は、木製の箱の中にゆっくりと弓をしまった。もう一度地を見ながら、ただ一粒だけ彼は涙を流した。

 そして、何もなかったかのように彼はまた雲を掬い取り、新しく自分の形を真似た塊を作り上げた。その塊の後ろ側には、先ほど作った始まりの人間と同じ名前を小刀で掘った。


 その塊を自分の足元へと置き、また雲を掬い始めた。どんどんと、その人型の塊を作り、地へと放っていった。それは日が暮れるまで続いた、まるで一日のノルマをこなすかのようだった。

 その日の夜、神様はその塊を家へと持ち帰り、愛用している棚の奥の方へとしまった。



 気がつけば、何千年が経った。世界は一世代前の物のように、ビルが立ち並び、電波が飛び交う、そんな発展した都市が形成されるほどになっていた。

 道は舗装され、車という鉄の団子が煙を上げて走っている。インターネットサービスももうすっかり人々の間には定着しているようだった。


 それを見た神様は、家へとゆっくり歩を進め、廊下の突き当たりにある、使い込んだ棚の引き出しを開けた。奥の方へと腕を突っ込み、埃を被った一つの粘土の塊のようなものを取り出した。

 埃を払いながら、少し崩れていた形を整える。そして、その塊を何千年もの時を経て、地へと放り投げた。


 神様は手を合わせ、小さく呟いた。


「なんであなたが運命を背負わなかったか、それは私の勝手な親心です」

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