戦闘で普通に服が爆散する世界にTS転生してしまった男の話
九龍城砦
第1話
どうしてこうなった?
意識を取り戻した瞬間、思い浮かんできた言葉がそれだった。
「よがっだぁぁぁ!!! あさがおぢゃんおぎだぁぁぁ!!!」
「えぇ……」
よくある学校の、保健室みたいな場所で目が覚めた。そして、ベッドの側には号泣する女の子。
いや、うん……めっちゃ髪ピンク色だね、キミ。
制服っぽいの着てるし、高校生とかだよね? 生徒指導とかされないんか?
「ああ、目が覚めましたか」
「あざがおぢゃん〜〜〜!!!」
「えっと……」
ピンク少女の号泣を聞いてか、薄いカーテンを開けて年若い男性が入ってきた。
白衣を着ているので、おそらく保険の先生とかだろう。こっちは普通の黒髪だった。純日本人って感じだ。
「体調はどうですか? 頭に痛みなどは?」
「よがっだよぉぉぉ〜〜〜!!!」
「い、いえ、特には……」
保険の先生に問診されながら、ピンク少女にものすごい勢いで頬ずりされる。
ふと額に手を添えてみると、皮膚や髪とは違う感触があった。どうやら、頭に包帯が巻かれてるらしい。
「ほんどうによがっだぁぁぁ〜〜〜!!!」
「はい。嬉しいのは分かったので、宵月さんは外に出ててくださいね」
「あっ」
首根っこを掴まれ、ピンク少女はポイッと保健室の外に投げ出される。
保険の先生はそのまま扉を閉め、鍵をかけた。なんとも効率の良い塩対応であった。
「さて、それでは問診の続きをしましょうか」
「あ、はい」
冷静な様子を崩すことなく、保険の先生は先程の会話の続きを始める。
なんか、ものすごい扉ドンドンされてるんですけど、それはイイんですかね。
「まず、自分の名前は言えますか?」
「えっと……」
「ふむ、それではこの場所が何処か分かりますか?」
「学校かな、ってくらいしか……」
申し訳ないが、こちとら目覚めたばっかりなのだ。現状に関しては、何も分からない。
唯一、さっきまで職場から家に帰ろうとしていて、横断歩道を渡ろうとした所までは覚えているのだが。
「……ん?」
「どうしました?」
冷静になって、自分の身体を見回してみる。
細い腕に、柔らかそうな肌。
そして、視線の下半分を占有する膨らみ。
「まさか……」
「昼神さん?」
最悪の予想が頭をよぎる。
思わず下半身に手を当ててみれば、そこにはヒラヒラとした頼りない布地。
そして、その内側に手を入れてみた瞬間。
「……ない」
「あの、本格的にどうしました?」
今まであったはずのものが、無い。
「…………!」
「昼神さん!?」
おもむろに、制服のボタンに手を掛ける。
そのまま前ボタンを外していき、制服の上着を脱ぎ捨てた。
「やっぱり……この制服って……」
「なんでいきなり制服を脱いだんですか昼神さん!?」
先程ピンク少女の制服を見た時、既視感があった。
この制服のデザイン、間違いない。
「
鳥羽里高校。
かの有名な美少女ゲーム『シャドウ・ライブズ〜黒き死神〜』の舞台となる高校の名前だ。
いや、どういう事だよ。なんでゲームに出てくる制服を、男の僕が着てるんだよ。
「…………」
「あ、あの、昼神さん……?」
正直、分からないことだらけだ。
身体が女になってる理由も、ゲームに出てくる制服を着てた理由も、学校の保健室に居ることも、何一つ理解できてない。
しかし、濃いめのサブカルチャーに長く触れてきた経験が、一つの答えを導き出す。
『異世界転生』
ラノベやアニメで浴びるほど見たその言葉が、一つの回答となって頭の中に浮かび上がる。
異世界って言ったら剣と魔法のファンタジーだろ──と思うかもしれないが、最近は作られたゲームや漫画の世界に転生する物語も増えてきてる。
「……いやいやいや」
「先生としては、こっちがいやいやなんだけどね」
首を振って、頭に浮かんだ答えを振り払う。
ゲームの世界に転生なんてそんな、ファンタジーやメルヘンじゃあないんだから。
「…………」
「…………」
否定の意味も込めて、手に持った制服をじっくりと観察する。すると記憶の制服より、リボンや袖の意匠が僅かに違う事に気づいた。
なんだ、やっぱりデザインが似てるだけか──なんて思って、ふたたび気づく。
「……本物の制服じゃん、これ」
「本物?」
アニメ化もされた健全なゲーム『シャドウ・ライブズ〜黒き死神〜』には、あまり知られていない『本物』が存在する。
そう、この本物は何を隠そう大きなお友達向け──いわゆるR18作品というやつなのだ。
その世界に、転生した。
誰が?
僕が。
「────はあああああぁぁぁ!?!?!?」
「急に叫んでどうしたんです昼神さん!?」
頭を抱えて、天を仰ぐ。
しかし、目に映るのは鮮やかな紅色。
保健室の窓から差し込む夕陽が、うろたえる僕を嘲笑うかのように部屋を真っ赤に染めていた。
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