065

「あれ、そういえば店長はどこ行ったんだ?」


 馬車を降りてから店長を見かけていないことに気付き、ダンジョン内を探す。

 しかし、店長の姿はどこにも見当たらなかった。


 それに気付いたらしい奴隷のうちの一人が、従業員に聞いた。


「おい、店長はどうしたんだ? どこにもいないようだが……」

「店長はここには来ていない。奴隷市場での営業が残っているからな。ただでさえ、一次試験の関係で市場を休みにしていたんだ。これ以上休暇を取るとなると、市場の評判が悪くなる」


 店長が、ここにいない。

 つまり、責任者がいない状態で2次試験をするということか。


 ……大丈夫だろうか。

 何か問題が起こったら、誰が解決するつもりなのだろう。


「他に質問がないようなら、このまま試験に関する説明を始める。質問のある者はいるか?」


 奴隷一人一人を眺め、頷く従業員。


「他にはないようだな。では、試験の説明……をする前に、簡単な自己紹介をしておこう」


 従業員は右手を左胸に添え、腰を折った。

 正しい礼儀を知らない俺ですら、綺麗な所作だと思った。


「私はマルセル。エドワード王国で騎士をやっている者だ」


 ……騎士?

 従業員ではなかったのか。


 よく見ると、ただの従業員の身体つきではなかった。

 半袖から覗く三頭筋が、発達しすぎている。


「では、二次試験に関する説明を始める。なに、別に難しいものではない。試験の内容はシンプルだ。君たちにはここで、二週間ほど生活してもらう」

「ここで、2週間……?」


 それは無理だろう。


 誰もがそう思ったが、それを口にする者は現れなかった。

 静寂が訪れ、遠くで鳴く魔物の声がダンジョン内に響く。


 魔物が蔓延はびこっているダンジョンで生活するなど、自殺行為だ。

 数日でさえ生き延びることができるか分からないのに、それを2週間だと?


 そこで、俺はハッとした。


 だから、前回の二次試験では死人が出たのか。

 試験内容は変わっているようだが、難易度はそこまで変わらないはずだ。

 

「先ほども言った通り、ここはダンジョンだ。ただし、普通のダンジョンじゃない。ここでは、階層が深くなるに連れて魔物が強くなっていく。そういう構造のダンジョンだ。……ちなみに、10階層まである」


 普通のダンジョンは、どの階層へ行ったとしても、魔物の強さは変わらない。

 しかし、このダンジョンでは階層ごとに魔物の強さが変わる。

 ……どういう仕組になっているのだろう。


「それで? この場所で生き残れば合格ってことなのか?」

「いや、違う」


 質問する奴隷と、即答する騎士。


 マルセルは少し歩き、石ブロックで作られた壁の前で止まった。

 そのうち、一つの石ブロックを手のひらで押した。


 その瞬間、そこにあった石ブロックが全て崩れた。


 それを見て、唖然あぜんとする奴隷たち。

 何が起こっているのか分からず、混乱しているのだろう。

 俺もその一人だ。


 崩れ去った壁の先には、広めの空間があった。

 空間の中央に、木箱が置かれている。

 物語などでよく見る、宝箱のような見た目の木箱だ。


 マルセルはその空間から、木箱を取ってきた。

 ドスン、という重い音とともに、木箱を地面に置く。

 ……中に何が入っているのだろう。


「このダンジョンには、こういった宝箱がいくつも隠されている」


 蓋を開け、マルセルは俺たちに中身を見せるように箱を傾けた。

 同時に、歓声が沸き起こった。


 中に、様々な武具や希少な鉱石が入っていたからだ。


 しかし、一つだけ何か分からないものがあった。

 番号が書かれた札だ。

 『1』と達筆な文字で書かれている。


 マルセルはその札を箱から取り出した。


「今回の試験では、この札が勝負の鍵となる」

「……?」


 マルセルの言っていることがよく分からず、俺を含めた奴隷たちは困惑した。


 マルセルはポケットからカードを取り出した。


「このカードは、のちに君たちにも配るものだ。宝箱の中に入っているこの番号札を、この階にある受付……売店の隣にある場所に持っていくと、このカードにポイントが割り振られる」

「……?」

「ああ、売店というのは……あれだ」


 マルセルは先ほどの雑貨屋を指さした。

 ……ああ、あれが売店なのか。


 マルセルは札とカードを受付に持っていく。

 受付にいた女性に、それらを渡す騎士。


 受付の女性はカードの上に札を置き、それに両手のひらを向けた。

 呪文らしい何かを呟く。


 すると、カードがまばゆく発光した。


 女性からカードを受け取ったマルセルは、それを俺たちに見せる。

 カードには、『10ポイント』と記載されていた。


「君たちには、このポイント数を競ってもらう。ポイント数が上位3名の者は、外に出る権利が与えられるというわけだ」




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