第1章 第4話:「夜の訪問者」

心地よい音楽とコーヒーの余韻に浸る彩花は、ふとカフェの奥の席に視線を向けた。そこには、静かに本を読んでいる一人の女性が座っていた。落ち着いた仕草でページをめくる姿に、どこか特別な雰囲気を感じる。


「あの方、常連さんですか?」

思わず店主に尋ねると、彼は柔らかく笑って答えた。


「ええ、毎週この時間に来て、本を読むのが日課なんです。」

「なんだか素敵ですね。こんな遅い時間なのに、ここに来る理由があるなんて。」


店主は少し考えるように目を伏せ、それから静かに話し始めた。

「このカフェには、夜だからこそ訪れる人が多いんです。忙しい日々の中で、一息つける場所を探している人たちがね。」


その言葉に、彩花は自分も同じかもしれないと思った。特に目的があったわけではないのに、ここに引き寄せられたのは、日常の喧騒から逃れたかったからかもしれない。


その時、奥の女性がそっとカウンターに近づいてきた。読んでいた本を閉じ、店主に「ごちそうさま」と声をかける。会話は短いが、互いに信頼し合っているような空気が漂っていた。


彩花はその光景を眺めながら、このカフェが持つ不思議な魅力を少しずつ理解し始めていた。ここでは、言葉がなくても心が通じ合うような、そんな特別な空間が広がっているのだと。


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