第2話 幼馴染みは怒らせると怖い

 ――勇者パーティを追放されて、一ヶ月が過ぎた。

 ここは、サールカンス王国の王都。

 この日、俺は自分の宿泊する宿を抜けてある人物とコンタクトをとっていた。


 追放されてから今日まで、俺は野宿だったり宿に泊まったりして生きてきた。

 去り際、アイツ等に押しつけたのはモンスターの死骸だけで、自分の分のお金(と言っても、不当な分け前しか貰えていなかったから決して多くはない)や食料は残っていた。

 だから食いっぱぐれることはなかったが。


「さすがに、今後も無職ってわけにはいかないよな」


 そういう判断に至り、職探しをすることにしたのである。


「おい、アレ見ろよ」

「え。あ! アイツまさか、勇者パーティをクビになったっていう……」

「あまりにも役立たずで、追い出されたんだとさ」

「はは、ダッセー。人類の恥じだな」


 歩いていると、周囲からそんな嘲笑が漏れ聞こえてくる。

 リガール達もやってくれたものだ。俺を追放するだけでは飽き足らず、どうやら世界中に俺の悪評をばらまいたらしい。


「俺の就職の邪魔までしてくれやがって……」


 俺はため息をつきつつ、待ち人のいる酒場の戸を潜って入っていった。


――。


「らっしゃい……ってアンタは」


 カウンターの向こうでグラスを拭いていた店主らしき小太りの男が、俺を見るなり「うわ、マジかよ」みたいな顔をする。

 それに構わず、俺は夕飯時故に混み合っている店内を見まわし――


「あ、やっと来たわね」


 テーブル席から手を振る待ち人を見つけて、俺はそちらへ寄っていった。


「久しぶりねレント。大変人気者で何よりだわ」

「喧嘩売ってんのかお前、そうか喧嘩売ってるんだな?」


 開口一番嫌味を言ってきた旧友に、俺は食って掛かる。

 コイツの名前はアイラ=セファストス。俺の魔法学校時代の同級生で、現在は王都のファーニル魔法学校で教師をやっている。

 燃えるような赤髪をハーフアップにまとめた美女で、体つきも実に女性らしい。


 眉目秀麗でまさしく男の理想と言っても過言じゃないが、22歳にもなるのに男っ気の一つも無い。心底謎な女だ。


「あの野郎。俺の悪評勝手に広めやがって」

「そうね、あなたの悪評は相当出回っているわね。いい気味だわ」

「相変わらず嫌味なヤツだなお前は」

「あなたにだけは言われたくないわね。私、あなたに泣かされたことなんて一度や二度じゃ済まないもの。責任とってくれなきゃ困るわよ?」


 そんな台詞を堂々と言い放つ。


「おい聞いたか。あの野郎、あんな美女を泣かせたんだってよ」

「うわ。正真正銘のクズだ」

「どうせ勇者パーティにいる女性に、あんなことやそんなことを――」


 周りの俺を見る目が痛い。こうして、俺の冤罪が拡散されていくわけか。


「うわ。あなた同じパーティの女性に酷いことしたのね、あなたってサイテーだわ」

「おい待てコラこのヒス女。むしろ酷いことされた方なんだが?」


 俺は小さくため息をついて、アイラに向き直る。


「それで。俺に紹介してくれる仕事ってなんだ?」

「その話だったわね」


 アイラは薄く微笑んで、


「ファーニル魔法学校で臨時講師を募集してたから、私の方から推薦状を出しておいたの。学園長も二つ返事で了承してくれたわ。どう、やってみない?」

「外堀既に埋まってんじゃねぇか……ったく」


 俺は悪態をつきつつ、


「悪いが、俺には務まりそうにねぇよ。俺は「収納魔法」しか使えないザコ中のザコ。しかも、ファーニル魔法学校じゃお前と違って落第生だったからな。第一、教員免許だって――」

「ああ大丈夫よ。その辺は実家の権力に任せて特例としてねじ曲げといたから」

「職権乱用じゃねぇか有名貴族の令嬢様よぉ!」


 俺の知らないところで話が進んでいて怖い。


「大丈夫よ。すっかり悪役ヒールのあなたには誰も期待してないから。精々、生徒に小馬鹿にされるといいわ」

「テ、メェ……さっきからここぞとばかりにバカにしやがって。そんなんだからいき遅れんだよ!」

「なっ!」


 その瞬間、アイラの周囲の空気がザワリと音を立てて揺れた。


「い、言ったわね。この私に対して、もっとも言ってはいけないことを――!」

「え? あ、えと、あの」


 涙目でプルプルと震えるアイラの身体から、特濃の魔力の波動が――って、待て待て待て!!


「おい待て! ここで上級魔法ブッパは洒落にならん!」

「黙れそして死ね! 《インフェルノ・ブラスター》ッ!」


 刹那、アイラがこちらへ向けた右手に魔法陣が生まれ――炎の塊が視界を埋め尽くした。


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