第8話 デュネルとの対決
「じゃ、ありがとな。オレはこれで」
「待て。君は一体、何者なんだ?警官か?」
「…通りすがりの、一般市民だよ」
「…そうか。それと、もう1つ。金のじょうろと言うのを知らないか?行方不明になってるみたいなんだ」
「知ってるよ。だって、それを盗んだのはオレなんだから」
「「「っ!?」」」
「返してもらえないか?それがないと、困るんだ」
「悪いが、それは無理だ」
「なぜだ?」
バチバチと、周りの空気に緊張が走る。
「あのじょうろは危険なんだ。だから、返す訳にはいかねぇ」
「危険…。それでも、この星の王はそのじょうろが手元に戻ることを望んでいる。返してくれ。手荒な真似はしたくない」
「それはオレも同意見だぜ。でも…分かってもらえねぇなら仕方ねぇ。悪く思うなよ」
男は、背負っていたサーベルを抜いた。
「あんた、名前は?」
「…ハク」
「そうか。オレはデュネルってんだ」
ハクは刀を抜こうとしない。
グレイシアたちは、ハラハラとした様子でそれを見つめている。
「ルオン、悪いがルーテが逃げないように見張っていてくれ。当分目は覚めないだろうが…万が一逃げたら厄介だ」
「おうよ。任しとけ」
周囲にいたはずの野次馬たちは、とっくにいなくなっていた。
それは、ハクたちにとってかなりの好都合だ。
「…」
「…」
両者がにらみあっていた中、先に動いたのはデュネルの方だった。
サーベルを振り回し、こちらに迫ってくる。
ハクはそれを、ユラユラとした動きで避けている。
その足取りはゆっくりのように見えてとても速く、まるで風になびく白い旗のようだ。
「…ハク、全然戦う気ないわね」
「刀を抜こうともしてませんからね」
「ユーレイみたいな避け方してるけど、あれ大丈夫なのか?よく転ばねぇな」
「体幹良いのかしら?」
「それは意味が違ってきません?」
そんな話をしているグレイシアたちとは違い、ハクとデュネルは静かだった。
「…刀、抜かねぇのか?」
「抜かない」
「なんで」
「戦いたくないからだ。それに、君がケガしてもよくない」
「…変なやつ」
「よく言われる」
「引いてくれねぇか?オレ、戦いたい訳じゃねぇんだ」
「それは同意する。だが、こちらもあのじょうろが必要なんだ。返してはもらえないだろうか?」
「そんなこと言われても、あのじょうろは本当に危ないんだ。だから返せない」
「危ないって、一体何がそんなに危ないんだ?」
「そこに転がってるアイツ、金のじょうろの場所知ってたろ?」
「あぁ。自分で王の部屋の一番奥にあると言ってくれた」
「マジかよ。ばかじゃねぇの、こいつ。そんなの自首してるようなもんじゃねえか。まあとにかく、あの花には枯れると病を流行らせるという特徴があるんだ」
「知っている。フラワー星を滅ぼしたのもこの花、アゲラ草だな」
「へぇ~、あんた、よく知ってるんだな」
「調べたからな。で、どうして金のじょうろが危険なんだ?」
ハクはユラリユラリと攻撃を避けながら聞く。
「『星殺し』は、あの金のじょうろに細工をしたんだよ」
「細工?」
「じょうろごと、花を枯らす薬が入っているじょうろに変えちまったんだ」
「…一度だけで、そんなに一気に枯れるものなのか?」
「ほら、除草剤とか一発でめちゃくちゃ枯れるだろ?あれと同じ原理だよ」
「なるほどな…。おっと、そろそろ攻撃をやめてもらえないか?いくら
「んー…オレ、あんまり好戦的じゃない方だと思ってたんだけど。なぁあんた、確かハクっていったよな?」
「…そうだが。何を考えている?嫌な予感しかしないのだが」
「ハクって、あの宇宙最強のハクだよな?1回ガチで戦ってみたかったんだよな!どんくらいの強さなのか、手合わせ願うぜ!」
「…はぁ…そう来ると思っていた。これではいつもの襲撃と同じではないか…。グレイシア、ルオン」
「どうしたの?」
「なんだ?」
「アーリアとルーテを連れて、先にお城の方に行ってくれないか?私も後で行く。状況説明を頼みたい」
「分かったわ。無理しちゃダメよ!」
「…あぁ」
「絶対分かってないだろ!」
「ケガしたらただじゃおきませんからね!」
「なんかお前の仲間、言ってることおかしくねぇか?特にあの金髪の女の子。ケガさせたら、だったら分かるけどよ。妹?」
「娘だ。いつものことなんだ」
「ハク様が無茶するのが悪いんですー!」
「…お前、日頃から何やってんだよ」
「まあ…色々」
「それ聞くの怖えーなぁ…」
「聞かないでくれ…」
グレイシアたちがお城に向かったのを見て、ハクはデュネルに向き直った。
「さてと…で、本当に手合わせするのか?私は全く乗り気ではないのだが」
「やるやる!オレはめちゃくちゃ乗り気だぜ!」
「はぁ…仕方あるまい」
ハクはやる気なさげに刀を抜いた。
青銀色の光がほとばしる。
「先に言っておく。私がこの刀を君に向けるのは、受け流すか跳ね返すか、それか本当に危険だと判断した時だけだ。それでも、手合わせするのだな?」
「おう!」
「なら、来い」
シュン!!
ハクの言葉が言い終わるか終わらないかのところで、デュネルのサーベルが宙を切った。
ついさっきまで目の前にいたはずのハクが、いつの間にかデュネルの真後ろに移動している。
「っ!」
すぐさま体の向きを変えて切りかかってきたデュネルのサーベルを右に左によけながら、ハクは内心ため息をついた。
(全く、こちらは体がしんどいというのに。あぁー、眠い…)
ハクは疲れるとマイペースになる。
ふにゃふにゃとした動きで攻撃を避けながら、ハクはサーベルを踏み台にして宙に舞い上がった。
「っ!!??」
「もうやめにしないか?こっちは一週間の徹夜明けなんだ」
クルリと宙返りを決め、ハクは少し離れたところで着地した。
「スキあり!」
「そう簡単に見せてやれるか」
正面からの突きを沿ってよけ、あり得ない体勢からまた体勢を立て直した。
「ほんとすばしっこいなぁ!なんであの体勢から立て直せるんだよ。前世ピエロか忍者だったんじゃねえの?」
「どうだかなぁ…」
ハクは退屈そうだ。
…その、ほんの一瞬のスキをデュネルは突いた。
「おりゃぁ!」
「っ!」
ハクが刀で受け流そうとするも、受け流しきれなかった。
シュッ!
サーベルの切っ先が、ハクの額の包帯をかする。
ハラリと、包帯が切れてバラバラになった。
「…」
「!お前…どっかで見たことあるな…」
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