ゴブリンの巣

 空が明るくなって来た頃に旭は目を覚ました。

 あれから1週間、旭は拠点の近くから離れずに過ごしていた。

 何度かゴブリンが近くに来た時に戦闘になったがすべて遠距離からの攻撃で倒している。

 この間の流血沙汰で近接戦闘に若干の苦手意識が芽吹いていた旭だった。

 だが、この1週間十分休んだのでそろそろゴブリンの巣を潰して開拓村に行こうと重くなりかけていた腰を上げたのである。


「剣は苦手なのは仕方ない!そのうち何とかなるだろう!頑張れ未来の俺!!」


 気持ちに勢いをつけて動き出す。

 まずは腹ごしらえ、何時ものホットシェフのカツ丼を食べて身だしなみも整え、気合を入れた。

 コンテナハウスと風呂をストレージに入れてまずは泉に歩き出す、今日は全力で巣を狩りに行く、MPの節約等も気にしないことにした。


 レベルが上がっているせいだろう難なく泉に着いた、歩く程度ならもう息も上がらない。初日の息も絶え絶えな状態で着いた事を考えるとこれがステータスの差なのだろうと理解できる。

 疲れていないのでこのまま巣の方へ進む、気配察知に引っかかったゴブリンを始末するべく向かう、いつも通りうるさいゴブリン達はすぐに分かった。

 後ろに回り込んで射線が通った所をレイで倒していく。

 何も難しくはない、先手さえしっかり取れれば負けは無い。

 何度か同じ方法で倒して巣が見える高所まで来る事が出来た、巣はそこそこの広さで作られていた。不格好な屋根と柱しか無いような粗末な建物にゴブリンが2体から3体程固まって過ごしているようだ。

 もっと居るかと思っていたが思った程居ないことに旭はほっとする。

 やはり、巡回のゴブリン達を狩っていたのが影響を出していたらしい。

 ボスらしい個体は見当たらない、一つだけある壁の付いた建物に居るのかもしれない。

 できれば奇襲でボスを先に仕留めたかったが、ボスが見えないなら見えている倒せそうなゴブリンから倒す事にした。

 何せレイには派手な着弾音などが無いのだ、巣で寝てるゴブリンや見張りなのだろう巣の外に視線を向けて警戒をしているゴブリンくらいなら音も立てずに倒せる。

 それほど時間をかけずに見える範囲内のゴブリンは片付けることが出来た。

 落ち着いてレイさえ使う事が出来れば旭はかなりの強さを発揮する。


 これからどのように巣を攻略しようかと考えてた頃に巣で騒ぎが起きた。

 死角にでも居たゴブリンが仲間の死体に気がついたのだろう。

 騒ぎが起きたため注視していた家から明らかに他とは違うゴブリンが出て来た。

 身長も随分高く体格もしっかりしていて鎧と剣と盾を装備しているのだ。

 グギャグギャ騒いでいるいつものゴブリン達とは別の種族と言っても差し支えない程の差を感じる。


「あいつやばそうだ、先に始末したいな…」


 そう思ってレイで狙い撃とうとした時、ボスゴブリンがこちらを見た。

 目が合った気がしたが距離があるために余裕を持ってレイを撃てた。

 手強そうなので3発ずつを2回、オーバーキルでも良い、確実に仕留める為の攻撃だ。

 駄目なら更に打ち込む気で撃った。


 結果としてはあっけなくボスゴブリンを倒すことが出来た。

 何発目で死んだのか分からないが計6発のレイは金属の鎧も撃ち抜いたようで手強そうだったボスゴブリンをあっけなく倒すことが出来た。

 体から力が湧いてくる感覚を感じる。

 この感覚はレベルが上がった事を示してくれるようだ、この1週間に2度ほど拠点付近で気配察知に引っかかったゴブリンを倒した時にも感じていた。


 ここから見えた他のゴブリンもレイで片付けた、そして巣には何も動くものが居なくなる。

 旭は嫌々ゴブリンの巣に入っていく…

 ボスゴブリンと言ってはいたがボスがあのゴブリンとは限らないので気配察知を頼りに巣を歩き回る。


「生き物の気配はしない、捕まっている人も居ないみたいだな…」


 ゴブリンの巣はかなり環境が良くない、何の骨かわからない物や良くわからない肉片等もゴロゴロしてる。その上に旭の倒したゴブリンの死体達…もう一刻も早く帰りたい。

 ひどい環境に顔をしかめつつ、ようやく全てを確認し終わった頃にはかなり精神的に疲弊していた。

 それでもなんとかゴブリンの死体なども回収し終わった。

 ボスゴブリンだと思ってた個体はやはりボスだったらしく、幸い他には特殊個体は居なかった。


 魔物の巣には何か貴重品や金品等あるのでは?と少なからず期待していたが、旭が見た限り価値がありそうなものはボスの家を含め何も無かった。


「お宝は無しか、ボスの装備や素材が高く売れることに期待したい…」


 レベルは上がったが金品に繋がるような戦利品が無かったため、旭は多少気落ちした。


「帰るか…遠距離は少し自信がついたかもな…」


 旭は密かに期待していたお宝が無かったため気落ちしていたが、この世界に来た当初戦闘経験が全く無かった旭にはゴブリンでも十分気が抜け無い相手だった。

 そして距離さえ取る事が出来ればボスゴブリンの様な個体でも倒せることが分かっただけでも大きな収穫だった。

 ただ単に、今回得た物が目に見えない経験と言うだけで地球に居た旭が命のやり取りを覚えるにはとても良い環境だったのである。

 広い目で見ればこの森での経験は大きな収穫であった。



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