第二十七話・何言ってんのよ!

「さて、仕切り直しですな」


「どうするんですか? サラにどんどん解体してもらうとか?」


「今度は警戒されるでしょうから、別の作戦で行きます。ハナさん! ドラゴンの口目掛けて怪獣の冷たい息を!」


「こんな感じかしら? ほい!」

 

 

 ハナさんの掛け声とともに、氷怪獣が白くキラキラした息を吹き付ける。


 ドラゴンがそれに対応するように炎を吹き出す。


 互いの中央でぶつかり合う氷と炎。



「真田さん! 今です! ドラゴンの尾を!」


「あいわかった!」



 白虎を走らせドラゴンの尾に迫る真田。


 氷怪獣と対峙しているドラゴンは、迫りくる真田に気付く様子がない。



「斬り裂け! 朱雀!」



 上段に構えた朱雀が輝く。その輝きで、朱雀の刀身が一回り大きく見える。


 白虎の速度を落とすこと無く尾の下を通り過ぎる。と同時に朱雀を振り下ろす真田。



「浅かったか……」



 速度を落とさずUターンしてドラゴンを見る真田。


 ドラゴンの尾は、斬り落とされずに存在していた。


 しかし、朱雀による攻撃で、尾の直径の半分ほどを斬ることに成功していた。



「ならば、今一度!」



 そう言ってドラゴンへ向かっていく真田。


 さすがに、尾を斬られて気づかないドラゴンではない。


 半分斬られている尾を、真田を排除すべく振り回した。



「徳大寺! これでは近づけぬぞ!」


「警戒する対象を増やしましょう。隆之くん。バックパックのミサイルで牽制をお願いします」


「わ、わかりましたぁ」


「サラさんは、ドラゴンに見えるよう周りを飛んでください。あまり近づかなくていいですよ」


「よし! 活躍できないポンコツの代わりに行ってくるのじゃ!」


「サラ、これが終わったらスペシャルなご褒美上げるわ」



 隆之の鎧から小型のミサイルが飛んでゆく。


 予想通り、ドラゴンには全く効き目がない。それでも、注意を引くことには成功した。


 サラは、ドラゴンの視界に入るように飛び回った。


 翼を切り刻んだ小さい奴を、恨めしそうな視線で追いかけるドラゴン。


 徳大寺の作戦通りに注意を引くことには成功したが、尾の動きは全く止まらない。


 さらに、氷怪獣に限界が見え始めていた。ドラゴンの炎により、少しづつ溶けていく。



「尾が止まりませんな」


「膠着状態ですね」


「ハナさん。マグロのニュースを観たことありますか?」


「カチカチに凍ったマグロさんがニュースになってるわね」


「そう、それです。ドラゴンをあんな感じにお願いします」


「あら、あんな大きいの凍るのかしらね。まあ、やってみましょうか。ほい!」



 ハナさんの魔法で、ドラゴンが白くなっていく。


 しかし、数秒も持たずに元の姿に戻ってしまった。



「あら、ごめんなさいね。上手くできないみたいだわ」


「では、尾の根本だけで試してもらえますか?」


「やってみますわね。ほい!」



 先程よりも白くなる尾の根本。


 真田が斬った切り口は、まさに冷凍されたマグロのテール部分のようになっていた。


 根本が冷凍状態になったドラゴンの尾は、ピタリと動かなくなった。



「真田さん! どうぞ!」


「かたじけない!」



 先程斬り付けた部分に向かって白虎を走らせる。


 尾に近づいた真田は白虎を停めて降りる。


 尾の下まで歩いてきた真田が、朱雀を上段に構える。



「参ろうか、朱雀! 一刀両断!」



 振り下ろす朱雀は、豪炎の如き炎を纏わせていた。


 白虎を降りて下半身の自由を取り戻した真田。素早く、力強く朱雀を振り下ろす。


 次の瞬間、尾はドラゴンの身体を離れて地面に落ちた。


 尾が無くなった事により、重心が一気に変化したドラゴンが前のめりに倒れる。


 そのドラゴンに覆い被さるように、氷怪獣がボディプレスを披露する。


 氷怪獣のボディプレスにより、口を開くことが出来なくなったドラゴン。


 左の翼を失い、尾を失い、口を塞がれたドラゴンには、戦う術は残っていなかった。



「これで獣の国も安泰であるな」


「終わりましたの? 私みたいなお婆ちゃんでもお役に立てて良かったわ」


「隆之くん! この鎖でドラゴンの口を縛っておいてください」


「わかりましたぁ」


「さてと、おバカさんに連絡しないとね」



 指輪に手をかざして目を閉じる舞依。


 舞依が目を閉じてすぐ、空間に例の画面が浮かび上がってきた。


 その画面は真っ白に曇っており、何も見えなかった。


 何も見えなかったが、エコーのかかった鼻歌が聞こえていた。



「ちょっとあんた。何してんのよ」


『うぉっ! な、なんだ!』



 徐々に曇りが取れていき、小さな露天風呂らしきものが見えてきた。


 

「こんな時にお風呂ですか。呑気で羨ましいわね」


『ちょ、な、やめろ! 映すな!』



 顔と身体を隠しながら画面外へ出ていくダリル。


 しばらくすると、仮面を被り、浴衣を羽織って画面に戻ってきた。



『どう言う神経しとるのだ! 失礼にも程があるわ!』


「前も言ったけど。あんたが何してるかなんて知らないのよ」


『おのれ……。まあ良い。それで、何の用だ』


「あんたが送り込んだドラゴン、引き取りに来なさいよ!」


『ふん。さすがにドラゴン相手では降参するしかないようだな』


「何言ってんのよ! もう動けなくなってるから、早く持って帰って。邪魔なのよ」


『はぁあぁ!? た、倒したのか……』


「転がってるわよ」



 ドラゴンが映るように指輪を動かす舞依。


 それを見て愕然とするダリル。



『ま、まぁ、一番下っ端の部下だからな! それくらいで良い気になるなよ!』


「ふ〜ん。一番下っ端ね〜。まあ、何でもいいから引き取りに来て」


『おのれ〜。おいっ、翼竜隊! うちのドンちゃん救出してこい!』


「ドンちゃんって……」


『ドンちゃんの借りは必ず返すからな! 湯冷めするからもう切る!』


「あっ、切りやがったわね」



 しばらくして、十頭の翼竜が大きな布を持って飛来した。


 その布にドラゴンのドンちゃんを包むと、それぞれがロープを首にかけ、苦しそうに飛び立っていった。



「隆之くん。ダリルの発言で、引っかかる所は無かったかね」


「舞依ちゃんとのやり取りでぇ、この世界ではあり得ない発言がありましたねぇ」


 【ヒノモトブシはドラゴンのドンちゃんを退けた】

 【隆之と徳大寺がダリルについて何かに気付いた】

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