落ちこぼれ精霊使い、封印精霊と契約してSSSランク冒険者に成り上がる ~クーデレ少女と一緒に目指す僕のダンジョン制覇~
小日向ななつ
序章:役立たずなFランク冒険者
1︰思いもしないお別れ宣言
「最後のスタミナポーションが……何をするんだよ、ゼルコバ!」
いきなり僕にぶつかってきたし、ホント何するんだよ!
僕はいつものように大量の荷物を持ち、いつものように倒したモンスターからドロップアイテムをかき集めていた。
だから当然汗だくでヘトヘト。スタミナポーションを飲もうとしたら、いきなり僕にぶつかってきたんだ。
そのせいで最後のスタミナポーションが壊れちゃったんだけど、パーティーリーダーの【ゼルコバ】はニヤニヤと笑っていた。
「悪いなレオス。壊しちまったぜ」
「壊したって、あれが最後のスタミナポーションだったんだぞ。どうしてくれるんだよ!」
「知らないな。動けないなら置いていくだけだ」
「置いていくって、そうならないためにスタミナポーションを――」
「まどろっこしいな。わからないのか? ここでお前とはお別れだって言ってるんだよ!」
「なっ!?」
ここでお別れって、つまり僕はいらないってことなのか?
そんな、そんな訳ない!
だってこのパーティーは僕がいなかったら誰も雑務をこなさないし。
絶対に、絶対に僕は必要だよ!
「なんでそんなことを。僕、頑張ってきたよゼルコバ!」
「何もできない荷物運びなんていらないんだよ、レオス!」
何もできないって……確かに荷物運びだけど、すごく頑張ってたんだよ!
誰もしないアイテム選別や、アイテム回収、それに換金とかそういった雑務を全部こなしてきた。
それなのに、何もできないって……絶対におかしいよ!
僕がそう思い、さらに反論しようとしたらゼルコバがその前に言葉を被せてきた。
「お前の魔力のせいで強いモンスターしか寄ってこないんだよッ。それに、有望な精霊だって寄ってこない。つまりマジで邪魔なんだよ!」
う、痛いところを。
だからこそ雑務でみんなを支えてきたんだけど……
確かに僕はどうしてかみんな持っている精霊がいない。
魔力はあるのに、なぜかだ。
それに、エンカウントするモンスターはなんだか強いし。
まさか、それも僕のせいだって言っているのか?
反論ができず、僕は思わず助けを仲間達に求める。
でも、見守っている三人のうち二人は冷めた目で僕を見つめていた。
「当然じゃない? だってアンタ、精霊に嫌われてずっと契約できていないでしょ? だから精霊がいなくてスキルが使えない。正直いらないのよ。ねぇ、ガンガ。アンタも言ってやりな」
「戦えない、支援もそんなにできない。荷物運びも満足にできない。お前、役立たず。いないほうがマシ」
「そうそう。ルナが肩を持ってくれなきゃとっくにおさらばしているんだから。というかアンタ何? まだFランク冒険者じゃない。とっととやめたほうがいいわよ?」
長い黒髪をポニーテールにし、銀の胸当てを装備した魔法使いバルミに衝撃的な言葉をぶつけられる。
隣に立つ体格がいい重戦士ガンガはウンウンと頷き、僕がいかに役立たずなのかを強調してきた。
「そんなこと……僕は、ずっと……」
言い返すことができない。
あんなに頑張ってきたのに、どうしてか言い返せない。
悔しい。そう思っていると少し遅れて緑髪にメガネをかけ、ローブに身を包んだ少女ルナが声を上げた。
「ちょっ、ちょっと三人とも! いきなり何を……」
「そのままの意味よ、ルナ。私達はこいつのお守りに限界なの。というかこいつずっと【
「バルミ、あなたなんてことを! それにお守りって……レオスがいなかったらこのパーティーは崩壊してるわよ!」
「いないほうがマシ。オレ、そう感じてる」
ルナが懸命に僕を庇おうとしてくれた。
だけど、バルミとガンガはお構いなしに僕をけなしていく。
それでもルナは僕の必要性をみんなに気づかせようとしていた。
ああ、やっぱりルナは優しい。
みんなが僕を責め立てているのに、味方になってくれる。
だけど、そんなルナの行動を快く思わない奴がいた。
それはゼルコバだ。
「ルナ、お前の親がした借金はいつ返してくれるんだ?」
ゼルコバはルナに近づき、耳元で何かを囁いた。
何を言われたのかわからないけど、その言葉を聞いたルナは黙り込む。
すっかり静かになったルナにゼルコバは気分よく笑い、みんなに聞こえるようにこんな忠告した。
「もう少しで返済できたんだったな。そうだな、このまま黙っててくれたら利子はそのままにしておいてやるよ」
ルナは唇を噛んだ。
悔しそうに睨みつけ、でも何もできないもどかしさを感じているように見えた。
ゼルコバはそんなルナから支援を外し、僕に振り返る。
そのままゆっくりと近づき、ニヤつきながら僕の顔を覗き込む。
何をする気だ?
