雨宮総理のお気持ち表明

 移動中の車内で、雨宮総理は一息つきながらスマートフォンを手に取った。彼は速報として流れるニュースアプリを開き、自身に関する報道の反応を確認することにした。


 メディアはすでに彼の解散宣言について大きく取り上げており、各紙がどのような解釈をしているのか、世論の動向がどう変わっているかを慎重にチェックした。

 それぞれの記事を見るたびに、今後の政治的な動きへの重大さを再確認する。


『衆議院解散 七月二十七日投開票 雨宮総理が意向』


『七月二十七日 衆議院議員総選挙へ』


『九日解散 十五日公示 二十七日投開票 雨宮総理が表明』


 官邸での会見が始まると、会場の空気はさらに一層重く、緊張感に包まれていた。記者たちの数は党本部での会見よりも多く、フラッシュライトの閃光が連続して雨宮総理の視界を刺激した。


 会見の予定時間も通常より長く設定されており、疲労がピークに達している雨宮にとって、これはかなりの試練だった。彼は、疲れた左のこめかみをゆっくりと揉みながら、一つ一つの質問に丁寧に答えを返していった。


 記者たちの鋭い質問に対し、彼は政策の正当性を堂々と説明し続け、国民へのメッセージを明確に伝える努力を惜しまなかった。


 無事に会見と質疑応答を終えた雨宮総理は、疲れを感じながらも一日の執務を終えた。彼は深く息をついて、ほっと一息ついた。


「お疲れ様でした。夕食はどうなさいます?」


 坂本が、部屋のカーペットをコロコロで掃除しながら訊いてきた。


「あー、すぐ持ってきてくれる? 腹減ったわ」


「分かりました。シェフに連絡します」


 雨宮総理は、執務室の机の上に頭痛薬を置いて、食事の到着を待っていた。薬のラベルには「食後に服用」と明記されているため、食事が届くまで我慢の時間を過ごさなければならなかった。


 ここ最近、頻繁に頭痛に悩まされるようになっていて、それが日々のストレスや疲労の蓄積からくるものかと思われた。食事が来るのを静かに待ちながら、彼は少しでもリラックスしようと深呼吸を繰り返した。


「あれ、総理も頭痛ですか?」


「え? ああ。最近、頭痛が多くて、困ったもんだよ」


 坂本が雨宮の机に置かれた頭痛薬を見て、共感を込めて話しかけてきた。


「総理も頭痛ですか。私もねぇ、最近、ひどくて……」と彼は言った。

 どうやら坂本も、緊張感の強い日々の中で同様の症状に悩まされているようだった。


「坂本もか。休まないでくれよー。お前がいなきゃいけないんだからなー」


 この共通の悩みが、二人の間にはさらなる絆を築くきっかけとなり、お互いの健康にもっと気を配るよう、心に誓った瞬間でもあった。

 雨宮は、間延びした口調で坂本に言うと、坂本は大きな声で笑った。


「ダハハ。分かりましたよ。総理もお気をつけて。では、食事を持ってきますね」


「はいよ」


 雨宮は、疲れた体をフカフカの椅子に沈めながら、リモコンを手にテレビをつけた。画面に映るのは一様に衆議院解散のニュースで、各局がその影響と戦略について議論していた。背筋を伸ばし、天井を仰ぎ見ると、心の中はこれからの選挙対策と政策立案の重圧でいっぱいだった。


 原幹事長や片岡衆議院議長との連日の会議が続き、彼らは選挙戦の具体的なアプローチやマニフェストの詳細を練っていた。

 政策に関しては、単なるバラマキを避け、持続可能で国民の真のニーズに応える内容を模索する必要があった。国民の信頼を得るためには、現実的で効果的な政策が求められる。


「どの政策が国民の支持を集めるか」という問いかけに、雨宮は熟考を重ねた。公共事業の見直し、教育や医療への投資、経済政策の刷新など、さまざまなアイディアが頭を巡った。それぞれの政策が持つ利点と可能性を精査し、最も効果的な選挙戦略を練ることが急務だった。


 一方で、野党の平井をはじめとする議員たちは、与党のすべての動きを鋭く監視し、批判のための材料を探していることは明白だった。

 彼らは解散決定を政治的な失敗として強く非難し、そのすべてを選挙の争点にしようと躍起になっていた。


 テレビの音量を下げながら、雨宮はふと思った。


「またまたこのストレスで頭が痛くなりそうだ」と。


 しかし、そんな中でも彼は国家の舵取りを任された責任と使命感に火をつけ、これからの困難を乗り越える覚悟を新たにした。国民のため、そしてより良い未来のために最善の道を選び続ける覚悟だった。


「はい、総理。お食事ですよ」


「サンキュー」


 雨宮総理の好みに合わせた質素ながらも味わい深い料理を、官邸のシェフが丁寧に作ってくれることが心の慰めとなっていた。今日のメニューは、彼の好物の一つであるサバの煮付けだった。


 その日の疲れと空腹を感じながら、雨宮は早速料理に手をつけ、短時間で皿を空にした。食後、頭痛薬を手に取り、水と共に静かに飲み下した。


 夜が更け、官邸の窓から見える街の明かりは、通常なら美しい景色を提供するものだが、その日の雨宮にはただのわずらわしい光に映った。彼の心と体は、政治の重圧によって疲弊しており、普段なら心地よいはずの夜景も、目に余るだけの光彩となっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る