ぎんなん

 なんだか香ばしい匂いがする。フライパンで何か焼いている?私が帰ってくると、おばあちゃんが真剣にフライパンを振っていた。


「おばあちゃん、なにしてるの?」


 学校から帰ってきた私の方を見る余裕すらないのか、フライパンに向かっている。


 祖母がフライパンを振るたびにカラカラと良い音が響いていた。


「〇〇さんからもらった銀杏を炒っているんだよ。できたら食べていいよ」


「うわぁ!私、銀杏大好き!」


「でも銀杏は食べすぎたら芽が出るから、ほどほどにしとかな?」


「何個まで?どのくらいまで食べていいの?」


「何個と言われたら難しいけど、食べすぎたらよくないって聞くわ。特に子どもはだめや」


 なるほどと思いつつ、私は銀杏の硬い殻を手でパキッと割った。なかから、黄緑がかった黄色の実がでてくる。口にいれるとモチッとした触感と独特の香りがした。


 銀杏は食べ始めると、その癖のある味についついもう一つだけともう一つだけと手が伸びて、やめられなくなってしまう。祖母が私がもくもくと食べているのを見て、そろそろやめなさいと止めた。放っておけばモクモクと大量に食べるだろうと危機を感じたらしい。私はまだ食べたかったが、祖母が言う通り、体に悪くて後から困ったことになるのは嫌だなと思い、我慢した。


「家に銀杏の木はないの?」


「うちの山にあるわ。そこまで歩いていかなきゃいけないけどね」


「いってみたい!」


 食い意地のはった私はたくさん拾ってきて食べてやろうと目論んだ。


「じゃあ、じいちゃんと行っておいで」


 私は意気揚々と祖父とでかけた。山へ入っていった。


「これが銀杏の木だ」


「よーし!とるぞー!」


 私が意気込むと、祖父は難色を示した。


「まて!じいちゃんがとる!おまえは触るな。銀杏は触ると臭い!ほら、そこにあるやつ匂い嗅いでみ!?」


 私を制止されたので、とりあえず銀杏の匂いを嗅ぐ。


 ……。


 …………。


 …………………銀杏はテロ植物だと思う。


 私は拾えないまま帰る。祖父は可愛い孫に臭い思いをさせたくなかったのか、拾いながらも時々、私が触っていないか確認して『触るなよ!?触ってないよな!?』と終始言っていた。


「どうだった?」


 帰るとおばあちゃんが結果を聞きたくて面白そうな顔をして私を待っていた。


「おじいちゃんが手が臭くなるから拾うなって……あんなに臭いなんて思わなかった!」


 そうだろ?そうだろと笑っていた。祖母が祖父に触らせないようにと厳命していたのかもとこの時気づく。


 あんなにおいしいのに、たくさん食べれないし、拾うのは臭いし、銀杏って大変な食べ物だと小さい頃の私は認識したのだった。


 今は日本酒のつまみに炒った銀杏を食べるのが最高だと思う。時々、売られている綺麗にされた殻付き銀杏を買ってフライパンで炒っている。でも芽が出るぞ!と言われたことを思いだし食べすぎないようにしている。今も祖母との約束を守る私なのだった。

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