内閣総辞職は、日本よりも盛大らしい

 内閣一同は、妖精に叩き起こされて朝を迎えた。なんでも、今日は現内閣が総辞職する日である。

 つまり、この日から雨宮内閣はこの王国の主権者となる日ということである。

 雨宮は、大きく息をついた。妖精から渡された今日の予定表は、分刻みで予定されており、それを見るだけで頭が痛くなりそうだった。

 実際に、横からチラッと見た森川は、「うわ……」とボソッと呟いた。


 まず、総辞職に際して、現職総理大臣および内閣、国王陛下、皇后陛下、与党代表、野党代表、王立庁長官おうりつちょうちょうかん王立会議室長官おうりつかいぎしつちょうかん憲政府長官けんせいふちょうかんなど、見たこともない役職の名がツラツラと書かれていた。そして、それぞれ十分程度の話が予定されており、その中に次期総理大臣として雨宮の名前もあった。


 雨宮は、当日になって、十分程度のスピーチをしろと言われても、どうすることもできない。数日前に来たばかりで、この国の政治制度なども何もわからないからだ。


「おいこれ、俺何も聞いてないぞ」


「あ、忘れてました! 考えといてください!」


 妖精は、女性議員の着付けに手こずっている。なにやら、この国の正装を着るのに手伝っているようだ。

 もちろん、雨宮たちも正装と言われる黒のスエード調のジャケットと、ステテコのようなパンツを配られた。

 どういう訳か、サイズはぴったりだったが、車田と国破のものは、ちょうどのサイズがなかったのか、いくつかの布を縫い合わせて作られていた。


「おい、これどうやって着るんだ?」


 森川が訊くと、妖精は、こいつらは自分で考えられないのかというような態度で、雑に教えた。

 スエードのジャケットについているボタンは、どうやら見せかけだけのようで、実際にはシャツのように上から被るように着るとのことだった。

 確かに、考えれば着られるわけだが、ジャケットの見た目だったら誰だってボタンを外して羽織るように着るだろう。


「魔法文明のくせに、縫い合わせてあるぞ」


「本当だ、魔法で大きくできないのか」


 車田と国破は、いまだに文句をぶつぶつ言っている。


 女性らの服装は、日本の着物のような見た目ではあるが、下はスーツのようなパンツを着るようだ。


「あ、暑苦しい……」


 福本官房長官がボソッと言うと、パタパタと内側に風を送ろうとした。しかし、妖精はそれを見て怒った。どうやら、その服装をしている間は、パタパタと風を送るような仕草はしてはいけないのだと言う。シワになると、弁償してくれと妖精は言う。


「いくらよ」


「五十万カランです」


「カラン? 何だそれ、この国の通貨か?」


「あ、そうですね。あなたたちは、何も知らないから説明しないと。もう、めんどくさい人たちですね」


「はあ? お前が勝手に連れてきたんだろ!」と、この妖精の発言には全員が異口同音に抗議を申し立てた。


 その剣幕に、さすがの妖精もしまったという顔をして、1カランは日本円で1000円ということを教えてくれた。


「五十万ってことは、五億⁉︎ その服だけで、五億もするのか⁉︎」


 川畑と森川が驚いて、唾を飛ばして驚いた。その値段を聞いた福本も、先ほどまでパタパタしていた部分を慌てて直し、シワを伸ばそうと懸命に伸ばしている。

 今、着付けられている堂前も驚きのあまり、口を手で押さえている。


 もしやこれもか? と、車田と国破は、さっきまで散々ボロクソに言っていた継ぎ接ぎのパンツを慌てて丁寧に扱ったが、男性用のは八カランと言われ、拍子抜けした。


 まず、国会議事堂に移動し、総辞職の瞬間を見に行きましょうと妖精は言う。

 そんなに珍しい瞬間でもないのでは? と思ったものの、雨宮たちは逆らっても意味がないので、素直に従って、あの狭苦しい部屋から出た。


 初めて、この国の街というものを歩いていると、国民と思われる民族衣装を着た人々が、雨宮たちを物珍しそうに眺めてきた。中には、先導する妖精のような者もいた。

 国会議事堂に着くまで、この国の正装を着ている人は、一人も見かけなかったので、それも頷けるだろう。


 国会議事堂には、慌ただしく人や妖精の出入りがあり、現職内閣がこれから入ってくると思われる一六席が金色に輝いていた。


「あそこに総理たちがくるんですか?」と、雨宮が訊くと、妖精はそうだと言った。

 国会内には、ざっと千五百席ほどの議員の席があり、雨宮たちはその数の多さに驚いた。


「皆さんは、特例で内閣に就任されます。ですから、次の総理たちが座る席に座ってください」と、妖精は横十六列のフカフカの一人用ソファを指差した。


「なーおい、俺ら十三人しかいないのに、なんで十六席もあるんだ?」


 森川が気になった様子で訊いてきたが、雨宮にはわかるはずもなかった。しかし、雨宮も気になったので、妖精に訊くタイミングを伺っていると、現職内閣たちがゆっくりと入城してきた。


 確かに、今の内閣はほとんど高齢そうだ。総理大臣と思しき人物も、ヨボヨボで周りの支えがないと歩けないほどだ。


「あれが、現職?」


「ええ、そうです。見るからに高齢でしょ? だから皆さんにお願いしたんです」


「なるほど。あ、ところでなんで十六列なんだ? 我々は十三人しかいないぞ」


「え、じゃあ、後で連れてきますので、取り敢えず、座っててください」


 妖精は強引に全員を座らせた。会場内はガヤガヤとしているものの、現職内閣閣僚が登場するとその音量は下がり、全員は残りの国王陛下、皇后陛下、与党代表、野党代表、王立庁長官、王立会議室長官、憲政府長官の登場を待っていた。


 それから、いよいよ国王たちが入城してきた。周りはすでに全員が集結しており、盛大な拍手で国王を迎えた。

 それかは、議事進行係が司会を始め、今日の式次第を読み上げていった。


 そしていよいよ、内閣総辞職が始まろうとしていた。

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