第26話 真っ直ぐな言葉

学校から帰って自分の机で勉強をしている道子は、「はぁ」ため息をもらします。

道子は気分転換に買い物へ行こうと思いました。

(こういう時は生地を買って何かを作ろう)

玄関に置いてあるマイケルからプレゼントされた赤い靴は箱にしまって、靴棚の中にしまいました。

(今赤い靴を見ると、マイケルを思い出してしまうから、)

玄関を出ようとした時、大吉と遭遇しました。

「大吉さんどうしたんですか?」

びっくりして尋ねる道子。まだ、仕事の時間のはずだ。

「早めに上がらせてもらいました。道子お嬢さんのことが心配で....」

今さらながら、この前、彼のいる前で子どもみたいに泣いてしまったことに

「心配かけてごめんなさい。大吉さん。あの日は家まで送り届けてくれてありがとう。」

ペコリと頭をさげる道子に大吉は言います。

「道子お嬢さんはどこかへ出かけるんですか?」

「ええ。買い物へ行こうかと。」

私がそう言うと大吉はお付き合いをしましょうと申し出た。

「いいのよ。大吉さん。お父さんもいないし、私に気を使わなくても」

「区長は関係ありません。俺が道子お嬢さんに付き合いたいと思ったからそうしています。」

微かに微笑む大吉。

(大吉さんは優しい。優しいけど...)


どこかで亡くなった妹さんと私を重ねて、兄のように接してることに気づく道子でした。

そして、私の心には今もマイケルがいる。

(この気持ちのまま、大吉さんと結婚して幸せになれるのかしら)

思い悩む道子でした。


◇◇◇


道子に別れを告げたマイケルは、移動の日まで、日本で自分に出来ることをやろうと思って今まで以上に仕事が邁進していました。

(自分が愛した少女の住んでいる国だから、少しでも復興が進んでほしいー...)


だけど、周囲から見たマイケルはどこか張りつめた表情で瞳が暗く沈んで見える時がありました。

宿舎に戻ったマイケルは、軍の仲間の噂を耳にします。

「富沢区長の秘書が、区長の娘と婚約するという話を聞いたか?」

「ああ、雨の日に一つの傘で手を繋いで歩いていたって見かけた奴もいたぜ?」

「この前も一緒に出掛けてる姿を見たという奴もいたさ。」



雨の日ー...

僕が道子に別れを告げた日。

あの日、大粒の涙を溢していた道子の顔がフラッシュバックします。


(大丈夫だ....自分が側にいなくても、きっと婚約者の彼が道子の隣にいて、これから先も守ってくれるだろう。)


噂を聞いて固まっているマイケル。その様子を見てジョージは声をかけました。

「Are you okay? Michael(大丈夫か?マイケル)」

ハッとしてマイケルは笑顔で答えます。

「Calmness(平気さ)」


(大丈夫なはずだー...仕事をしていけばこの痛みは忘れられる。)



◇◇◇

翌日の午後

軍の仕事が終わって、ジョージと一緒に宿舎に戻る時のことです。

女学校の制服を着て、髪を二つ結びにした娘とすれ違ったマイケル。

「道ー」

無意識に名前を呼びそうになっていました。

すると、その女性がマイケルの方を見ます。

人違いに気がついて、「すみません」と謝りました。


「....」

立ち止まるマイケル。 

思い悩むマイケルに尋ねるジョージ。

「マイケルいいのかよ?このままで」

「僕はー...」


◇◇◇

そんな時のことです。

マイケルとジョージの前に、正面から寛太と陽太が現れます。

「寛太、陽太。どうしたんだい?」

ジョージが二人に尋ねます。

寛太はそれには答えずにマイケルの真正面に立ちました。

「寛太。何する気だよ?」

陽太の問いを無視して、寛太がマイケルを殴り飛ばします。

「グッ、」

マイケルは地面にズシャアアと倒れこみます。

「マイケル!?」

ジョージは殴り飛ばされたマイケルに駆け寄りました。


「バカ!何やってんだよ。寛太!?」

陽太は寛太を抑えにかかります。


「離せよ。陽太!俺は道子と約束したんだ。マイケルに泣かされたらぶっ飛ばしてやるってな。」


寛太は僕が道子を悲しませたこと。その事に怒って殴ってきた。

(人の気も知らないで)

無性に怒りが込み上げて思わず唇を噛むマイケル。しかし、軍所属のマイケルは殴り返すことはしません。

道子の父の直道の言葉が蘇るマイケルです。

『If you love Michiko, I want you to break up(道子を愛しているなら別れてほしい)』



「Kanta, who is Japanese, won't understand how I feel. I thought of Michiko's happiness.」

マイケルは軍服の裾についた泥を払って、それだけを英語で言って去ろうとしました。


(僕の気持ちは日本人の寛太には解らないよ。

道子の幸せを思って決めたことだ。)


「何て言ったんだよ?」

英語がわからない寛太の通訳はジョージがします。

「僕の気持ちは日本人の君にはわからないってさ。道子の幸せを思って決めたことだって。」

その言葉に寛太は反論します。

「日本人とかアメリカ人とか関係があるかよ?人に言われたからって簡単に諦めるのかよ!?お前の道子への気持ちはその程度だったのかよ。今、お前がどうしたいかの方が何倍も大事だろうが!」


寛太の真っ直ぐな言葉に青い目を見開くマイケル。

「Michael, you think he's right? (マイケル、彼の言う通りだと思うぜ?)」

ジョージはマイケルの肩にポンと手を置きました。

「っー...」


そこにウェディングショップでドレス作りをしてるハーフの舞子が通りかかりました。

マイケルの腫れている頬を見て目を丸くして、尋ねます。


「Oh, did you have a fight, Michael? (あら、喧嘩でもしたの?マイケル)」

赤みがかった髪をお団子にした舞子。

白のブラウスに黒のスラックス。ハンドバックを肩にかけています。

「Maiko, why are you here? (舞子?!どうしてここに。)」

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