第21話 部活でバーベキューとかおかしい話

 自然に囲まれたバーベキュー場。


「あー、とうとう高校三度目の夏休みが終わってしまったねえ」


 肉を焼きながら、優愛ゆあがぽつりと言った。


 悲しみを含む色々な感情が混ざった声だった。バーベキューの火の燃える音が聞こえてくる。パチパチと、それは一定のリズムを奏でているかのようだった。


「1年の時から毎年この場所に来ているんですか?」


 周りが静かな中、仁美ひとみも、肉を焼きながら聞く。


 暗くなり、星が少しずつ現れている空。優愛ゆあはどこか遠くを眺めながら、ゆっくりと答える。


「バーベキューの発案者は当時の私の先輩だ。面白い提案をするのが得意な人でねー。私も、凄く憧れたさ ― いや、まだ憧れているのかもな」


 「なるほど」と頷く仁美ひとみ。何故か羨ましそうな顔をしていた。


「さーて!良い感じに焼けたなあ!」


 一気に現実に戻ってきたらしい優愛ゆあの声が辺りに響く。


 そして、僕の向かい側にある、丸太を使った椅子に座っていた鈴斗りんとの横に、優愛ゆあも座る。


 彼女の急な行動に鈴斗りんとは驚いたようだった。


「次のの部長は鈴斗りんと君かな?それとも三崎みさきちゃんかな?どっちにしろ、ちゃんと盛り上げてくれよ!」


 まだ早いのでは?と疑問に思ったけど、よく考えたら先輩ももうすぐ受験について考えなければならない。いつまでも部活をしているわけにもいかないのだ。


 そう、未来について考えなければならない。


 恐らく僕はこの世界で生きていく。であれば、大学受験や、その先の就職や生活もこの世界ですることになるだろう。僕は、永山ながやま心羽みうの ― 自分の ― 未来を見つける必要がある。


 僕は隣に腰を下ろしている稜生いつきを見つめる。しばらくすると彼が気付いたから、急いで目を自分の足元に向ける。


 僕は何をしているの?!なんで稜生いつきの方を向くの?!


 顔が赤くなっているのが分かる。心臓の鼓動も早くなっている。普段ならば良く回るはずの僕の頭も、機能停止する。実際は違うのに、まるで酸欠になったかのような状態になった。


心羽みう?どうかしたか?」


 横から来たその声で、ハッと現実に引き戻される。


「大丈夫、なんでもないから」


 納得はしていないようだったが、稜生いつきは追及しなかった。そんな事をしている間に、鈴斗りんとが別の話を始めた。


「それにしても三崎みさき、お前は本当によく食うな」


 と指摘する鈴斗りんと。さっきから、喋ることなく、肉や野菜を焼きまくっては食べるということを繰り返していた三崎みさき。彼女は平然と答えた。


「私は毎時間、脳を酷使していますので、これくらいは食べないと正常な動作ができません」


 本当に変わった人が多いよ、この部活・・・・・


◇◇◇◇


 バーベキュー終盤。もう食材は尽きていて、雑談をしたり、空を見上げたりと自由な時間を過ごしていた。


 これはこれで楽しかったけど、ダラダラとし続けると”楽しいのに疲れる”という、一見矛盾するような感覚に包まれる。


 そろそろ疲れだす人が出てくると悟ったのか、それまで静かに星を眺めていた優愛ゆあ


「みんな、帰るとしようか」


 と優しく、はっきりとした声で提案する。そして彼女は片付けを始めた。


 三崎みさきは即座に賛成し、鈴斗りんとは何も言わずに片付けを手伝った。僕や稜生いつき仁美ひとみは帰る用意を始める。


 全てが終わると優愛ゆあは部員全員を見渡す。


「今日は来てくれてありがとう。気を付けて帰れよ! ― あ、鈴斗りんとは私が送っていく」


「は?」


 鈴斗りんとは逃げた。その肩ををガシっと掴む優愛ゆあ


「この時間で一人で帰るのは危険だろう?まあ、男子なら大丈夫なんだけど ― そう、男子なら」


 鈴斗りんとは冷や汗でもかいているのだろうか。今までに見たことのない、不安げな表情をしていた。


 え?鈴斗りんとが女子ってこと、バレてる?


「あと心羽みうちゃんの事も鈴斗りんと君からしっかり聞いているから安心していいぞ!着てみたいなら私の服を貸すからな!」


 ・・・・・僕が女装に興味があることも、バレてる?なんで?

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