私が出て行った後、旦那様から後悔の手紙がもたらされました
大舟
第1話
「リリア、君は本当にいつもかわいらしいな。僕にとって自慢だよ」
「またそんなことを言って…。そんなに私の事を持ち上げても、何も出てきませんよ?ルーク伯爵様」
「僕は見返りが欲しくて言っているんじゃない。ただ思ったことを正直に口にしているだけだよ。君に対して嘘なんて言わないとも」
「ありがとうございます。私も全く同じ思いですよ♪」
…私の事など関係ないと言った雰囲気で、自分たちだけの話を進めていく二人。
一人はこのお屋敷を統括する立場にあるルーク伯爵様で、私の事を婚約者として指名し、ここまで連れてきた張本人。
もう一人はそんな伯爵様の妹で、名前はリリア。
彼女は婚約者である私の事などお構いなしと言った様子で、ひたすら伯爵様に甘える。
「(私はお邪魔みたいだから、このまま空気をよんで退出しようかしら…)」
明るい口調で話をする二人の姿を見て私はそう思い、そのまま伯爵様の部屋から立ち去ろうとする。
すると、そんな私の姿を見たリリアがこう言葉を発した。
「あらお姉様、どこに行かれるのですか?せっかく家族水入らずで話をしているのですから、お姉様も一緒に話をしようではありませんか」
「そうだぞルナ、せっかくリリアがこう言ってくれているんだから、それを無視するなどありえないぞ?」
リリアはわざとらしい口調で、伯爵様はそんなリリアの事を立てる口調でそれぞれそう言った。
…そのどちらも、私に対する思いなど微塵も感じられることはなく。
「それにしても、リリアは本当に姉思いだな。僕としても君がルナの事を気にかけてくれるのは助かるよ」
「当然ですよお兄様。だってお兄様はお選びになった相手なのですから、私にとっても特別な存在であることにかわりはないのですから」
「そうかそうか」
リリアからの言葉を聞いて、わかりやすくその表情を明るいものにしていく伯爵様。
彼はかねてからリリアの事を溺愛しており、その愛しっぷりはやや狂気さえ感じるほどだった。
そんな中にあって私の事が優先されることはなく、私はいつもこのお屋敷の中に置いて優先順位の低い、いてもいなくてもかわらないような扱いしか受けていなかった。
コンコンコン
「伯爵様、会議の時間でございます。よろしいでしょうか?」
「あぁ、もうそんな時間か。分かった、すぐに行く」
その時、1人の臣下の人が伯爵様の事を呼びに来た。
2人が時間も忘れるほどにくっついていたからなのか、伯爵様はやや名残惜しそうな表情を浮かべながら準備に移っていく。
「ちょっと出てくるよ。それじゃあリリア、続きはまたあとで」
「はい、いってらっしゃいませ、お兄様」
2人は短くそう言葉を交わすと、伯爵様の退室をもって会話を終えた。
するとその直後、リリアは態度を豹変させながら私にこう言葉を発した。
「お姉様、あんまりお兄様に色目を使わないでいただけますか?見ていてイライラして仕方がないんですけど」
誰がどう見たって、色目を使っていたのはあなたのほうなんじゃ…?
「お兄様困っておられたでしょう?私との時間を邪魔しないでください。今だって本当なら、私とお兄様の二人きりで話ができたはずなのに…」
だから私は出ていこうとしたのに、それを邪魔したのはあなたのほうじゃない。
…まぁどうせ、姉思いの気遣いができる素敵な妹を演じたかっただけなのでしょうけど。
「リリア、私は最初からあなたたちの関係を邪魔するつもりは…」
「そんなの嘘。お兄様の権力欲しさにここまで来たってところが何よりの証明ですもの」
私は半ば強引にここに連れてこられた立場なのだけれど…。
リリアの中では、自分にとって都合の悪い事は何も見えないのだろうか…?
「はぁ…。お兄様との時間を邪魔されるなんて、私はなんてかわいそうな妹なのでしょう…。こんなにも純粋な思いを抱いているというのに…」
嫌味たらしい口調でそう言葉を発してくるリリア。
これが私の知る本来の彼女の姿で、伯爵様の前で見せるあの姿は完全に作られたものだった。
伯爵様はそんなリリアの事を心から溺愛していて、しかもその関係に満足している。
なにより、あの時のリリアの姿こそが本当の彼女の姿なのだと信じ切っている。
それが違うものだと気づかせるのは、それこそ天地をひっくり返す以上に難しい事なのでしょうね…。
「お姉様、これ以上私とお兄様の関係にでしゃばってくるのでしたら、私にも考えがありますから。婚約者に選ばれたからって、調子にのらないでください」
「(ずっと調子にのってるのはあなたのほうなんじゃ…?)」
どこまでも同じ言葉を繰り返すリリアの中には、思いは一つしかないのでしょうね。
私のことをいかにしてここから追い出すか、ということだけ…。
「またお兄様に相談しないといけませんね…。お姉様はお兄様にはふさわしくないですよって…」
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