最強ゲーマーが初めて乙女ゲームの攻略に挑みます!

海坂依里

第1話「4人目の攻略対象に、乙女ゲームの攻略を依頼されました」

『アルフレズ様、私……もう……』


 これは、かろうじてR-18手前のレーティング設定がされている乙女ゲーム『エンドレス・エタニティ』……なんかちょっと頭が悪そうなタイトルだなと思ったのは秘密。

 どれくらい売り上げがあったのかも分からないし、転移前の私は存在も知らなかった乙女ゲーム『エンドレス・エタニティ』が舞台となっています。


『声、静かにできる?』


 人が通りかかるような場所で、このような行為に及んでいた1人目の攻略対象。

 言いたいこともたくさんあって、人生初の乙女ゲームがあまりにも過激すぎる内容で頭の中は大混乱。

 せっかく最強ゲーマーの才能を発揮するチャンスが訪れたと思ったら、いきなり最悪のエンディングを迎えたような気持ちになってくる。


「ちょっと、トウマ!」

「なるべく声は小さくお願いしますね」


 攻略対象その1であるアルフレズ・ロォの情事を覗き見している私たちは一体何者か。


「無理、無理、無理! 私、そもそも18歳を迎えていないから!」

「大丈夫ですよ。『エンドレス・エタニティ』は女子高生がプレイできる健全な作品ですから」

「いやいやいやいや、レイティング設定可笑しいから!」


 ひそひそ声で話すような内容ではないことは分かっている。

 分かってはいるけれど、隣でにこやかに事態を説明する彼の心は鋼のようにたくましくできていて正直引いてしまいそうになる。


「リッカは超マイナーゲームの世界ランク1位です。乙女ゲームの1つや2つ、楽勝にクリアしてくれますよね!」


 笑顔が黒い。

 いや、日本語として正しくないような気もするけど、私の隣で爽やかな笑顔を向けてくる彼の屈強な心臓を私に分けてほしいと切に願う。


『ブルネッツェル様、色よいご返事をお待ちしております』


 行為が終わった後、攻略対象1の彼は爽やかな声と清々しい笑顔でこう言った。


『アルフレズ様っ! 私、なんでも言うことを聞きますから!』


 彼がやっていた行為は、いわゆる枕営業というもの。

 体の関係を結んだ対価として、プレイヤー私たちが住んでいる国は安泰ということらしい。


(……枕営業をする乙女ゲーって一体……)


 足音を立てないように、私たちはこの場を後にした。


「はぁ、別に全キャラクターの恋愛フラグを立てる必要はないんじゃない?」

「攻略するキャラクターを1人に絞ってしまうと、破滅エンドに迎えますよ」

「それは、私の前に異世界転移をした主人公ちゃんたちのことでしょ?」

「俺は、ハッピーエンドでクリアする確率を少しでも上げたいんです」


 私、長柄六花ながえりっかは数時間までは日本で暮らす女子高生だった。

 ただのクラスメイトでしかなかった国居透真くにいとうまの正体は、乙女ゲーム『エンドレス・エタニティ』に登場するトウマ・ルーファーだったという謎な展開を迎えた。


「リッカ、お茶が入りましたよ」

「攻略対象の情事を見せられたら、飲めるものも飲めなくなると思うよ……」

「飲んでください。体の健康を維持するためにも」

「……はーい」


 トウマの導きにより異世界召喚……乙女ゲーム転移? をした私は、トウマに『エンドレス・エタニティ』をハッピーエンドで終わらせることを依頼される。


「こっちはもう、バッドエンドもメリーバッドエンドも迎えたくないんです」

「それは承知しております」


 私が異世界転移という展開を迎える前にも、何人もの女性が異世界転移をして『エンドレス・エタニティ』のクリアをトウマに依頼されたらしい。けれど、トウマの訴えによると、みんながみんな攻略キャラクターとの両想いエンディングを迎えてしまったとのこと。


「『エンドレス・エタニティ』は、恋愛と世界の平和を両立させてこそ真のエンディングを迎えることができます」

「はい……それも承知済みです……」


 『エンドレス・エタニティ』における恋愛重視のエンディングは、メリーバッドエンドに該当する。

 ハッピーエンドを迎えたかったら、世界を救うという面倒くさい条件が追加されるらしい。


「大量の命が失われるところを、もうかれこれ何百回見せられていることか……」

「……すみませんでした」


 トウマは、世界が滅びるたびにゲームをリセットしている。

 そのたびに現世からプレイヤーを連れて来てゲームのクリアを依頼をするけれど、みんながみんな恋愛街道一直線。つまり、トウマが生まれ育った世界は何百回も破滅を迎えている。


「でも、前向きに考えたら、リセットできる人生って最高……」

「リッカ……」

「すみません、冗談です!」


 ゲームの世界では温厚な性格のトウマの声が、1音下がったような気がした私は彼の機嫌を損ねる前に謝罪という選択をする。


「トウマは同じ人生を繰り返しているってことだもんね……」

「まあ、主人公の選択によって物語が変わるので……完全なループとは違うんですけどね」

「完全なループって言葉、変だね」

「自分でも思います」

「ふふっ」


 現世……日本で女子高生をやっていたときは、国居透真と何1つ接点がなかった。

 そんな彼と笑いながら言葉を交わしているって、なんだか不思議な気分になってくる。


「ねえ、トウマは4人目の攻略キャラクターなんだよね?」

「ゲームの中では、そうなっているみたいですね」


 国居透真は恋愛対象でもなんでもなかったけれど、トウマ・ルーファーは性格がいいと思う。

 十分な恋愛対象になるとは思うけれど、元の暗くて地味な国居透真を知っている私の意識はなかなか恋愛に向いてくれない。


「っていうことは、トウマとの恋愛フラグも立てなきゃいけないってこと?」

「ついこの間まではクラスメイトだった俺と、恋ができますか?」

「できないね」

「ですよね」


 『エンドレス・エタニティ』には各キャラクターごとに4つのルートが用意されている。

 世界を救うことなく、キャラクターとの恋愛を成就させた場合はメリーバッドエンド。

 世界を救って、キャラクターと結ばれなかった場合もメリーバッドエンド。

 世界平和も恋愛も中途半端なかたちに終わると、バッドエンド。


「ということで、アルフレズとの恋愛フラグを立てるのを頑張ってください」

「……嫌だけど、報酬のために頑張る」

「お願いします」


 そして、世界平和と恋愛を両立したプレイヤー人間だけが迎えることができる結末をハッピーエンディングと呼ぶ。私とトウマが目指しているのは、このハッピーエンド。


(報酬は、何をもらおうかな……)


 トウマが住んでいる屋敷に聖女として滞在している私は、どこかのご令嬢様が喜びそうな美しい花が咲き誇る庭を探索していた。何が見つかるわけでも、何かと出会うわけでもないけど、1人で考えごとをするにはちょうどいい。


(人1人を異世界召喚できちゃう神能力を持つトウマなら、私を『エンドレス・エタニティ』の住人にすることも可能かな……)


 別に、現実に帰りたくないわけではない。

 でも、現実に帰りたい理由も見当たらない。

 私が元の世界で誇れることと言ったら、超マイナーゲームの世界ランク1位を維持していること。

 でも、その超マイナーゲームの世界ランク1位なんて称号は、私の未来の役になんて立ちもしない。


(マイナーゲームは、一生マイナーなんだよ……)


 大会が開かれて、賞金が稼げるようになる見込みもない。

 いつサービスが終わるかも分からないゲームで最強を誇っていたって、私の人生に加点してくれる人物は現れない。

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