学園の聖女だと言われている彼女の裏の顔を見てしまった俺の高校生活が、180度変わってしまった件について。
蜂乃巣
第1話 聖女様...?!
何のイベントも起こりそうにない一日。
退屈な時間が刻々と過ぎていき、一日が終わる。
そんな1日に満足していないのか?と聞かれると、実はそんな事ない。
1日を何もせずに過ごす。
カロリーは低減、それに伴い、やる気も低減。
口には出さず、脳内でそんなラップ染みた事を考えながら、教室の窓から見える青空を見上げる。
曇りがかった空に、時折見せる太陽の光が、何か神々しいオーラを放っている。
こういう瞬間に、ロマンを感じてしまう男子は少なくないだろう。
「あ、金持君。」
「...ん?」
「あ、あの...先生が呼んでたよ?」
「あぁ、ありがとう。」
「う、うん。」
この若干どころか、大分距離のあるトークを展開されるのはいつもの事だが、最近、このコミュニケーションというものが世界から無くなってはくれないか?と考えてしまう程に人と話すのが億劫になってきている。
年々、ヘラ気質が増してきている気がしなくもないが、これは俺の立場になってみたら、メンタルお化け系の人種以外では、俺の様にヘラ気質になってしまう人間が多数だろう。
「はぁ...。」
目つき。
それは、人が人を計る際に、容姿の中で1.2番目に見られる重要なパーツである。
もしも初対面の人間しかいない場面で話しかけるとしたら、愛想が悪く、目つきも鋭い、まるで人殺しの目をしたかの様な三白眼の男と、愛想も良く、優しそうな目つきと柔らかそうな表情の人間、どちらに話しかけるか、と聞かれたら大半の人間は後者を挙げる事だろう。
前者には、絶対に近づきたくはない、と俺でも思う。
だが、その近づきたくはない人間が自分だった場合は、どうすれば良いのだろうか?
今流行りの異世界転生モノの様に目が覚めたら異世界、そしてイケメン+ハーレムなんですけど?的なモノが、本当にあるのなら実現してほしいところだが、現実はそんなに甘くはない。
現実というものは無情であって、無慈悲。
天は二物を与えず、所か一物すら与えてくれないのだ。
ならば、どうするか?
答えは明白である。
時の流れに沿って生きる。
これが俺の答えであって座右の銘だ。
「はぁ...。やべ...。休み時間おわんじゃん。」
そんな事をブツブツと呟きながら、机に伏せていた顔を思い切り、バッと上げて体を起こす。
俺の様子を見ていたのか、俺が立ち上がった瞬間に、体を逸らすクラスメイト達に若干嫌気が差しながら俺は教室を後にした。
何で先生に呼ばれたのかを考えながら、廊下を歩く。
進路?成績?部活に入れ?
思い当たる節すらない為、考えても一向に答えは出てこない。
「はぁ...っと!」
「キャッ!」
頭をフル回転させていたからか、目の前から歩いてきた少女に気付かずに、体当たりする形で突っ込んでしまった。
「ご、ごめん!大丈夫?!」
「あ、うん!大丈夫!ごめんね、私が前見てなかったから!」
「...あぅ、いや、ごめん!」
「え?ちょっと?!」
ついその場から走り去ってしまった...。
罪悪感もあったが、一番は彼女の顔を直視できなかったからだ。
「はぁ...。はぁ...。」
学園の聖女様、というあだ名を付けたのは誰なのか分からないが、よくもまぁそんなに的を得たあだ名を作ったな、と思う。
俺の様な目つき鋭い系強制コミュ障やろうとは、正反対で、茶色がかった髪色に、セミロング程の髪にパーマをかけているのか、大人の色気というか、何というか形容し難い魅力を醸し出す、学園の聖女様、橘 英美里。《たちばなえみり》
俺の腐った心がついさっきの数秒で、浄化されてしまった。
俺が悪魔的存在だとしたら、彼女は本当の聖女様なのかもしれない。
そんな事を脳内で1人語りしながら、息を整えるために歩く速度を落とし、「はぁ。」と息を吐く。
正直、あれ以上彼女を見つめていたら、本当に聖女オーラで天に召されていたかもしれない。
「可愛すぎるだろ!聖女様!」
そんな俺の独り言が、幻想が崩れ去ってしまうのは、神の悪戯か...。
今から、5時間ほど後のことだった。
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「ヤベェ...はぁ...はぁ。」
俺は急いでいた。
何故なら、後20分で校門が閉まってしまうからだ。
制限時間内に早く、教室に忘れたテスト範囲のノートを救助してやらねばならない、と過去TOP10に入る程の速度で教室へと向かう階段を上がっていた。
「何よ!本当ッ!!私が聖女様?!マジキッモいんだけどッ!!」
え?なんかヤバいの聞こえるんですけど。
俺が階段を上がっていると、屋上からだろうか?
聞いたことのある鈴の音を彷彿とさせるかの様な声質の声が聞こえる。
「聖女?!女神?!マジでキモッ!発想がオタクすぎんのよ!!3次元に自分の理想押し付けてんじゃないわよ!はぁ...マジキモい!!」
嫌な予感がした。
何故なら聖女、女神、などと言われてる人間なんて1人しかいないのだから。
俺は興味本位半分と後は何か分からない複雑な感情を胸の内に抱えながら、屋上へと足を進める。
俺が階段を登っている途中も、彼女の怒号は止む事を知らない。
「はぁ、はぁ...!もうマジで無理!!キモすぎなのよ!!」
俺の持っていた予感は、階段を登り終えた時、確信へと変わる。
赤く染まった夕暮れの背景。
飛行機雲の走る雲の下には、夕日に照らされた少女、いや聖女様がいた。
「はぁ...はぁ...!」
「...。」
幻想が崩れ去る時は一瞬なのだと、この時ばかりはそう思ってしまった。
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