『お嬢様とメイドの成り上がりギャンブル生活』
EsKA
第1話 わたくしは『レイカ・クロッツェルよ』
「お嬢様、そろそろ到着です」
クロエ・ファルマは冷静な声で馬車の中の令嬢に告げた。その声には微かな諦めが滲んでいる。
「はぁ…、田舎暮らしとやらを満喫しろというのね。なんて可哀想なのかしら」
金髪をくるくると指で巻きながら、レイカ・クロッツェルは不満げに呟く。彼女の目の前には、これから彼女が暮らすことになる屋敷が見えてきていた。
――屋敷と呼ぶのも躊躇われるような、古びた小さい二階建ての建物。周囲には草原と森が広がり、道行く人影すらない。
「な、なによこれ! これがこれから住む屋敷だっていうの?」
「お言葉ですがお嬢様、今の状況を考えれば御の字です。少なくとも雨風はしのげます」
クロエは冷静に言い放つが、その口元には少しだけ笑みが浮かんでいた。
レイカが追い出された時を思い出したのだろう。
笑いを堪えプルプルと小刻みに震えている。
「では、入りましょうかお嬢様」
2人は屋敷に入ると、周りを見渡す。
外からの見た目通り、家具は埃をかぶり、窓から差し込む陽光がかろうじて室内を照らしている。
レイカは腰に手を当てて天井を見上げ、大袈裟に嘆いた。
「こんな場所に送り込むなんて、お父様もお母様も酷い仕打ちをするものね! 反省させるつもりでしょうが残念ね、わたくしはこんなことで反省はしないわ!」
「立派な決意でございます。では、お嬢様、まずは掃除から始めましょう。」
「……掃除?」
クロエの一言に、レイカは驚愕の表情を浮かべた。
「冗談でしょう、クロエ。掃除なんて使用人のすることでしょう?」
「お嬢様、他に誰がいらっしゃると?」
「え?」
「こちらには、私たち二人以外誰もおりません。掃除も炊事も洗濯も、全て私たちの手で行う必要があります」
「そ、そんな! わたくしにそんなことをさせるなんて、絶対に無理よ!」
「では、埃の中で暮らしますか?」
「くっ……!やればいいんでしょ!やれば!!」
そうして、半ば泣きそうな顔で掃除を始めたレイカだったが、途中でほうきを放り出し、椅子に座り込んでしまった。
「やっぱり無理! こんなことしてたら体力が尽きちゃう!」
「では、掃除を賭けて勝負なさいますか?」
「勝負?」
クロエの提案にレイカの瞳が輝いた。
「良いわ! わたくしが勝ったら掃除は全部あなたに任せるわ!」
「ですが、私が勝った場合、お嬢様だけ掃除を続けていただきます」
「受けて立つわ!」
こうして、二人の最初の勝負が始まった。
「では、こちらの古いチェスセットを使います。シンプルに、お嬢様がチェックメイトできればお嬢様の勝ちです」
「いいわね! わたくしの腕前を見せてあげる!」
クロエはゲームの途中でわざと隙を見せつつも、最後の局面で華麗にレイカを追い詰めた。
「ちょ、ちょっと! クロエ、あなた本気出しすぎじゃないの?」
「お嬢様、勝負事において全力を尽くさないのは礼儀に反します」
「ううっ、覚えてなさい!」
結果、初戦はクロエの勝利。
レイカは再び掃除用具を手に取る羽目になった。
「クロエぇ…」
涙目になりクロエを見つめるレイカ。
「はぁ…、仕方ないですね。さっさと終わらせますよ、お嬢様」
「流石クロエ!愛してるわ!!」
「はいはい」
2人は時間が掛かったが、
寝室ぐらいは片付けボロボロのベッドで一緒に横になった。
その日の夜、ベッドに横たわるレイカは天井を見つめながら呟いた。
「こんな生活じゃ辛いし、つまらないわ……。」
「では、いかがなさいます?」
「私、この田舎から家族を見返してやるわ。そして、新しい人生を築いてみせるの!」
「具体的には?資金も何もかも無いのに」
「そうね……うーん」
レイカはニヤリとクロエを見てこう言った。
「なければ手に入れる。欲しければ奪えばいいわ!」
クロエは一瞬驚いたが、少し微笑みを浮かべながら答えた。
「お嬢様らしいお考えです。では、私も仕方ないのでお手伝いさせていただきます」
「仕方ないってなによ!」
「仕方ないのは仕方ないです。それ以上でも以下でもありません」
苦々しい顔をしたレイカだったが
「わたしくしはレイカ・クロッツェル。全てを手に入れてやるわ!」
そう宣言し眠りについた。
こうして、レイカとクロエの成り上がりギャンブル生活が幕を開けた――。
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