相談業務

 ――ですよね、先生?


 相談者は、前のめりで 同意を求めてくる。

 相談員であるDr.ドクターは、否定することなく、うなずいた。


『帰りたい』


 内心は、そう思いながら。


 今日の相談は、目の前にいる相談者が最後である。

 予約枠は、すべて埋まっていた。

 この相談が終わったら、今日受けた相談について 報告書を上げなければいけない。 

 相談記録とは別に。

 

 相談内容についてのすべてを報告書に記載するわけにはいかない。

 相談者の個人的な相談内容については、「解決済」として、詳細を省こう。

 個人が個人を攻撃するような内容は、書かない。たとえ、さんざん愚痴を聞かされたとしても。

 組織として 業務が円滑に回るように 控えめに改善策を提案することはあるとしても。


 個人の健康、特にメンタルを守りつつ、

 組織として不利益にならないような対処を求められる。

 なんとも骨の折れる仕事だ。


 それでも、Dr.は 忍耐強く 相談業務に従事している。

 それが、Dr.の仕事だから。



 仕事を終えれば、解放される。

 白衣を脱げば、Dr.医者も ただの人だ。


 曇り空のように 晴れない心に、

 淹れたての珈琲コーヒーが 薔薇ばら色の香りを運ぶ、

 その くつろぎのひと時を待ちながら。


 

 終了時刻を告げるタイマーを見つめた。








 






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