きゃんでぃすなっぷ

@qilioji

コタツ

 足も伸ばせない程の窮屈さが心地よくなっているこの頃。その温もりに確かに包まれて過ごした確かな証だ。やつの四方へと向かう口は多くの人を引き寄せる。決してお喋りなやつでは無い。寧ろ無口だ。しかし閉じたその口は多分に人を魅了する。俺もその口だ。ちょっと上手かっただろう。それは置いといて。だから、やつの中にはいつも誰かがいる。それが今はたまたま俺だけという話だ。

 現在の時刻は1時22分。様相のおかしいおばさんと向き合ってタイマンでの対談番組が終わる頃、俺は緩やかな昼下がりを過ごしている。テーブルの上にはカップ麺が2つ。シーフードとチリトマトだ。朝ごはん兼昼ごはんとしてそれを食べ終えたあとは特にやることも無く、スマホやらテレビやらを見て惰性で時間を潰す。映る一般群衆に対して、この寒い季節に外に出ている人達は可哀想だなと同情を抱きつつも俺は家でやつとゆっくり過ごすこの時間に、「ショーシャンクの空に」を初め観た時にも勝るとも劣らない、まさに幸甚の至というものを感じている。だが、この幸せが長く続かないことをもう俺は知っている。別に愛がなくなったわけじゃない。俺の母親だ。母は幼少から俺に勉強を中心の生活を作り、私立の小学校を受験させ、中学はエスカレーターで。高校も名前のある進学校へと進学させた。母は今で言う。所謂毒親であった。父は仕事で忙しく、あまり家の事へは口を出さなかった。結果、母の期待に応えるため青春を棄てた悲しい生活を送ることになった。今はもうそんな事も言わないで、寧ろその反動なのか、急激に優しくなった。それに伴い、近所のスーパーでパートをするようになった。しかし、肝心な所で決定権は母にある。見かけは変われど、生来の気質は変わらないものだ。聞いてしまったのだ。父に俺とやつを別れさせようとしている旨を伝えていたことを!なんて薄情なやつだ。こうなったのには母の責任もあるし、父も父だ、なんで止めない。それに、やつもだ。あれが俺を決定的にダメにしたと言っても過言では無い。みんなみんな俺のせいにして!なんなんだよ!しかし、俺はそのことを言えてない。言えない。何故なら──。


 引きこもりがリビングに来てやつコタツに入りながらダラダラと過している事など、働いている両親は全くもって知らないのである!

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