1.策謀(2)
魔王様が口角を歪め、邪悪な笑みをその顔に浮かべながら声高らかに宣言したその時だった。
万眼鏡の向こう側にて、賢者がこちらを真っ直ぐに見詰めた気がした。
冷ややかな眼差しが鏡を通り抜け、広間へと押し入ってきたように感じられた。
その直後、鏡に映る彼等の姿はふっつりと消え失せてしまったのだ。
「あぁぁぁぁ?!
何だぁゴルァァァ?!」
機嫌がようやく収まりかけていた魔王さまは、再び烈火の如く怒りを露わにする。
怒りに任せて玉座の肘掛けを拳にてガンガンと蹴り付ける。
身体を纏う薄紫のオーラが炎の如く膨れ上がったように感じられた。
私は気取られぬように小さく溜息を吐く。
恐らくだが、あの賢者めは魔王様の万眼鏡の術を感知したに違いない。
そして、その術を打ち消すべく何かしでかしたのだろう。
実に小賢しくて、全く以て不愉快な輩だ。
ギリギリと歯噛みした魔王様は、怒りに滾る視線を私へと向けながらこう命じてきた。
「おぃ、
これ以上、奴らを調子に乗らすんじゃねぇ!」
そこで一度言葉を切った魔王様は、顎に手を当てて暫し黙考する。
そして、
「そうだな……。
まずは、あの色ボケ勇者どもの実力を探れ!
ここはアレだ、四魔侯の誰かに威力偵察へ行かせろ。
ガルゴスみたいな半端者を行かせると返り討ちに遭うだけだからな」
『
四魔侯か……。
そして、
四魔侯の面々を思い浮かべていると、己の表情が渋くなりつつあるのが分かった。
あの連中ときたら説得するのも一苦労なのだ。
魔王様直属の精鋭であって
我儘であったりマイペースであったり、はたまた無闇矢鱈とネガティブであったり。
胸に抱く苦衷はさておいて、私は魔王様にこう言葉を返す。
「承知致しました。
早々に、四魔侯を向かわせます」
そして、一呼吸置いてからこう尋ねてみる。
「ときに魔王様。
四魔侯の中で果たして誰が適任か、ご智恵などございますでしょうか?」と。
私が誰かを呼び出して『威力偵察』に行けと命じてみても、嫌だとか気が乗らないなどとゴネてみたり、或いは偵察などでは生温いと我儘を言い出すに決まっているのだ。
どうせなら、誰を行かせるかくらいは魔王様に決めて頂きたい。
そうすれば、『魔王様のご指名なるぞ!』と最終的には押し切ることも出来よう。
魔王様は私が発した愚問を「フン!」と嘲笑い、ニヤリと微笑んでから或る者の名を口にした。
私はその時、驚きの表情を浮かべていたのだろう。
魔王様の口から出た者の名は、私の予想とはまるっきり異なるものだったのだ。
顔に浮かぶ邪悪な笑みをいよいよ深めた魔王様は荒っぽく玉座へと腰掛け、「ヒヒヒッ!」と妖しげな笑い声を上げながら如何にも愉快そうな面持ちにて視線を巡らせ始める。
あぁ、これは絶対に何事かと企んでいる顔だなと私は心中にて溜息を吐く。
取り敢えずは魔王様ご指名の者を呼び出して『威力偵察』を命じることにするか。
きっと散々にゴネるだろうけれども、怒りを滲ませれば最終的には従うだろうと思いつつ。
彼方から地を震わせるかの如き雄叫びが響き来る。
腹を空かせた闇獄龍が何処かで喚いているのだろうかと思った。
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