フォワードボールからホイッスルの音が鳴る。これは、紋黄町もんきちょうに秘密結社『apostropheアポストロフィー』の怪人アイコンが出現した合図だ。


「ごめん! ベルト、返してもらうね!」


 怪人が現れたら、勝利は仮面バトラーフォワードに変身して戦わなくてはならない。サキガケの腰に巻かれていたベルトを取り外す。


「ボクも戦いますよ✨」

「サキガケくんも?」

「仮面バトラーフォワードと肩を並べて戦えるのは光栄です✨」

「と、おっしゃっていますが?」


 勝利は腰にベルトを巻きながら、タクトに視線を送る。タクトもサキガケの戦闘力を知らない。


「わざわざ戦わんでも」

「心配ご無用です✨まずは、主人公が変身してください✨」

「う、うん。変身!」


 フォワードベルトにフォワードボールをかざして、勝利の姿がサムライブルーの執事バトラーに変わった。その変身バンクを間近で見て、サキガケはその場でぴょんぴょんと跳ねる。


「ホンモノですね✨」

『そうじゃよ?』

「次は、ボクの……!」


 侵略者としての特性は『見た物体の構造を把握してその姿を変える』こと。仮面バトラーフォワードの隣に、もう一体の仮面バトラーフォワードが現れる。


「うそ……」

「なんやて!?」


 フォワードに変身したサキガケは、フォワードの全身を見て、を施した。勝利とサキガケが魁泰斗の姿をしていては不都合があったように、仮面バトラーフォワードが二体いることによって問題が発生するやもしれない。


「その色、いいね! カッコイイ!」

「いいでしょう✨ボクにはお守りするお嬢様がいないので、仮面ではなく『シャドーフォワード』と名乗らせていただきます✨」


 意気投合する勝利とサキガケ。外面だけでなく、内面も似ているのかもしれない。


「ま、まあ、ええわ」

「タクトさんがフォワードベルトを作ってくれたからこそ、仮面バトラーフォワードが生まれたのです✨タクトさんは素晴らしい技術をお持ちですね✨」

「おおきに?」

「ボクはまねっこしかできませんよ✨オリジナルがいないと、ボクはヘンシンできません✨」

「そうなんか」

「だからなんだね。何もないところに、影はできない……センスあるー!」

「ありがとうございます✨」

『準備運動が終わったら、移動するぞい!』


 怪人がまさに暴れ回っているというのに、お互いを褒め称えている場合ではない。ゴートが声を張り上げて、フォワードたちをせかした。


「はい!」

「了解です✨」


 フォワードベルトのボタンを押すと、フォワードは怪人の出現場所へと瞬時に移動する。シャドーフォワードはフォワードにくっついて、ともに移動した。


「ついてきてる!」

「もちろんです✨」


 タクトやお嬢様は、あとから車で合流する。お嬢様が【復元】を使用することによって怪人に破壊された街を元通りにしつつ、仮面バトラーフォワードの存在をアポストロフィーに知られないように、隠しているのだ。


「貴様ら、仮面、バトラーか」


 頭部がツボの形になっており、そのツボからウネウネとした生き物を生やしているウツボ型怪人がフォワードに気付いた。ウツボたちは建造物に噛みついたり、逃げ惑う人間に絡みついたりとやりたい放題だ。ツボの側面に顔のような模様が描かれている。


「今日はボクのファンのために、カッコイイところを見せなくちゃ!」

『その意気やよし』


 フォワードはサッカーボールのモチーフがついた剣を取り出した。変形して銃にもなる、フォワードのメイン武器である。


「ファン代表として頑張ります✨」


 シャドーフォワードは天に右手を伸ばす。いつもとは姿の違うアッティラに合わせて、軍神マルスの剣は。シャドーフォワードのメインカラー、ミッドナイトブルーのカラーリングの大剣が青空の向こう側から降ってきて、シャドーフォワードの手の届く位置に突き刺さった。


「二対一とは、卑怯者、め」


 ツボの中からウツボたちがあふれて、地面にドバドバと流れ落ちる。怪人の配下として立ち上がった。


「ゆけ!」

「ミギィー!」


 ウツボ型怪人の合図に従って、配下のウツボたちがフォワードとシャドーフォワードに襲いかかってくる。シャドーフォワードが一歩前に出て、軍神マルスの剣を振るった。


「てぇいっ✨」

「ミギャ!」

「ザコはボクに任せて、フォワードは怪人のゴールを探してください✨」

「ありがとう!」


 シャドーフォワードが軍神マルスの剣でウツボたちをなぎはらい、バタバタと倒れていく。しかし、倒しても倒してもツボからは新しいウツボが生み出されていき、本体のウツボ型怪人を倒さなければ止められない。


「見えた!」


 ウツボ型怪人のゴールは、頭部のツボと上半身の間、首にあたる部分にあった。シャドーフォワードが処理しきれずにフォワードへと向かってくるウツボたちを剣で追い払いながら、フォワードはベルトからシンボリックエナジーのサッカーボールを射出させる。


『期待に応えて、華麗なシュートを決めるのじゃ!』

「もちろん!」


 サッカーボールをリフティングさせつつ、シュートのタイミングを見計らうフォワード。シャドーフォワードは、仮面バトラーシステムバージョン4を模したものであって、仮面バトラーシステムバージョン4のようにシンボリックエナジーは操作できない。シンボリックエナジーがなければ、怪人のトランスフォームシステムは破壊できないようになっている。サキガケは『仮面バトラーフォワード』の世界の住民ではないので、そもそもシンボリックエナジーというものは体内に存在していない。戦闘のサポートはできたとしても、怪人を倒せるのは仮面バトラーフォワードだけだ。


「今だ!」


 フォワードがボールを蹴り、ウツボ型怪人のゴールネットを揺らす。ウツボ型怪人のトランスフォームシステムは許容量を超えたシンボリックエナジーにより、熱暴走して爆発した。同時に、ウツボたちも倒れる。


「よし!」

「すごいです✨さすがはフォワード!」

「シャドーフォワードが戦ってくれたおかげだよ! 一人だったらどうなっていたことか!」

「ボク、間近でゴールの瞬間が見られて、感無量です✨あとでサインをください✨」

「いいよいいよ! 何枚でも持って行って!」

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