それぞれのスキル

 この日の夜、雨宮たちはリビングで作戦会議をおこなった。


 ヒーライの魔王というものを、雨宮たちはヒーライという国を執り仕切っているのが魔王だと思っていたが、どうやらヒーライという名の魔王であるらしい。


「で、そのヒーライってやつはどういうやつなんだよ?」と、森川が今更ながらゴブリンに訊いた。


「ヒーライは、あらゆる魔法を駆使して襲ってきます。火、水、風、雷など、魔神のようなやつだ。昔、ヒーライを倒そうと諸外国が連合を組んだんだが、ものの数時間で壊滅状態に陥った」


 ゴブリンが神妙な面持ちで静かに言った。それは、まるで触れてはいけない禁忌について話すようだった。


「怖いわね。そいつは無限に生きているんですか?」


 今度は、堂前文部科学大臣が訊ねた。


「ああ。どうやら、永遠に生き続けるらしい。ただ、今はまだわからないが、それを打破する方法はあるらしい」


「今はって?」


「わからない。ただ、方法はどこかにあるはずだと国王陛下がおっしゃっていた」


「なんだよそれ」


 勘解由小路が、自分の爪を見つめながらボソッと言う。期待外れの回答に、森川もため息をついた。


「じゃあ、本当に物理で闘うのか?」


「今は、それしかない」

 

 長い沈黙が流れた。お葬式のような雰囲気と言えば近いだろう。老人も、ニンゲンも下を向いたままだ。


「あー、もう! なんなんだよそいつ! 絶対しばいてやろうぜ!」


 川畑法務大臣が、我慢できなくなったのか、いきなり机を叩いて身を乗り出した。彼は、こういう正義感だけは人一倍強い。

 そういう人柄も評価されて、原幹事長から法務大臣に推薦された。


「そうだよな! 俺たちがやらないと、これ以上犠牲が増えるのは政治家としては許せん!」


 片岡衆議院議長も、川畑に釣られて声高に叫んだ。


 それから、大財財務大臣や大場厚生労働大臣らも同じように闘う意思を表明した。


 それを見た雨宮も、心強い味方で良かったと思った。それに、そんなメンバーが雨宮内閣の閣僚として働いてくれていることに、今一度心の中で感謝した。


「ありがとう。君たちには、大いに感謝している」


 ゴブリンがそう言うと、一同は深く頷いた。ただ、それだけでなにも進展は無かった。それは、今の現状のまま、物体浮遊と物体消去の魔法で頑張るしかないということだ。


 雨宮は、自分にだけ支持率が戦闘力へ、そのまま直結するというスキルはある。

 ただ、他の大臣にはスキルがなく、それはみんなを危険に晒すということになるのではないか。


 雨宮は、ジワジワと迫ってくる緊張感と恐怖心、罪悪感が芽生えてきた。


 眠りにつこうにも、閉じた瞼の中で、その思いが妙にリアルな映像として再現し、反芻し続け、なかなか眠れなかった。


 気がつくと日が昇っており、リビングからは数名の話し声が聞こえてくる。


「あ、もうみんな起きてるんだ」


 雨宮は、体を起こし、蛇口を軽く叩いて水を出した。昨日よりは、水圧が強い。

 すぐに顔を洗う。水が冷たい。顔が引き締まるような気がした。

 顔をパンパンと軽く叩き、扉を開いた。


 そこには、森川、堂前、車田がゴブリンと楽しそうに会話していた。


「お、総理。おはよう」と、森川。


「おはようございます。眠れました?」と、堂前。


「おはようございます、総理」と、車田。


 ゴブリンは、雨宮をみるやいなや、立ち上がって、雨宮の朝食を運んできてくれた。


「これは、仔羊にパン粉をまぶして焼いたものだ。それでこっちはサラダ」


「それ、意外と美味いぞ」と、森川が腕を組みながら言った。


「ありがとう」と、雨宮は頷いて、ゴブリンに向かってお礼を言う。ゴブリンは、うんうんと頷いて、元の席に戻った。

 そして、キッチンから持ってきたミカンのような柑橘系の果物の皮を剥き始めた。


 酸っぱいような甘いような懐かしい匂いだった。


「それなんだ?」と、森川も気になって訊ねた。


「あ、これか? これはマンダリンカという果物だ」


「マンダリンカ? マンダリンオレンジみたいや名前だな」


「マンダリンオレンジ? お前らの世界にも、マンダリンカがあるのか?」


「まあ、似たようなものがな」


「一つ食べるか?」


「あ、いいのか?」


 森川が、ゴブリンからマンダリンカの実を一つ受け取り、それを口に運んだ。

 思っていた味なのか、森川が大きく頷き、美味いと言った。

 それを眺めていた車田と堂前も、ゴブリンに一つ欲しいと言うと、ゴブリンが再び台所にいって、取ってきた。

 雨宮の分も持ってきてくれたため、それを受け取った。


「確かに、美味いな」


 三人が舌鼓を打っていると、一人また一人と、起きてきた。



「では、五時間後。つまり、正午にここを出発し、王宮へ戻る。それまで、準備等よろしく頼む」と、ゴブリンがみんなの前で語るように言った。


 全員が頷くと、横に立っていた老人が「まもなくじゃな。ただ、お前らの魔法はか弱い。ワシから一人一人に、ミニスキルのようなものを与えよう」と、意気込んだ。

 全員が、嬉しそうに目を見開いた。


 しかし、老人はどんなスキルを与えられるかがわからないと言う。

 それは、この建物の地下にある大きな鏡の前に立ち、そこに映る背景がその人のスキルになると言う。

 ただ、そこに映るのは、鏡の前に立ってみないとわからないらしい。


 その話を聞いた一同は、それでも何か欲しい、このままじゃ心許ないなど、口々に老人に言い寄る。


 老人は、わかったといい、全員を地下室に連れて行った。


 地下は真っ暗で、灯りがついていなかった。ゴブリン、妖精、ニンゲンがそれぞれ杖で炎を出し、それを頼りに歩いていく。

 暗くしまった地下室は、かなり広そうだった。全体を視認することはできないが、足音の反響や、話し声の響きから、相当広いのだろうと、推定できる。


「これじゃ」


 地下室への土で造られた階段を下って、しばらくした頃、老人が小さな声で言う。まるで、他の誰かに聞かれないようにと、注意を払っているようだった。


 何も見えなかった暗闇から、ゴブリンたちの炎がいきなり反射され、全員が手で目を遮った。


「なんだこれ」


「でかすぎだろ」


 口々に、閣僚は驚きの声を上げる。老人に示された鏡は、縦が横の二倍ほどある大きな鏡だった。

 それは、きれいな長方形ではなく、歪な形をした、はっきり言えば、ボコボコして反転した日本列島のような形をしていた。

 

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