第4話
そんな顔をしてほしくない。
リアムの憐れみも、国王の失望も、ティリアの落胆も受け入れたくなかった。
そんな思いが俺の中でこみ上げ、強く膨れ上がっていく。
眼前に突き付けられた切っ先を睨む。
「勝負ありですね。筋は悪くないでしょう。これから鍛えれば十分見込みは───」
「まだだ」
俺のその言葉にリアムが睨む。
往生際が悪い。
その目はそう言っているかのようだった。
俺の中に湧いた何かが”熱”を強くしていく。
それはエネルギーに変わり、そして俺は瞬時にスキルを取得した。
それは【戦士】のスキルツリーの派生の一つ。
【剣技】スキルを。
剣の重さも忘れた俺が切っ先を躱しながら勢い良く立ち上がると、リアムはその顔を驚愕に変えた。
「!?」
その気持ちの良い表情を自分の脳内メモリに保尊しながら、俺が剣を振るう。
守る事しかできなかった俺からは考えられないような剣速に、リアムの反応が僅かに遅れる。
しかし、俺の剣がリアムに届く前に、首を大きく動かしてそれをリアムが躱す。
予想外の攻撃に満足いく回避行動に移れなかったリアムの態勢が大きく崩れたのを俺は理解した。
戦闘知能を手に入れた俺の判断は早い。
剣の間合いを潰すように体をねじ込む俺に、リアムが目を見開いたのは見て取れた。
それは俺の動きが最善手であることを如実に物語っていた。
その体勢からは十分に剣を振るう事は出来ず、俺の侵入を許す。
即座に身体を半ば強引に動かしたため、俺も十分に剣を振るえる態勢ではないが、それでも隙を突いて攻撃の姿勢を取っている俺の方が有利。
俺はリアムに向かって勢いよくタックルを決めた。
「!?」
「驚いたよ。まさかここまでやるとは始めは思っていなかった。侮った事を謝罪しよう」
「は?」
俺が全力でリアムの鳩尾を目がけて肩を入れたというのに、当の本人はぴんぴんしていた。
痛がる様子どころか、倒れる事すらなく。
まるで、大木のような感触に俺はようやく敗北を受け入れた。
◆
スキルを手に入れても、どうやらすぐに強くなれるという事ではないらしい。
それでもこの成長速度を考えれば十分にチートだ。
「リアムはこの国で最も強い騎士ですから、そう気を落とさないでください」
ティリアがそう俺に優しく声を掛けてくれた。
優しさを見せてくれるティリアではあるが、他の者はそうはいかないようだ。
勝負に負け、リアムを見上げる俺に、それを見ていた周囲の人間がひそひそと話しているのを俺は聞いていた。
思い出されるその言葉に俺は歯を食いしばる。
───こんな者が勇者で大丈夫なのか?
───いくら王国最強のリアム殿が相手だとは言え、これはあまりにも
───人類の存亡をこんな奴に預けるのか
フラッシュバックされた言葉に怒りが湧いてくる。
そちらから呼んでおいて、いきなり人を試して、そしてそれに負ければ好き放題と。
俺はとんでもない所に来てしまったと嘆きたくなった。
あの白い影の奴、絶対許さない。
俺は与えられた粗末な一室で理不尽に打ちのめされているところを、ティリアは必死になって言葉を紡いで慰めてくれている。
「ありがとう。ティリア」
俺の言葉にティリアは笑顔を作って応えてくれた。
「焦る必要はございません。ゆっくりと強くなればそれでいいのです」
心地よいそのティリアの言葉に俺の荒んだ心が落ち着きを取り戻す。
「ゆっくりなんてしていられない。俺はあいつらを見返すためにもっと早く強くなるんだ」
「早く……?」
「あぁ。なんせ俺には神から貰ったチートスキルがあるからな!」
俺の才能がそのスキルの受け入れを可能とした、あの神だったらしいあの白い影の男から貰ったチート能力。
俺はさっきの戦いで確信していた。
俺ももっと強くなれる。
それも飛び切りに早く。
「チート……ですか?」
はて?とほっぺたに指をあてて可愛らしく首を傾げるティリア。
俺はあっちの世界の言葉が通じるわけがないかと苦笑した。
「神様から貰った特別な力だよ。その力があれば、今まで戦いとは無縁だった俺でもあのリアムを越えられる!」
「……」
彼女は応えない。
不思議に思い、振り向くと彼女が微笑みを俺に向けてくれた。
「それは素晴らしい事です。流石は勇者様でございます。その時を私はお待ちしております」
「あぁ。すぐに強くなってリアムにリベンジして見せる。あのいけ好かない顔にほえ面かかせてやる!」
「頼もしいです勇者様」
強くなれば、俺に陰口を叩いていたあいつらも手のひらを返すだろう。
あの国王も俺への待遇が間違っていた事を突き付けてやる。
そしてあのイケメン騎士を負かせて、俺が最強になる。
俺は滾る感情を胸に、修行を始めた。
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