第四十三話・大好き~!
「じゃあ、まずは美樹ちゃんのお色直しからだね」
「ほれほれ、男どもは外へ出るんじゃわいな」
徳大寺が用意した、衣装という名の装備への着替えを始める美樹。
男性陣は小屋の外で待機する。
「ダンさん。少しお伺いしたいことがございます」
「何でしょうか」
「真田さんとの勝負の際、どうやってドリンクを飲んだのですか?」
「そうだよねぇ。顔が無いと食事もできないよねぇ」
「その疑問は最もであるな。実は、目には見えぬが感触はあるのだ」
「感触ですか?」
「我輩にもよく解らぬのだが、見えぬだけで体は存在しているようなのだ」
「ちょっと理解に苦しみますな」
「透明人間みたいな感じなのかなぁ」
兜を取り、顔の辺りに手を当てるダンさん。
「触れようとしても触れられぬ。透明と言う概念とは違うようだ」
「本人に解らないものは考えても仕方ありませんね。私には皆目見当も付きませんしね」
「徳大寺さんが解らないのに、僕に解るわけないよねぇ」
浮かぬ顔の二人。
とりあえず兜を被るダンさん。
それを見て徳大寺が提案する。
「それはそれとして、その鎧をどうにかしませんか?」
「どうにか、とは?」
「黒騎士というのもカッコいいのですが、どうしても悪役的な雰囲気が出てしまいます」
「そうだねぇ。カッコいいけどねぇ」
「そこで、試させてもらいたいんです」
「何をだ?」
「白騎士にできるかどうかを」
「よく解らぬが、今後に必要とあらば構わぬ」
「それでは、失礼しますよ」
ダンさんの両腕に触れる徳大寺。
徳大寺の手が輝き、ダンさんの体を光が包んでゆく。
輝きが消えたあとには、先程と変わらぬ黒騎士ダンさんが立っていた。
「ふむ。厄災が作りだした物には、私の技が通用しないようですね」
「そうなんだぁ」
「隆之くん。プラモは作る方かね?」
「作りますよぉ。ちゃんと塗装もするよぉ」
「結構結構。では――」
隆之に耳打ちする徳大寺。
振り向いてダンさんを見る二人。
「ダンさん、ちょっと宜しいかな」
「如何した」
「やっぱり黒騎士よりもぉ、正義の騎士って感じがいいと思うんだぁ」
「という訳で、塗ります」
「なに?」
「隆之くん! 開始だ!」
「了解ですぅ」
「うぉ?!」
ダンさんを取り囲み塗装を始める二人。
徳大寺特製コンプレッサーとエアブラシで瞬く間に塗り上げていく。
「完成です!」
「カッコいいよぉ」
「こ、これは……」
白、赤、青で塗り上げられた鎧。
見事なトリコロールカラーで、正義の騎士に相応しい装いとなった。
「白騎士というより、某アニメのようになりましたな」
「悪くはないな。気に入った!」
三人が盛り上がるなか、小屋から舞衣の声が飛んできた。
「みんな~終わったわよ~」
「おぉ、それでは新装ミキを拝見させていただこう」
「きっとお気に召していただけるかと」
小屋に入ると、美樹が恥ずかしそうに立っていた。
「あ、あの、どうかな?」
「ミキによく似合っておる」
「森の狩人って感じだねぇ」
「その通り! 緑を基調とした革製鎧に、白のマントに白のインナー! イメージはエルフの狩人!」
「徳大寺さんの趣味ってことですね」
呆れ顔の舞衣の隣で、美樹が嬉しそうに頬を赤らめていた。
「これで準備できたわね。と言うことで、魔の国へ正式なご挨拶しに行きましょ」
美樹とダンさん、そしてドンちゃんたちを加えた新生ヒノモトブシ。
総勢九名と十一匹が門前に並んだ。
「勝手に入っていいのかしら」
「大丈夫じゃろ。わたしとシェルの仲じゃ」
「サラのせいで毎回ヒドい目にあってるから、信用できないのよね」
「ぐっ、それについては否定できないんじゃ……」
ドンちゃんと翼竜たちを門前に残し、サラを先頭に魔の国へ入国するヒノモトブシ。
「ほぉ~美味しそうな匂いがするわいな」
「本当ですわね。どれからお食べになります?」
「トミさん、ハナさん、食事は後ですよ」
舞衣に止められションボリする二人。
「隆之くん! エルフだけではないのだな!」
「人族や獣人族も居るんですねぇ」
「よし! 魔法少女を探しに――」
「徳大寺さん、行きますよ」
舞衣に冷たく言い放たれ、後ろ髪引かれながら歩く徳大寺。
「まったく、みんな緊張感無さすぎなのよ」
「マイちゃん。大変なんだね」
「解ってくれるのは美樹ちゃんだけね」
都会に出てきた田舎者。
そんなヒノモトブシ一行が城に辿り着く。
「ようこそ我が城へ。さあ、どうぞこちらへ」
「シェル自らのお出迎えか」
「えぇ。サラたちへの感謝を示したくて」
「そういうとこは昔と変わらんのじゃな」
「サラも変わりませんね」
「昔からポンコツだったの?」
「だぁ~れがポンコツじゃ!」
周りを見渡す舞衣。
「サラ以外誰が居るのよ」
「マイがおるじゃろが」
互いから放たれた視線がぶつかり火花を散らす。
「あらあら、サラにも心許せるご友人ができたのですね」
「心許せる友人? 私がですか?」
「えぇ。こんなに楽しそうなサラは他では拝見できませんもの」
舞衣から目を背けるサラ。
「へぇ~、サラは私に心許してるんだぁ~」
「ん、んな訳あるかー! シェル! 余計なこと言うな!」
「ふふふっ。大好きな友人のために、私へアレを頼んできたのでしょ?」
「べ、別にそんなんじゃ……前に約束したから仕方なくじゃ」
「アレってなに?」
「マイさんだけ魔法がお使いになれないそうですね」
頭を掻きながら天井を見上げる舞衣。
「前に、祠の水晶の話したじゃろ」
「あぁ! 適性を見るとかっていうやつ!」
「それと同じ物がここにあるから、使わせてほしいとシェルに――」
「サラ~! 大好き~!」
「や、やめんか! 抱きつくな! 離れるんじゃー!」
「ふふっ。本当に仲がよろしいのですね」
シェルは戯れる二人を温かく見守っていた。
【美樹とダンさんのお色直しが完了した】
【サラは舞衣のことが大好きらしい】
【舞衣に魔法の適性があるかどうか解りそうである】
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