第三十二話・おかしいでしょ!

「ほほぉ。これはまた面妖な」


「我が闇空間へようこそ」



 黒騎士の手により、黒い霧に覆われた空間が出来上がっていた。


 真田はその光景に驚くこと無く構えていた。



「撮影の時は緑に覆われておったな。あれはあれで気に食わなんだが、黒に覆われておるのは、それ以上に気に食わん!」



 次の瞬間、真田が黒騎士に仕掛ける。


 先程の猛攻を再現すべく朱雀を振るうが、体が重く、素早い動きで朱雀を振るう事ができない。


 そんな真田の攻撃を、片手で捌く黒騎士。



「ふははははっ! 所詮、武士とはその程度か!」


「正々堂々とは、このような事を言うのか?」


「持てる力のすべてを使って戦う。それも正々堂々だ!」


「あいわかった。しからば、こちらも全力でお相手いたそう……」



 するどい目つきで黒騎士を見る真田。



「それは楽しみであるな。闇霧が纏わりつくことによって、我より早く動く事は不可能。さて、どうする!」


「こうする!」


「な、なんだ?!」



 朱雀が光り輝き始め、その光が真田の手を伝わり全身に広がってゆく。


 その光によって、黒霧が真田から引き剥がされていった。


 黒霧が再び真田に纏わりつこうとするが、光に弾かれ近づくことさえ出来ない。



「いざ!」


「小癪な!」



 激しく打ち合う金属音のみが舞依たちに聞こえる。


 舞依たちには、黒い霧により中の様子が確認できない。



「徳大寺さん。真田さん、大丈夫ですかね」


「隆之くんの防御シールドも施してありますし、問題はないでしょう」



 ドローンを使って黒い霧の排除を試みたが、外部からの影響を受けないことが分かっただけである。


 舞依たちは、真田を信じて待つしか無かった。


 その真田は、黒騎士との戦闘を楽しんでいた。



「どうした黒騎士! そんなものか!」


「くっ……何なんだ、あの光は……黒霧が通用せんのか……」


「ほれほれ! どうしたどうした! 所詮、騎士とはその程度か!」



 黒霧の呪縛から解き放たれた真田が、黒騎士へ猛攻をかける。


 朱雀の光を身に纏った以外は一切技を使わず、おのれの剣技のみで攻め続ける。


 上下左右から降り注ぐ真田の剣撃を、防ぐだけで精一杯の黒騎士がジリジリと後退する。



「これほど強いとは……こうなったら!」



 二人を包み込んでいた霧が、今度は黒騎士の鎧を包み込んだ。



「これで貴様の攻撃は我に届かん! さあ! どうする!」


「もっと楽しめると思うたんじゃがな」


「来ないなら、こっちから行くぞ!」



 黒霧を全身と剣に纏わせ突進する黒騎士。


 朱雀を中段に構える真田。



「我が秘技! 受けてみよ!」


「舞え! 朱雀!」



 突進する黒騎士に合わせ、掛け声とともに朱雀を左右に振る真田。


 朱雀から、多数の鳥に似た光が、黒騎士目掛けて飛んでいく。


 その光は、霧を無視して黒騎士に次々と斬撃を浴びせていく。


 真田は、振り終えた朱雀を鞘に戻し、膝を着いた黒騎士を見据える。



「がはっ!」


「鎧兜を着るまでも無かったの」


「まだ終わってはおらん!」



 立ち上がり、剣を構える黒騎士。


 腰を落とし、朱雀に手をかける真田。


 黒騎士が剣を上段に構え突進する。


 その剣が振り下ろされる瞬間、真田の居合いで朱雀が輝く。


 黒騎士が前のめりに倒れ、二人を包んでいた黒霧が消滅する。


 それと同時に、真田が膝を着く。



「霧が晴れたみたいですね……真田さん!」



 舞依の目に映ったのは、膝を着き、朱雀で体を支える真田であった。


 慌てて駆け寄る舞依たち。



「貴之くん! トミさん起こしてきて!」


「真田さん。大丈夫ですかな? この鎧に貴之くんのシールドがあれば、斬られる事などないはずなんですが……」


「真田さん! しっかりして!」



 呻き声とともに、真田の小さな声が聞こえてきた。



「うっ……こ、腰が……」


「え?」


「徳大寺に作ってもろたサポーターを着け忘れておった……」


「腰? 斬られた訳じゃないのね?」


「うむ。斬られてはおらん」


「びっくりさせないでよ!」


「すまんのぉ……」



 真田の無事を確認して安堵する舞依。


 その後ろで、黒騎士がゆっくりと立ち上がる。

 


「今日の所はこれで引き揚げよう」


「ちょっとあんた! 負けたんだから一つくらい言う事聞きなさいよ!」


「むっ、承知した……敗者として、一つ聞いてやろう」


「何で上からなのよ。まぁいいわ。ダリルがど――」


「ならば! 強くなって帰ってこい! もう一度勝負じゃ!」


「さ、真田さん……ここはダリルの居場所を――」


「承知した! 今度は貴様に勝つ!」


「ちょ、ちょっとー!」


「舞依さん。ちょっといいですか?」


「なんですか徳大寺さん!」


「見たところ、彼は徒歩で来たのではないですか? テレポートなど使えないでしょうしね。ですから、後をつければよろしいかと」


「なるほど! さすが徳大寺さん!」


「では、これで失礼する。また会おう! ヒノモトブシよ!」



 颯爽と去っていく黒騎士。


 舞依たちが後をつけようと歩き出すと、黒騎士が草むらへと入っていく。



「見失っちゃう!」



 走り出した舞依。


 そこへ黒騎士が飛び出して来た。


 バイクに乗って。



「楽しかったぞヒノモトブシ!」



 一言残して走り去っていく黒騎士。



「何であんな物があるのよ! おかしいでしょ!」


「あれは日本のメーカーのようでしたな。何故あんなものがこの世界に……」


 【真田が持病の腰痛を再発させた】

 【黒騎士が日本製のバイクに乗っていた】

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