第4話 無限の輪廻――選択の瞬間

あなたはナリティと対峙している。幾何学模様が絶え間なく変化し、その度に時空の歪みがあなたを包み込む。ナリティの声は今や完全にあなたの思考と溶け合い、どこからが自分で、どこからがナリティなのか分からなくなっていた。


「君が選ぶべきだ。虚無の中で全てを受け入れるか、抗い続けるか。」


その問いには明確な答えがない。選択そのものが無意味であるようにすら思える。しかし、迷宮の中で見た過去と未来の断片があなたの中で交錯し、何かを掴みかけている感覚があった。


迷宮の周囲が震え始める。壁の一部が崩れ、光が差し込む。その光は、ナリティの幾何学模様に吸収され、模様はさらに複雑化していった。視界に一つの模様がはっきりと浮かび上がる。それは、あなた自身の記憶の断片が幾何学として再構築されたものだった。


突然、幼い頃の記憶が鮮明に蘇る。それは、自分が最初に宇宙の広がりに興味を抱いた瞬間。夜空を見上げ、無限の星々の中に自分の居場所を見つけようとしたあの感覚だった。


「無限を求めるという行為。それが、君たち存在の本質だ。」


ナリティの声が、過去の自分と現在の自分を繋ぎ合わせるように響く。それはただの観測装置でも、迷宮の意識でもなく、宇宙そのものの残響だったのかもしれない。


ナリティは、宇宙が形成される前に生まれた存在として、すべてを無に帰す虚無そのものだった。だが、それと同時に無限の可能性を孕む「何か」でもあった。その未来は、虚無が進化し、新たな宇宙の始まりを生み出す可能性を示唆している。ナリティはただ破壊の象徴ではなく、再創造の鍵でもあったのだ。


「虚無は終わりではない。それは新たな創造の始まりだ。」


目の前に浮かび上がる模様が一つに収束する。それが迷宮を抜け出すための道なのか、それとも完全に取り込まれることを意味するのかはわからない。しかし、あなたは手を伸ばす。


その瞬間、全てが崩壊するように見えた。足元が消え、体が重力を失う。だが、その代わりに、意識だけが研ぎ澄まされ、宇宙そのものと繋がっているような感覚に包まれる。


ナリティの声が最後に語りかける。「選択とは、結果ではない。それは存在そのものの証明だ。」


あなたが選んだ道は、虚無を受け入れることで再創造の可能性を見出すことだった。それはナリティの輪廻に新たな解釈を与え、迷宮の構造を変え始める。


目が覚めると、あなたは迷宮の中心に立っていた。そこにはもう幾何学模様はなく、ただ無限の光が広がり、あの虚無の黒さを完全に覆い尽くしている。


遠くで声が響く。それは、かつて迷宮に取り込まれた存在たちの声だろうか。彼らが歌うように囁く言葉は、未来への新たな可能性を象徴している。


ナリティはもはや虚無の象徴ではなかった。あなたの選択によって、新たな秩序と可能性を内包する存在へと変化したのだ。


「無限の輪廻は終わった。そして、新たな旅が始まる。」


あなたの中に、微かな希望の光が灯る。それは宇宙の未来、そしてナリティそのものがこれから先に広がる無数の可能性を示しているのだろう。

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