普通の田中太郎なのに普通に恋愛ができない

@hama-yu

普通嫌いの田中の始まり

1年前の夏休み前最後の昼休み。

「平石さん。好きです!付き合ってくれませんか。」噛まずに言えたと一安心も束の間。「ごめんなさい。気持ちは嬉しいけど、田中くん普通だからそういった目でみれない。」彼の名前は田中太郎。身長170cm、体重60kg、学力は150人中75位。通信簿もオール3。もちろん顔も普通。一般的には普通の高校生といえる

そんな彼が告白した人というのは平石紗季。男子人気ナンバーワンで、容姿はもちろん学力、運動神経も抜群。そんな平石とは小・中・高と同じ学校で家も近所らしい。特別仲が良いわけでもないが、彼女が居る居ないで、教室の雰囲気が大きく変わるその明るさに田中は惹かれ、勇気を振り絞って思いきり告白をした。

だが、あの告白から田中の人生観が大きく変わる。普通の田中ではなくなった。正確には普通を嫌う田中になった。

普通はダメなのか?だがみんな言ったことはないか?「なんだかんだ普通が一番」と。

その根拠が普通ではない人は、皆の輪に入れず独りぼっちになる人がでてくる、最悪の場合いじめにまで発展するケースもあるではないか。他にも普通に大学まで行って就職して普通の人と結婚して家庭を持つのが幸せなことだと親にも人生の先輩にも言われたことはないだろうか。ということは普通は良いことではないかと田中は思った。そして平石は普通じゃないんだとも思った。そう結論付けた放課後。平石と仲良し3人組の会話が聞こえた。

「普通が一番だよね~」田中は一瞬聞き間違えかと思ったが、間違いなく平石がそう言った。普通が一番なのに普通の田中を受け入れてくれなかった。田中はふとあることを思い出した。母が、テレビに出てたイケメン俳優を見て、

「こんなイケメンと結婚したかったなぁ。それに比べてお父さんはといえば…」

田中の母も普通の人と結婚して家庭を持つのが幸せと言っていたが、内心は違うらしい。

平石も普通がいいと言いながら、結局はイケメンと付き合いたいだけか。そう思うと今まで普通の人生を歩んで来たのを否定された気分がして、次第に涙が出てきそうになり、慌てて教室をあとにした。どこに向かうというわけでもなく、ただあの場から逃げたかった。そんな時に

「田中くん?」と優しい女性の声が聞こえた。声が聞こえた方を見てみると、そこには吉田若菜がいた。吉田は平石と同じぐらい人気者だ。平石がギャル系であれば、吉田は清楚系といえるだろう。

田中と吉田はあまり話したことはないが、平石とのグループにいつもいるのは知っていた。けれど田中が逃げたしたあの場には吉田は居なかった。

「大丈夫?」吉田の優しい声が田中の涙腺を崩壊させた。泣くつもりはなかったが、いろんな感情が崩壊させ涙ってそんなに出るんだと思うほど泣いた。

吉田は慰めの言葉はかけなかった。

ただただ小さな手で田中の背中をゆっくり優しくさすっていた。しばらくして田中も落ち着きだしたタイミングで、吉田が「帰ろっか」と一言。その言葉で歩き出した帰り道の途中に吉田が家に来ないか誘った。どうやら田中の事を心配してのことらしい。田中は言われるがまま、吉田の家に行った。吉田の部屋に案内され入った田中は落ち着きを感じていた。田中の部屋と同じ特徴もなく女性らしさもない、味気ないシンプルな部屋だった。吉田はニヤリと笑い「女の子ぽくないでしょ?」と聞いてきた。田中は小さく頷くと「私、普通じゃないらしい」と一人で笑っていた。「普通ってなんだろうな」この言葉から平石に告白したことやその後なぜあの場にいたのかなどを話した。

