『輝く銀河系の彼方から来しトラベラー』ー古のタビ人―

設樂理沙 

第1話 ◇幸せって


1


◇幸せって


昨日までのあたしは、平凡ながらも幸せだった。

大恋愛の末、結婚をした知紘ちひろとの暮らしに。


……なのに、たった一日でグルリンパっとあたしの幸せが

ひっくり返ってしまった。それはものの見事に。


こんなことって、ある? びっくりし過ぎて涙も出やしない。

それは……ほんの小一時間ほど前の出来事。[今は夜時間]


知紘が珍しく酩酊状態に近いぐらい酔っぱらって帰宅。

ドアを開けるなりいきなり、トーク炸裂。


「ねね、聞いてぇー。うひひ、俺ってなんでこうモテちゃうんだろねー」


「チーちゃん、気をつけて。こけそうだよ」


知紘が片手を壁について、靴を脱ごうとしているんだけど、

身体がふらついていて危うい。それでも話は止まらない。


「俺さぁ~、田中真知子さんからデート誘われたんだぜ。

あーっ、モテてごめんねっ。うひひっ。

あっ、おいっ、そこのおばさん、嘘じゃないぜっ。

信じてないなぁ~。ちよっと待ってみ……」



くだらないことを言いながら知紘がふらふらしながら

ポケットに手を突っ込む。


出してきたのは小さなカードのような名刺。

「これ、見てー」

私に手渡してきたので仕方なく名刺を見た。



『田中真知子』と保険会社の社名入りの名刺だった。

確かに知紘の言う名前と一致している。


『そんな女とどこで知り合ったのよ』

知紘に聞きたいわけじゃないから訊かない。



知りたいのは本当だけど。

名刺からして、彼女の営業絡みというのはおよそ察しはつくけども。


だけど今日は野球のサークルからのご帰還なわけで、どいうこと?

 って思うわけよ。


会社に来て会ったというのでないのなら、野球の練習している場所に

彼女が来てたってことになるわよね。



「はい、はいー。見た? じゃっ、も……返してっ。

彼女さぁ、むちゃくちゃ俺好みなのよー。ドストライクぅ~」


『はぁはぁ、さようでございますかっだわさ』

ここまではギリ許容範囲だった。



「んとにな、古女房とは比べ物にならんっ。あははははーっ。

真知子ぉ~、スキっ」

そう言いながら知紘は名刺にキスをした。



『ぎゃあ~、阿保タレがっ、なにを……』


「ねねっ、ちょ、聞いてるぅ? おばさん」


「おばさんって誰やねん」

私が訊くと、ちゃんと反応する知紘。

いらんところ反応しなくてよろしっ。


知紘が私の顔の前に指を突き出して、ちゃんと私を指しやがった。


フンっ。


「ねねっ、旦那が綺麗な女性ひととデートしたら

奥さんって怒るのかな?」


「普通はね」


「俺は行くよ、デート。彼女と行く。

美鈴に邪魔なんてさせねぇー。コンチクショウ、古女房に発言権なしっ。


そうだ、捨てればいいんじゃないか。

古女房はポイっだ。

俺は真知子ちゃんと結婚するー」



そう宣言して知紘はヨロヨロと寝室へ消えていった。


―――――――――――――――――――――――


表紙画像


 自作AI生成画像

金星人だった頃の綺羅々と薔薇美鈴

https://kakuyomu.jp/my/news/16818093092798013116


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