第5話 第一発見者

 第一発見者の名前はオットー。

 このアパートの管理人だ。

 雇われ者で、元兵士らしいが、足を悪くして、この仕事に転職したらしい。

 アパートの管理人は賃金が安いが、障がい者でもやれる仕事なので、大抵はこうした者が就いている。

 彼の話しから、女は部屋の住人。名前をミリア。

 出身地は不明。年齢も20代としか解らない。

 戸籍も住民票も存在しないこの国ではこんな奴らは腐る程居る。

 徴税の為にもその辺を整備するべきだと俺は思う。

 名前しか解らない女は何故殺されたか。

 オットーは第一発見者であり、殺害理由こそ希薄だが、容疑者からは外せない。

 彼が彼女と肉体的関係に無かったとは言えず、尚且つ、横恋慕、または強姦などの可能性だって捨て切れないからだ。

 オットーは自称、53歳。出身地はサラド村。妻子無し。

 負傷して、左足を悪くして、歩行に支障をきたしている。

 

 彼の背中を確認する。

 この世界では戸籍や住民票が無いのと同じで、犯罪歴を文書で残す事はしない。

 だが、その人間がどんな罪を背負ったかを刻む必要はあった。

 その為、有罪判決を受けた者は背中にその罪と内容を入れ墨で残す。

 彼の背中は幸いにも綺麗なものだった。

 犯罪者の中には背中を火傷させて、入れ墨を消す者も多い。

 

 犯罪歴が無いから良い人など考えない。

 死後硬直から考えて、女は3時間以上から12時間以内に殺されている。

 この世界の時間は一日を28時間で数える。

 一年は310日。この王国においては四季があり、夏はダレ。秋はサラオ。冬をピコット。春をグライオリオスと呼ぶ。

 現在は初夏であり、ダレの季節だ。気温は20度程度。温度計が無いので、あくまでも肌感である。

 現在の時間は昼の1時ぐらい。

 だから殺害されたのは午前中の可能性がある。

 オットーの午前中の行動を聴取する。

 

 起床は午前6時頃。

 朝食を食べて、部屋を出たのが午前7時頃。

 アパートの前を掃除して、アパートに異常が無いかを確認する。

 これらの行動を裏付けする為には彼の姿を見た者を探す必要がある。

 この時代において、証言は重要であった。

 無論、自白もだ。その為なら拷問も仕方が無いと考える。

 あまりに無粋な話だが、物的証拠がないならそれは捜査の限界でもあった。

 科学的捜査が可能ならば、爪先の皮膚片だとか被害者の着衣についた体液だとかを調べれば良いのだろうが、残念ながら、この世界ではそれは不可能と言うやつだった。

 ただ、オットーの部屋に行けば、解る事もある。

 オットーの部屋の家宅捜索を行う。

 確かに朝食の痕跡があった。

 全て食べ終えた皿があった。まだ、洗っていないので、微かながら残留物がある。

 「パン・・・か」

 パンの屑が落ちている。それ以外はジャガイモの皮。

 「なるほど・・・朝食を取ったのは確実のようだな」

 パン屑の乾き具合から、それほど時間が経ってない事は明らかだった。

 次に隣の部屋に聞き込みに行く。

 オットーの部屋は1階の西隅なので、隣は一室しか無い。

 部屋の主はビリオネラと言う中年女性。

 踊り子をしている。

 まぁ、彼女の言う踊り子とは舞台の上でストリップショーをして、性的な行為を見世物にする事だ。

 彼女が被害者を殺害する可能性だが、限りなくゼロだと言える。

 彼女はそうした商売をしているが、金に困っているわけじゃない。

 次に被害者の部屋とは2室も離れており、近隣とは呼べない。

 交友関係こそ不明だが、年齢も離れており、怨恨に発展するような交遊は無いと思われる。

 彼女に今朝のオットーの様子を尋ねる。

 彼女は午前中、ほとんどを寝ていた。

 だが、隣の部屋の物音は聞こえるわけで、概ね午前7時前後に隣室から物音がしており、オットーが仕事を始めたのだと思ったそうだ。

 不確実ながら、オットーのアリバイはビリオネラの証言によって、判明した。

 

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