第34話 因果応報




ガチャッ



玄関のドアが開く音がして…

春香がリビングから、パタパタと玄関に駆けていった。


私も立ち上がって、春香に続くように付いていく。



「パパぁ〜、おかえりなさーい!」



「・・ああ、春香…それに涼香、ただいま。」


「あなた、おかえりなさい。仕事、大変だったわね。お疲れ…様……?」


「あぁ・・・うん…」



・・・・


帰ってきた春人を見て・・・違和感を覚えた…



あれっ・・・?


直後…頭の中で・・・

私が春人を裏切っていた時の自分が…

今の春人の姿と重なって・・・


そして…私は・・・

いきなり鈍器で頭を殴られたように…



私もこんな感じだったのだろうか・・・?



嘘でしょ・・・


頭に浮かんだ自分自身の姿に吐き気を催しながら…


春人は…私とは違うって・・・祈りながら…



ゆっくり…春人に近づいて・・・


鞄を受け取る時・・・春人から…


ーーーーーーーーー違う女の匂いがした…




「・・・ねぇ、あなた…?お夕飯は…これから作るけど…先にシャワー浴びちゃう?」



「あっ…ああ・・・、そうするよ…。」



トクッ…トクッ…トクッ…トクッ…・・・


溢れそうになる感情を…


下唇を噛んで…必死に抑える・・・



「じゃあ・・・私は春香と一緒に夕飯を作っちゃうわねっ。今日は春香が食べたいってくれたから、オムライスなんだけど・・・いい?」


「ああ・・・もちろん良いよ。じゃあ…シャワー浴びてきちゃうね。」



そう言って春人は…スーツを脱いで、浴室に向かっていった。


カチャッとハンガーにかけられたスーツ…


そっと近づいて…


もう一度確かめて・・・



ドクンッ・・・




恐怖と絶望に…心臓をギューッと掴まれた気がした・・・


あぁあ゛あぁぁぁぁぁあっ・・・


私は…本当に…馬鹿だ・・・

春人が・・・他の女に…なんてっ・・・


考えても…いなかった・・・


トクトクトクと早鐘を打つ心臓の鼓動が鳴り止まない・・・


どうしよう・・・どうしよう・・・



「ねっ、ママ…?」


春香の声にハッとなり、我に返った。



「!?春香…、あぁ…どうしたの…?」



「あれ、パパにありがとうって、言わなくてもいいの…?」


今…それを言ってしまったら・・・


その言葉を聞いた時の春人の顔を想像して…

自身の記憶が甦って。


背中を這い上がるように悪寒が走った…




「あっ…うっ、うん・・・それは…また今度にしよっか?じゃっ…じゃあ、オムライスを…作るお手伝いしてくれる?」


震えそうになる声を…必死に誤魔化して…

私がそう言うと、



「そうなの?でも…うんっ、分かった。じゃあ、パパに美味しいの作ってあげようねっ。」


春香は首を傾げながらも、頷いてくれた。



「そっ、そうねっ。頑張って…美味しいの作ってあげようねっ・・・」




もう・・・今すぐにでも泣き出したかった…


目の前で…

今すぐにでも崩れてしまいそうな日常・・・


胸の奥に沸き上がる感情に・・・


悲しみと恐怖と自責の念に押し潰されそうになる・・・


きっと・・・全部…全部…私の所為だ・・・



今さっき・・・春人が帰ってくる前に…

決意したばかりの思いが…揺らいでしまいそうになって・・・


もう一度…春香の顔を見て・・・




「じゃあ…ママと一緒に作りましょっ。」



ぐっ…と、在らん限りの力で目一杯…自分の手を握り締めた。


駄目…駄目…絶対に諦めちゃ・・・ダメ…





春香の後ろに立って、一緒に菜箸で卵を溶きながら・・・


自分に出来るコトを必死に考え続ける…



「ねー、ママ。」



自分に・・・何が・・・



「ねー、ママってばっ!」


「えっ、ああ。春香、ごめんね、どうしたの?」


「卵、まだかき混ぜるの〜?」


「あっ⁉︎もっ、もういいかな。ごめんね。」


「なんか…ママ、元気ない?」



春香に…もう・・・悲しい想いは…



「ううん、…大丈夫よっ。春香…愛しているわ・・・」



その言葉と共に…春香を、後ろから手を回して・・・


春人に自分の過ちを告白した…

あの時の願いと共に・・・


ゆっくりと抱き締めた。





春人がちゃんと私達の元に…帰って来てくれるなら・・・


他には何もいらないから・・・





そう願いながら…



どれだけ考えても・・・


自分に出来るコトが何も無いコトに・・・



自分の身を心底…呪った・・・

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