のろわれすみか -呪われ代行・荊禍栖-

軽乃くき

のろわれすみか

手のない女


 霊能者、と聞いて、あなたはどんな人物を思い浮かべるだろう。

 数珠を持ったパーマのおばさん。結袈裟を首から下げた山伏。浄衣姿の陰陽師。もしくは、いかにも現代風なきっちりとしたスーツを着込んだ社会人とか、少しアバンギャルドな格好をした個性的な若者とか。

 いずれにしても、よれよれのスウェットの男が出てくるとは思わないはずだ。

「やぁ、そっか、約束は今日だったっけねぇ。このところすっかり日付の感覚がなくって駄目だよ、引きこもりの弊害だ。あー、そこ気を付けてね、ちょっと床腐ってるからね」

 いかにも今起きたばかりという空気を纏った彼は、後頭部をわしわしと引っかきながら、うはは、と笑う。あまり楽しくなさそうな、息の抜けたような声だ。感情がスカスカしている人だ、と思って、私は腹の底に力を入れた。

 わかりにくい人との会話は、すこしだけ疲れることを知っている。

「そんじゃあ、まずは話を聞こうか。ぼくの仕事はまず、そこからだ」

 にたりと笑顔を作る。私は宇多川さんの手を引いて、言われた通り手前の床を避けながら――少し湿ったかび臭い部屋に足を踏み入れた。


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