話おわると吉田は田中の頭をポンポンとしてきた。少し恥ずかしがるも、嫌な気持ちにはならなかった。吉田にこの感情を悟られないように出されたコーヒーを飲み干したところで、吉田が田中の上に向かい合う形で座ってきた。「吉田?」こんなに近くで女の子の顔を見たのは初めての田中。しかもそれが学年1位2位を争う人気者の吉田だから尚更動揺は隠せない。しかし吉田の顔は真剣だった。「若菜って呼んで」「わ…若菜?何で俺の上に座ってるの?」と聞いたが、先ほどとは真逆で、顔を真っ赤に染めて、明らかに恥ずかしがっているのがわかった。その恥ずかしげな表情も束の間。何かを決心したみたいで、両手を大きく振り降ろした。その手の先は田中の急所を襲った。田中は痛がるも若菜はお構い無しに話をする。「私、田中くん…いや太郎とキスがしたい」まさかの宣言に驚き沈黙になった。何か返さなければと考えた挙げ句、まさかの「いいよ」なぜそう言ったかは田中にもわからない。だが、若菜の部屋といい雰囲気がどこか田中を狂わせたのは確かだ。今の距離でもかなり近いのにさらに若菜の顔が近づき、初めてのキスをした。少し離れてお互い真っ赤な顔を相手にみられまいと下を向いた。田中は若菜がどんな顔をしているのか気になって下から覗き込んだ。沸騰するのでは?ってぐらい真っ赤に染めた顔を見た田中は、ちょっとしたイタズラ心で若菜にキスをした。このキスがお互い何かのスイッチを押したようだ。最初はキスの時間より冷静さを取り戻す時間の方が長かったが、次第に一回のキスの時間が長くなった。唇だけでは足りず舌を絡ませると、一気に2人の体温は汗ばむほど上がった。服の一枚でも脱げば適温になるとお互いわかっていたが、服を脱ぐ一瞬でも離れたくなかったのだろう。キスをしながらお互い服を脱いでいった。お互いの情熱と体温がピークに達した時に、初めて2人は1つになった。それ以降の記憶は2人ともない。覚えていることは、お互い似ているということ。似ているから、お互いの考えていることがわかり、行為中は言葉はなかった。終わったあと互いに余韻に浸り、落ち着いたところで、服を着ようとした田中のうでを若菜は掴み「この関係は2人だけの秘密ね」そう言って田中の左頬にキスをした。平石への告白から始まり、若菜との初体験。内容の濃い1日からちょうど1年後の現在、田中は高校2年になり、若菜との関係は今も続いている。デートや旅行にも行った。でも2人は恋人ではない。なぜなら告白をしてもされてもないからだ。普通の関係性ではないだろうが、2人にとってはこれが普通の感覚であり、居心地がいい。

今日は若菜が田中の家に泊まることになった。田中の親が今週は仕事やパートで夜居ないからだ。その事を若菜に伝えると泊まりに行くと言い出した。2人は意外にも泊まりは初めてで若菜はとてもテンションが高かった。放課後帰る準備をしていると若菜からメッセージがきた。

「このあと、いつもの友達とファミレス行くことになって、その後行くから少し遅くなる。ごめんね」いつもの友達は平石と若菜に3名を加えた5人グループのことだ。

「了解」と返して田中は学校をあとにした。帰る途中、無性にピザが食いたくなり、母からも居ない1週間用に少し多めにおこづかいをもらってたこともあって。ピザを買うことにした。若菜に食べたいピザの種類は何かメッセージを送った。すると「太郎の食べたいもので大丈夫だよ!でもコーラと烏龍茶は必須で!」コーラと烏龍茶の謎の組合せに疑問を抱きながら「わかった」と返して飲み物を買い、ピザを買いに行くことにした。ピザも買い終わりあとは帰るだけだったが途中雨が降りだし、折り畳み傘をさしながら歩くこと10数分。家まで残りあと50mの距離で同じ高校の制服を着た女子が傘をささずしゃがんでいた。

若菜にしては早いなと思ったが、そこにいたのは平石だった。近づくと平石は泣いていたのがわかった。告白以降一言も話しておらず気まずかった。無視してもよかったが、ちょうど門の目の前にしゃがんでいたので、無視するのも気が引けた。どうすればいいのか悩みながら歩く田中を、平石はピサの匂いに気付き、顔を上げて田中を見た。その目からは涙なのか雨なのかわからないが、水が流れていた。

「田中くん。あの時はごめんね」そう言って流れていた水は涙だったことがわかったが、その一言が田中と平石の関係が変わる合図でもあり、若菜との関係も変わる合図でもあった。

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