そんなに僕の顔が面白いのか?
そんな風に睨み返しているとゼルコバは唐突に右頬をぶん殴ってきた。
「おっと悪い。役立たずを殴っちまった」
くそ、何をするんだよっ。
僕は思わず叫ぼうとしたが、その前に容赦ない蹴りをお腹にしてきた。
それは深く突き刺さり、強烈な痛みが僕に襲いかかる。
だから思わずお腹を抑え、悶えているとゼルコバはさらに楽しく笑った。
「ハハハッ! おい、こいつ虫みたいに転げ回ってるよ! これが本当の虫けらってか!」
「あら、ホント。これがザコの姿なのね!」
「オレも蹴りたい。蹴っていい?」
「やれやれ。痛いぐらいが気持ちいいってよ!」
ガンガに思いっきり蹴り飛ばされ、僕は転がる。
そんな僕を見て、ルナ以外の幼なじみは笑っていた。
みんなのために頑張っていたのに、なんでこんな仕打ちを受けなきゃいけないんだ。
そもそも、どうしてこんな目に僕は合っている。
くそ、なんでこんな痛い思いをしているんだよ。
「あー、スッキリした。おいルナ、転移の羽を用意しろ」
「……そんなものを用意してどうするのよ?」
ボコボコにされ、動けなくなった僕に飽きたのかゼルコバはルナに声をかけた。
ルナは強く睨みつけながら問いかけると、ゼルコバはこう答える。
「わからないのか? こいつを置いて、俺達は帰るんだよ」
「なっ。そんなことをしたらレオスがモンスターに――」
「食われるだろうな。なんせこいつには精霊がいない。だからスキルも使えない。もっと簡単に言えば、戦う力がないからなぁ」
「わかってるなら、なんでそんなことを!」
「こいつは俺の本当の顔を知っている。だからだよ」
その言葉を聞いたルナは、強く奥歯を噛んでいた。
でも、反発したくても反発ができない様子だ。
だからゼルコバの言う通りに転移の羽を道具袋から取り出し、準備し始める。
ゼルコバは素直に従うルナを見て、満足げな笑顔を浮かべる。
そして、まだ起き上がれない僕へ近づき、こんな言葉を囁いた。
「お前、さっきアイテムを拾ってたよな。それ俺のものだから、返してもらうぜ」
僕が持っていたアイテム袋が奪い取られる。
中身を見るゼルコバは、笑いながら「シケてるなぁ」と言い放ち、空っぽになったアイテム袋を投げ捨てた。
「じゃあなレオス。お前を食べたモンスターが腹を壊さないことを祈ってるぜ」
ゼルコバ達、いやかつての仲間達が僕をダンジョンに置いて脱出していく。
一瞬だけルナが振り返ったけど、すぐにゼルコバ達を追いかけて消えてしまった。
「うっ、くそ……」
何もできなかった。
殴り返すことすらできなかった。
僕が弱いから、できなかったんだ。
精霊さえいえば、こんなことにはならなかったかもしれない。
でも、いないものはいない。弱い事実も変わらない。
悔しいけど、認めるしかないのが現状だ。
「ああ、くそ。なんで、こんな痛い思いをしてるんだ」
身体中が痛い。とても情けない思いが心を支配する。
でも、まだ生きている。
生き延びるためにも、今はこのダンジョンから生きて脱出しなきゃ。
だけどどうやって?
ここは強いモンスターが闊歩しているダンジョンの深部十階層だ。
精霊なしじゃ鉢合わせた途端に食べられて終わりだよ。
「このまま終わりたくないっ」
こんなところで、こんな終わり方はしたくない。
どうにかしてダンジョン脱出をして、生還しなきゃ。
こうして僕は心を奮い立たせ、生還するための手段を探し始めるのだった。
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