017

「そういえば、来週のハロウィンパーティーだけど、一緒に行けないことになったの。王城で開かれるパーティーに、どうしても出席しろってお父様が。少し抜けるだけでも駄目らしいの」

「……ハロウィンパーティー? 何の話だ?」


 ハロウィンパーティーは2ヶ月前に終わったはずだが……。


「ほら、ハロウィンの日は一緒に町中を回ろうって約束してたじゃない」

「ああ、してたけど……え、今なんでその話を?」

「なんでって、ドタキャンするのも悪いでしょ? ごめんね、この埋め合わせは必ずするから!」

「いや、いやいやいやいや、そうじゃなくて」


 リンの誤解を解こうと、俺は勢いよく両手を振った。


「ハロウィンパーティー? 何言ってんだ。パーティーはとっくに終わっただろ?」

「……ん?」

「え、な、なに……?」


 不思議そうな顔をするリンに、俺はたじろいだ。

 自分が間違っているかのような不安に襲われる。


 だが、ハロウィンパーティーは実際に2ヶ月前に終わっている。

 これは事実だ。


 もしかすると俺の様子を見て、元気づけようと冗談を言ってくれたのかもしれない。


 俺の困っている様子を見て、リンはフフっと可愛く笑ってみせた。


「もう、ユウくん寝ぼけてるの? ハロウィンは来週だよ。ちょうど一週間後」

「……は? 来週? そんなわけ……」


 ふとカレンダーに目を向けた。


 そこには、「西暦5865年10月24日」と書かれてあった。


「10月、24日……?」


 カレンダーにかかれてある日付を、噛み砕くように繰り返す。

 何度確認しても、今日の日付は10月24日で間違いなかった。


 ……どういうことだ?

 今日は12月24日、クリスマスイブのはずだ。


 10月24日の記憶だって俺にはある。

 この日も、同じように一緒にパーティーを回れないことの旨を伝えられたのだ。


 10月31日のハロウィンパーティーでは、友人と仮装して街に出た。

 この日は急遽、友人とパーティーに出席することにしたのだ。

 パーティーといっても、仮装して出店を回るくらいのものだが、それなりには楽しかった。

 何でこんな日に野郎と一緒に回らなければならないんだと、友人と言い合ったのを覚えている。


 それだけじゃない。

 それ以降の記憶も、俺の脳内には鮮明に残っていた。


「なあ、今日は本当に10月24日なのか? 12月24日じゃなくて」

「え、うん。そうだけど……どうしたの?」

「いや、なんでもない……」


 リンはキョトン、と首を傾げた。

 嘘をついているようにも、俺を騙そうとしているようにも見えない。


 まさか、本当に……?


「ねえ、本当に大丈夫? 体調悪いとか? 私、すぐにでもそっち行けるよ? 寮なら、そこまで遠い距離じゃないんだから」

「いや、本当に大丈夫だから」

「そう? ならいいんだけど……」

「でも……悪い。今日はもう寝る」

「え? ちょっと……」


 俺は強引に魔道具の電源をオフにした。

 誰かと話す気分にはなれなかった。

 混乱していたのだ。


 フーっと息を吐き、天を仰ぐ。


「……今日は、10月24日」


 リンに聞いても、今日のこの日付は間違いではなかった。


「こんなこと、本当にあんのか……」


 俺の全身は、吹雪の中にいるかのように震えていた。

 興奮というよりは、恐怖による震えだったと思う。

 これから何が起こるのだろうという不安が、俺の中を渦巻いている。

 

 前かがみになり、肘を机に置く。

 事実確認をするように、ゆっくりと呟いた。


 「俺は……過去に戻った、のか……?」


 声が震えていることは、自分でもよく分かっていた。




____________________




 最後まで読んでくださりありがとうございました!

 評価や★、コメントなどで応援していただけると嬉しいです(_ _)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る