第1話 春の祭り
春祭り当日の昼前頃。
セナは駆け足でシウォンとルソンとの待ち合わせ場所である王城の中庭へと向かっていた。
「ルソン、シウォンー! 待たせたわね」
セナがシウォンとルソンの元へとやって来るなり、ルソンは意地悪そうな笑みを浮かべてから口を開く。
「あ、姫さま? 遅いですよ〜! 支度に時間かかりすぎじゃないですか?」
「全くルソンは意地悪ですね。セナ、安心してください。私達もセナがくる5分前くらいに来たばかりですから」
シウォンはルソンに少し呆れながらセナを見て優しく笑いかけながら告げた。
「それならよかったわ! じゃあ、行きましょうか?」
「そうですね、あ、護衛もう一人いなくて大丈夫ですかね?」
「ルソンは強いですからね。護衛はルソン一人で十分じゃないですか?」
「まあ、そうですね。何かあったら俺が命掛けて守りますよ」
✳︎
「王都は相変わらず賑やかね」
セナはそう言いシウォンとルソン共に立ち止まり、王都の雰囲気を感じ取る。
今日は春祭りの日であるせいか、王都はいつにも増して活気づき、普段からいる商人に加え、多くの行商人や旅芸人が集まり、持ち寄った特産品を売る声や己の芸を披露し客が歓声を上げる声が入り混じっていた。
「そうですね〜! あ、姫さま、あそこにリンゴ飴がありますよ」
ルソンはリンゴ飴が売られている屋台を見つけて指差す。
リンゴ飴が大好きなセナはルソンの言葉にすぐ反応しルソンが指差した方を見る。
「本当だ! 食べたいから行くわよ!」
セナは両隣にいるルソンとシウォンの顔を交互に見てそう言ってから、ルソンとシウォンの手を取り。ルソンとシウォンの手を引いてリンゴ飴が売られている屋台に向かって歩き始めた。
✳︎
セナ、シウォン、ルソンの3人は先程、りんご飴が売っている屋台で買った赤色の丸い形のりんご飴を屋台の近くにあった木製で作られた茶色い長椅子に腰掛けながら食べていた。
「んー! やっぱりりんご飴は美味しいわね〜!」
「セナは本当にリンゴ飴が好きですね」
「姫さま、祭りの日以外もリンゴ飴食べたいって言って、俺に買いに行かせた日ありましたもんね〜」
毎年、春祭りの日、王都に来ると必ずと言っていいほど買っているりんご飴。セナの中で確実に好きな食べ物に入りつつある。
美味しそうにりんご飴を頬張るセナを横目に見ながら、シウォンとルソンは優しい笑みを浮かべていた。
リンゴ飴を食べ終えたセナ達は屋台を見て回り始める。
「お? 射的じゃないですか!」
ルソンは射的の屋台の前で足を止める。
そんなルソンに屋台の店主は『やってくか? お兄さん』と声を掛ける。
「はい! シウォン様もやりましょうよ!」
「いいですよ〜! セナ、何か欲しい物はありますか?」
「そうね〜、あ! あの、青い腕輪が欲しいわ!」
セナがそう言い指差したのは、四角い箱に入っている青色の腕輪だった。
「あの腕輪ですね、了解ですー!」
「セナ、頑張って取ってあげますから、見ててくださいね」
シウォンとルソンの言葉にセナは頷き返す。
屋台の店主の男から景品を当てる為の射的銃を渡されたシウォンとルソンはどっちが先にやるかを話して決めてから動き始める。
「シウォン様、姫さまにかっこいい所、見せてあげてくださいよ!」
「ルソン、私、プレッシャーに弱いんですよ! セナ、もし外したらすいません」
「大丈夫よ! 頑張って、シウォン!」
シウォンは応援の言葉をかけてくれたセナに頷き返してから、セナが欲しいと言った青色の腕輪に狙いを定めて1発目を撃つ。
射的銃から出た弾は青色の腕輪の箱を掠めて少し揺れるが、倒れることはなかった。
「あー! 惜しいですね」
「また2発あるわ! シウォン、頑張って……!」
「はい! 次こそは……!」
再度狙いを定めて2発目を撃つシウォンであったが、当たらず。シウォンは悔しそうな顔を浮かべる。
「もし、私が取れなかったら、ルソン頼みましたよ」
「はい! 任せてください」
ルソンにそう言われて少しばかり安堵したシウォンは再び狙いを定めて最後の3発目を撃つ。
パァン!と鳴り響く音がセナとルソンの耳に届く。
「あ、外しちゃいました……!」
「シウォン様、後は俺に任せてください!」
自信満々にそう言ったルソンは射的銃を手に取り、箱に入った青色の腕輪に狙いを定めて1発目を撃つ。1発目は箱を少し掠めたが、倒れることはなかった。
「あー、これは難しいですね〜!」
「ルソン、頑張ってください!」
「はい! 姫さま、ちゃんと見ててくださいよ!」
「ええ、見てるわ!」
ルソンは2発目を撃つ為、狙いを定めてルソンは2発目が撃つ。
2発目の弾は青色の腕輪が入った箱に命中し、倒れる。
「おお、お兄さん、上手いね〜! ほい、これ景品だよ〜」
「ありがとうございますー! あ、これお金です」
「はいよ、まいどあり〜!」
ルソンはセナが欲しいと言っていた青色の腕輪が入った箱を受け取ってから、セナとシウォンの元へと戻ってくる。
「ルソン、かっこよかったです! 流石はルソンですね」
「ありがとうございます、シウォン様。あ、姫さま、これ」
ルソンは手に持っていた景品である青色の腕輪が入った箱をセナに手渡す。
「ありがとう、ルソン。とてもかっこよかったわ!」
「はは、そうですか? なら、よかったですよ〜!」
「じゃあ、ルソン、セナ、行きましょうか?」
シウォンの問いにセナとルソンは頷き返し、セナ、ルソン、シウォンの3人は再び歩き始めたのであった。
その後セナ達は色々な屋台を見て周り、夕方頃、王城へと帰ってくる。
「今日は楽しかったわ〜! ありがとう、ルソン、シウォン」
「こちらこそですよ! また、来年も3人で一緒に行きたいですね〜」
「だな! じゃあ、シウォン様に姫さま、ゆっくり休んでくださいね」
ルソンの言葉にセナとシウォンは頷いてから口を開く。
「ええ、ルソンもね。じゃあ、私は部屋に戻るわ」
「私もそろそろ戻ります。ルソン、セナ、今日はありがとうございました。では、失礼致します」
セナとシウォンの2人はそれぞれの部屋に戻る為、その場を後にする。
ルソンはセナとシウォンの去って行く後ろ姿を見送り、一人になってからポツリと呟く。
「いや〜、気付かない振りをしていたかったんですがね。俺はシウォン様と姫さま、2人とも大好きなんですよ。はぁ……、困りましたね〜」
そんなルソンの切なげな声は春の穏やかな風に溶け込むように消えていった。
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