新たな官邸は、不便だらけ⁉︎
「では、ここの部屋をお使いくださいませ」
内閣総理大臣就任式を無事に終え、雨宮は新たに付けられた秘書によって、官邸に案内された。宮殿は、国会の上の階にあり、すぐに案内された。
部屋の広さは、今まで豚箱のような部屋と比べて、五十倍以上の広さだった。
他の大臣たちは、それぞれの秘書がつけられて、それぞれの部屋に案内されて行った。
「まずは、この政治要項と王立典範をお読みください」
そう言って、秘書が渡してきたのは、それぞれ千ページを超える分厚い本だった。
「え、なにこれ? こんなの読みたくないんだけど」
「ダメです。皆さんに読んでいただいております。国王陛下の前で、覚えられているかのテストもございます。しっかり読んでくださいね。期限は明後日です」
「いやいや、ちょっと待てよ!」
しかし、秘書は意に介さずに出て行った。雨宮は、二冊の分厚い本と向き合ったまま、動かなくなった。元々、読書は好きな方だ。しかし、合計二千ページを明後日までは、いくらなんでも鬼畜すぎる。
本当に他の大臣も読んでいるのか、俺だけじゃないのか、と訝しんだ雨宮は、別の部屋にいる誰かに聞こうとしたが、この部屋には電話がなかった。
「電話ないのかよ。ん? なんだこれ?」
雨宮の気を引いたのは、机の上に鳩のマークが描かれたボタンだ。
気になって押してみようか。いや、本当に鳩が出てきたら困る。
「なんなんだよこれ。あいつ、何も説明せずに出て行くなよなー、もう」
ぶつぶつ文句を言いながら、取扱説明書がないか探していると、何かが当たってしまったのか、鳩のボタンが起動してしまった。
「あ! まずい!」
すると、窓からスズメが飛んできた。
「いや、スズメかよ! どう見ても鳩だろこれ」
飛んできたスズメは、おとなしくデスクライトの上に停まっている。それに、そのスズメは、嘴に葉書サイズの紙を咥えていた。
「ん? なんだこれ。何も書いてないけど」
矯めつ眇めつ仔細に検めていると、雨宮は、何かを思いついたように、手を叩いた。
「もしかして、これ伝書鳩みたいなやつか? これの場合は伝書スズメだけど」
雨宮は、スズメから紙を受け取り、羽ペンを取り出す。
しかし、この羽ペンの羽が大きくて文字を書きにくい。
「お前も、二千ページの本読んでるか? あんなの読むやついるか?」と、適当に書いてみた。どうせ届かないだろうという公算の方が高い。
「これ、本当に届くのか? あ、そういえばどこに宛先書くんだ?」
日本の葉書のように、右上に郵便番号を書く赤い四角はない。
雨宮は、取り敢えず、森川の名前を書き、スズメに咥えさせると、パタパタと飛んでいった。
それから、しばらくは何も変化はなかった。雨宮は、特にやることもなかったので、仕方なくあの千ページの本をペラペラとめくっていると、窓が一瞬暗くなった。
「ん?」
一瞬だったので、何かはよくわからなかったが、次の瞬間、部屋の中に勢いよく何かが飛んできた。
「うわ! 何だよ!」
ワサワサと羽ばたかせて現れたのは、ガンだった。
「いや、ガンって渋すぎだろ!」
森川の郵便鳥は、サカツラガンという、カモの仲間だった。
あまりにも、雨宮のスズメと格が違うように思えたが、仕方がなかった。
いや、もしかしたらどの鳥が出てくるのかはランダムなのかもしれないと思うことにした。
そして、森川から来たであろう手紙を見ると、案の定森川から来ており、先ほどの返信が書かれていた。
「仕方なく読んでるよ。それにしても、分厚すぎて読みたくはないがな。総理はどうだ? 部屋とか、色々優遇されてそうだけどな」
森川の返信を読み終えると、雨宮は再び鳩マークのボタンを押した。
しかし、現れたのは先ほどのスズメで、どうやらこれは各部屋によって異なり、現れる鳥は固定らしい。
「あれ読んでるのか。俺は読む気がない。他の部屋はどんなのかわからないが、恐らくみんなと同じだと思う。しかし、秘書らしきやつの説明がないから、いちいち不便だよ」
雨宮は、再びスズメを飛ばし、返信を待つことにした。
すると、五分も経たずに、鳥が飛んできた。しかし、現れた鳥は、森川のサカツラガンではなく、美しいハクチョウだった。
ハクチョウは、ゆっくりとデスクライトの上に停まると、紙を丁寧に机に置いた。
宛名は、福本官房長官だった。
「総理。いかがですか。私の秘書は、適当で何も説明がないまま出て行きました。何とか、取扱説明書を見つけました。まだ、見つけていなかったらと思い、皆さんにお送りしました。取扱説明書は、王立典範の七百九十五ページに載っています。ちゃんと読めと言っていたのに、私としたら……」
いやいや、あの短時間で七百ページも読んだのはすごいだろ、と一人ごち、実際に開いてみると、本当に書いてあった。
伝書鳩ボタンを押すと、その人にあった鳥が飛んでくると書かれていた。
どうやら、雨宮に合っている鳥はスズメらしい。
「どうせなら、フクロウとか鳩ならが良かったな」と呟き、読み進める。
あらかた、取扱説明書を読み終えると、この部屋のある程度の仕組みはわかった。
どうやら、この部屋は魔力によって守られており、命の保障は確実のようだ。
また、椅子の横に付いているという四つのボタンは、それぞれ左から、秘書を呼ぶボタン、マッサージを起動するボタン、探し物を光らせるボタン、机の上を片付けるボタンとなっている。
「これ、いつ使うんだよ」と、右端のボタンを押すと、さっき使っていた羽ペンがゆっくりと浮き上がり、引き出しがゆっくりと開き、ゆっくりとしまわれた。
「おー」と、それ以上の感想が出ない程度の魔法ではあるが、それはそれで便利ではあった。
秘書を呼ぶボタンを押すと、すぐに秘書は現れた。
「いかがなさいました?」
「あ、いや。ちょっともう少し説明してから出て行ってくれないかと思ったんだが」
「え、総理なら分かると思ったんですが。分かりませんでした? 今まで何されてきたんです?」
矢継ぎ早に、批判めいた口調で問われた雨宮は、先ほど妖精に、日本という国から来たということは、一般的には隠されていると言っていたことを思い出した。
「あ、すまんすまん。それは失礼」
そう言うと、秘書はため息をつきながら出ていった。その顔は、こいつ大丈夫かというような不安が少し現れていた。
「さて、これからどうするか。あの妖精は、それぞれにスキルがあると言っていたな。どういうことだろう」
雨宮が今までの生活で、スキルのようなものを使っている閣僚は見たことがない。
福本も森川も、車田も。
「本当にあるのかよ。魔王なんて絶対いないと思うけどな」
脳内で考えていたにも関わらず、あの妖精のことを思い出すと感情的になってしまい、つい声を出してしまった。
その時、窓からスズメが飛んできた。なにやら、新聞のようなものを運んできたようだ。
「新聞? 頼んでないけど……」
読んでみると、雨宮内閣の支持率は七十六パーセントであると一面に書いてあり、内閣の写真が大きく掲載されていた。
すると、雨宮はなんだかやる気がみなぎり、千ページを超える政治要項をスラスラと読み進めていった。
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