第4話

「すごいな……全部真っ白だ」


 汽車から降りたアシュリーの第一声。

 その驚いたような、嬉しいそうな顔を見て、ネイトは、


 連れてきて良かったな。

 その顔、可愛い。

 言わないけど。


 と、思った。


 ネイトの故郷に着いたのは、翌日の昼前だった。

 一面の雪と触れる空気の冷たさに、ネイトは帰ってきたことを実感する。


 さっそく雪道を歩いて、家に向かう。

 アシュリーも、慣れない雪道に足を取られながら、楽しそうに歩いて行く。


 やがて前方に、小さな宿屋が見えた。

 雪かきをしていた人影が、ネイトに気づいて身体を起こす。

 それは、ネイトの母、ドナだった。


「ただいま、母さん!」

「ああ、お帰り。寒かったろう?」

 ドナは笑顔で、息子を抱きしめる。

 そしてネイトは、アシュリーを紹介した。


「まあ、こんな遠くまでようこそ。さあさあ、中に入ってちょうだい」

  ドナに温かく迎えられて、アシュリーも嬉しそうに笑う。


 部屋に入って、お茶を飲み、人心地ついたところで、ネイトはドナに土産を渡した。

 木彫りでできた赤いバラのブローチだ。


「アシュリーが選んでくれたんだよ」

 ネイトが言うと、ドナはさっそく胸に付けて、

「素敵ねぇ……この大きさならショール留めにも使えるわね。さすがに女の子は選ぶのが上手だわ、ありがとう」

 と、アシュリーに笑顔を向ける。


 買ってあげたのは僕なんだけどね。

 言わないけど。


「とてもお似合いです、母君」

 そう応えたアシュリーの、はにかんだ顔が、とても新鮮で……。

 あんな表情もするんだな、と、ネイトは思った。


 

 それから、近所に住む叔父夫婦がやって来て、ひと通りの挨拶を済ませると、宿屋の仕事が始まった。

 夕方になれば、今日の泊まり客が来る。

 それまでにやらなければならない事は、たくさんあるのだ。


 ネイトもすぐに手伝いに入る。

 すると、アシュリーも後を付いて来て、 

「ネイト! 私も一緒に手伝おう!」

 と、腕まくりを始めた。


「アシュリーはお客様だから、部屋で休んでいてよ」

「そんな訳には行かない! 何か仕事をやらさてほしい」


 アシュリーのやる気は満々だが、この筋金入りのお嬢様に、できる仕事はあるんだろうか……と、ネイトは頭を悩ませる。


「それならアシュリーさん、お花を飾って下さらない?」

 やりとりを聞いていたドナが、柔らかく口を挟んだ。

 ドナが持つ籠には、雪のなかでも花を付ける、冬スミレや冬菊が入っている。


「これをね、客室と、食堂や玄関に飾ってちょうだい。客室は2階と3階。扉に番号が振ってある部屋よ。足りなければ、庭から摘んでいいからね」

 そう言って、ドナは籠をアシュリーに渡してしまう。


「はい!」

 アシュリーは頬を赤くして、大きく返事をすると、いそいそと階段を上がって行く。


 あんな顔もするんだ……

 さっきの表情といい、普段学校では見せない様子に、ネイトの胸はドキンとする。


 それにしても大丈夫かな?

 母さんには、アシュリーが貴族の令嬢だって言ってないし……

 花瓶のひとつやふたつ、壊れるかもしれないなぁ……


 ネイトは心配で天井を見上げるが、自分の仕事もあるので、仕方無く、その場を離れた。

 


 夕方となり、宿には今日の泊まり客が入り始めていた。


 ネイトはこの時間まで、外で雪かきと薪割りをしていた。

 肉体労働しっぱなしで、腰や腕が痛い。


「……何か魔法、無いのかな。火炎魔法で溶かすってのも、家が火事になったら困るしなぁ……」


 ブツブツ言いながら、勝手口から中に入ると、


「綺麗ねぇ〜」

「小さい春が来たようだなぁ」


 そんな声が聞こえて来る。

 客用の食堂ダイニングからのようだ。


 見れば、テーブルの真ん中に、花が飾られていて、それを客たちが誉めているのだ。


「この子がしてくれたんですよ、息子のお友達なんです。お部屋の花もこの子が」


 アシュリーの肩に手を添えたドナが、客たちにそう紹介していた。

 客たちは感心して、うなずいたり、アシュリーを誉めたりしている。


 当のアシュリーは、というと、どことなく恥ずかしそうに微笑んでいる。


 あれ……。

 学校だったら「当然である」とか言って、胸を張る場面……じゃないのかな?


 テーブルに飾られた花は、色の組み合わせも美しく、ところどころに緑も混ぜて、客たちが誉めそやすのも納得できる。


 アシュリーに、こんな一面があったなんて……。


 ネイトはただ微笑むだけのアシュリーを見ながら、声をかけることができなかった。



 客たちの食事が一段落付いた後で、ネイトたちの夕食となる。

 厨房のテーブルで、ネイトとドナ、叔父夫婦と従兄弟いとこたち、そこにアシュリーも加わって、とても賑やかなものとなった。



 夜も更け、ネイトがアシュリーを部屋へ送って行く時、


「……ネイト、聞いていいか?」

 遠慮がちなアシュリーの声が、ネイトの足を止める。


「ネイトの父君は……どうされておられるのだ?」


 ネイトはゆっくりと、アシュリーを振り返る。

 

「うん。……こっちへ来てくれる?」


 そう言ってネイトは、アシュリーをいざなった。


続く


 

 

 

 


 

 

 


 



 


 

 

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