私の悪魔とエイリアン

苔葉

第1話 侵略者と絶望の夜明け

空は燃えるような赤に染まり、轟音が東京の中心部を貫いた。爆撃の光弾がエイリアンの浮遊艦から放たれ、遥か彼方の街並みを飲み込んでいく。


地響きが鼓膜を揺らし、焼け焦げた風が肌を刺す。


頭上を無人戦闘機が旋回し、自衛隊の戦闘機との死闘が繰り広げられていた。


空中での激しい戦闘の余波が地上に降り注ぎ、ビルの瓦礫と炎が広がる戦場を埋め尽くしていた。


ここは地獄だ。





―― 東京 総理官邸防衛ライン ――





「敵機械歩兵、三時の方向!」


隊長の怒号が無線越しに響く。兵士たちは瓦礫を飛び越え、影から身を乗り出すと一斉に銃口を向けた。炸裂する銃弾が敵の機械兵士をかすめ、金属の外殻を弾き飛ばす。


「装甲の隙間を狙え!」


兵士は指示通りエイリアン兵士の胸部装甲に狙いを定め、ライフルを放った。炸裂する銃弾が金属の外殻を弾き、敵兵が地面に崩れ落ちる。


「左前方、バスの後ろに敵兵!手榴弾を使え!」


隊長が瓦礫越しに叫ぶ。兵士は即座にホルスターから手投げ弾を取り出し、敵陣に向けて放り投げた。爆音が響き、土埃が舞い上がる。


「よし、制圧しろ!一斉掃射!」


兵士たちは一斉に攻撃を開始し、敵の前線を崩していく。


「撃ち方やめ!視界を確保!」


地鳴りのような振動が地面を揺るがしたのは、その時だった。視界の端に現れた巨大な影が、兵士たちの心を凍りつかせた。


「待て……でかいぞ、あれは――」


四脚を持つ巨獣のような兵器だった。トラプトニアンの破壊兵器。崩れたビルの瓦礫を踏み砕きながら進むその姿は、無敵の象徴そのものだ。


「要人が朝霞駐屯地へ移動するまでここを死守する!使えるものは何でも使え!無線で他の小隊に応援を要請しろ!」


「敵歩兵前方!数え切れません!」


「無線応答なし!」


「残存部隊は我々だけです!」


隊長の指示を背に、ある兵士が瓦礫に埋もれた自走砲を見つけた。その砲身はまだ使えるかもしれない。彼は迷うことなくハッチをこじ開け、内部に飛び込んだ。


「まだ動くか……?」


エンジンがかすかに唸りを上げる。彼は操作パネルに目を走らせ、残された弾薬を確認した。そして、あの巨体の脚部を狙って照準を合わせる。


「防御シールドの薄いとこ……当たれよ!」


トリガーを引くと、火を吹いた砲弾が敵の脚部を直撃する。巨体がよろめき、一瞬の静寂が訪れる。


「よしっ!次だ!」


連続して放たれた砲弾がデータリンクモジュールを撃ち抜き、巨大兵器は崩れ落ちた。


「おぉぉぉーー!」


兵士たちの雄叫びがこだまする。しかし、その歓喜は一瞬の幻に過ぎなかった。



「敵兵が接近中!12時方向!9時方向!3時方向!囲まれます!」


「左に移動!戦力を集中する!最終防衛ラインまで後退しろ!」


「作戦司令部より通信!『その場を死守せよ』との命令です!」


「クソッ、囮にされたか!」


「上空!敵機接近中!残りの誘導弾を使え!」




戦闘の喧騒が朝まで続いた。だが、次第にその音が消え、辺りは静寂に包まれていく。夜明けとともに戦場は廃墟と化し、兵士たちも地に伏して動かない。


一人の兵士が焼け焦げたライフルを肩にかけ、瓦礫の中で立ち尽くしていた。




耳に残るのは風の音だけ――仲間たちの声は、もうどこにもない。




赤い朝日が廃墟を染める。瓦礫の影に立つ兵士の背後には、国会議事堂が静かにそびえていた。


高層ビルの残骸を見つめ、兵士は小さく呟いた。




「俺達は……使い捨てにされたのか……」

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